The City『Now That Everything's been Said』(ODE Z12 44012)
アメリカン・ポップスの名曲製造機でかつ最高のシンガーソングライターでもあるキャロル・キングがソロアルバムをリリースする前に一瞬組んでいたバンド、ザ・シティが1968年にリリースした唯一のアルバムです。当時日本では発売されませんでしたが、1993年に世界初CD化されたときに『夢語り』という邦題がつきました。その後の大名盤『つづれおり』を意識した感じの邦題がいいですよね。
ザ・シティは、ニューヨークからロサンゼルスへ活動の拠点を移したキャロル・キングと、のちに夫となるベーシスト、チャールズ・ラーキー、そしてギタリストのダニー・コーチマーの3人で結成されたバンド。裏方である作家稼業からソロ歌手へ転身することにいまいち自信が持てなかったキャロルのために、とりあえずアーティストになっておきましょうよ、ソロが不安ならまずグループでどうよ?……というくらいの感覚で結成されたバンドだそうです。ドラマーがいないので、このアルバムではゲストとしてジム・ゴードンが招かれています。プロデューサーはその後もソロ作品でもバックアップすることになるルー・アドラー。やはりステージでの生演奏に不安のあったキャロルは演奏活動に消極的で、結局このアルバム1枚でザ・シティは終わってしまいます。その後、いよいよ腹を決めたキャロルはソロ・アーティストとしてのレコーディングに入り、1stアルバムの『ライター』、そして2ndアルバムの『つづれおり』を生むことになります。
表に立ちたがらないキャロルのためのバンドですので、内容は実質的にキャロルのソロみたいなものです。ダニーが歌う曲も一応ありますが、ほとんどのリード・ヴォーカルと作曲はキャロル。他のアーティストに提供した曲のセルフカヴァーも収録されています。A面5曲目の「Man Without a Dream」(夢のない男)はライチャス・ブラザーズに書いた曲のセルフカヴァーで、ヴォーカルはダニー。男性向けの歌ですし、キーも低いので彼ということになったのでしょう。個人的にはモンキーズのアルバム『インスタント・リプレイ』でデイビー・ジョーンズが歌うバージョンが好き。でアルバムは「Snow Queen」はロジャー・ニコルス・トリオ(スモール・サークル・オブ・フレンズ)への提供曲からスタート。この曲はブラッド・スウェット&ティアーズ(BST)やアソシエイションもやっています(なぜか大所帯グループばかり)。「I Wasn't Born to Follow」は『名うてのバーズ兄弟』でバーズが先に歌ってます。こうして見ると楽曲はセルフカヴァーはすでにこの頃別れていた元パートナーのジェリー・ゴフィンとの共作、新曲はソロ時代もキャロルとのコンビで名曲を書き続けたデヴィッド・パーマーとトニ・スターンとで書かれています。
新曲ばかりのB面は「My Sweet Home」のみ、アンジェリック・ゴスペル・シンガーズのマーガレット・アリスンの作品のカヴァー。そして「That Old Sweet Roll (Hi-de-Ho)」はその後多くのカヴァーを生みました。やはりBSTのバージョンが一番有名でしょうか。カーラ・トーマスやクリス・コナーも歌ってます。最後は別れてからも共作をしていたのか、過去のストックから出してきたのかジェリー・ゴフィンとの共作「All My Time」で幕。
レーベルは白でサンプル盤?のように見えるのですが、実はこれ、カウンターフィット(本物に似せた海賊盤)だと言われています。本当のジャケットはカラーで、CDやレコードで再発されるときも常にカラーでした。それまでCBS(日本ではソニー系)からディストリビュートされていたオードレコードが、1969年頃からA&Mレコード(当時の日本ではキングレコード)に鞍替えすることになり、それほど売れぬまま廃盤になってしまったのだそう。そしてキャロルがソロでブレイクすると「幻の名盤」のような存在として知られるようになり、その需要を満たすために白黒ジャケットの海賊盤が広く出回ってしまった……ということらしいのです。確かにここ日本では白黒ジャケットのほうをよく見かけます。本物のカラージャケットのオリジナル盤は確かに高いです。
https://www.discogs.com/ja/release/2635477-The-City-Now-That-Everythings-Been-Said
ところが、Discogsを見るとそれに異議を唱えている人が何人かいます。「当時、店で売っているのを見た」……これはどうかな。だったらレーベルは白くない通常レーベルのものがあってもいいのでは?
「ニューヨークのラジオ局で働いていた親戚からプロモ盤をもらった」……プロモ盤もあるにはあったのでしょうけど、プロモ盤にしては数が出回りすぎでは?
「バンドのサインが入った盤を見たことあるんだけど!」……3人とも解散後も大活躍しているので、海賊盤を渡してサインをもらったのでは?
そんなわけで信憑性はありそうでないような、なさそうであるような感じですが、でも実際に手に取ってみるとジャケットの作りはしっかりしているし盤質も海賊盤にしてはやたらと良いんですよね。本物だったらいいなぁ……。
ちなみにタイトル曲の「夢語り」は1971年にブライアン・ウィルソンの妻(当時)のマリリンとその姉のダイアンのユニット、アメリカン・スプリング(要するにハニーズから1人減っただけ)がカヴァーしていて、それも素晴らしい出来です。でもサブスクには入っていない。残念……!
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?