うちには2歳になる飼い猫、Zero(メス)がいる。 小さい頃はあまり食べなくて、それが心配で食事中、いつも眺めていたのだが、 いつの間にか、Zeroがダイエットをしている今でも(つまり食べさせすぎだったのだ)、眺める癖がついてしまった。 1日4回。 家にいる時は必ず、どんなに締切が迫っていても、餌をやり、Zeroの食べる姿を眺める。 所詮、頭脳労働。Zeroを眺めながらアイディアを練ればいいではないか、 なんて、頭の中で言い訳しつつ、その実、ほぼ何も考えていない。 何も考え
先日、伊香保で温泉旅館の若旦那をやってるイトコに、今度公開する映画のチラシを渡したら、「脚本家って何やるの?」と真顔で聞かれた。 こういう時私は、自分が生きている場所が、世界のほんの小さな片隅でしかでしかないことを思い出して、なんだかホッとしてしまう。 「脚本家はお話を考えたり、セリフを書いたりするんだよ」とかなり端折って説明すると、彼は「それはすごいね」と率直に感動してくれた。 私も旅館の若旦那ならでは苦労話などを聞きいたりして、楽しいひと時を過ごしたのだが、ふと、小さな
2012年11月。 夏休みと言うには遅過ぎるが、今年は旅行してないし、クマとどこかに行こうという話になって、石巻〜気仙沼の車の旅に行って来た。 十年以上前、気仙沼の美術館で画家の友人と一緒に展覧会をやったことがあり、その美術館の一部再開の情報を知ったのが、きっかけだった。 その、気仙沼のリアス・アーク美術館には、山内宏泰さんという学芸員がいて、彼に会うということが、この旅の一番の目的だった。 旅の途中で海岸線沿いに見た風景については、とてもここにまとめる自信はないので割
目を覚ますと、辺り一面、白い壁に囲まれていた。 ぼんやりした意識のまま、おそらく天井だろうと思われる目の前の白い壁を男が見つめていると、視線を察知したのだろう、その壁に自動的にモニター映像が映し出された。 「私はあなたの担当医のライラです」 画面上に現れた白衣の女性はそう言うと、医者であることを証明する、I.D.証を、男にわかるように、しっかりと提示した。 どうやらここは、病院らしい。 男は安心し、ゆっくりと起き上がった。天井の映像も男の視線に合わせ
私の母は、孫にレイちゃんと呼ばれている。 親元を離れてからすでに長い年月が経ち、もはや母娘というより、一人の人間として接する機会が増えたせいか、私も時々彼女を、頭の中でレイちゃんと呼んでいる。 よく役職が人格を作ると言うが、呼称もひとを作るのだろう。 80歳を過ぎた彼女は、「おばあちゃん」と呼ばれることの似合わない、 「レイちゃん」というひとりの老人になった。 数年前、そんなレイちゃんと2人で、京都旅行に行った。 前年に父が亡くなり、親戚の集まりに行くのに、平日、自由がきく