The Beatles『Rubber Soul』の再発アメリカ盤LP(Apple/Capitol ST-2442)
ビートルズの名盤『ラバー・ソウル』のアメリカ盤LPです。1987年にオリジナルのイギリス盤の曲目でCD化されるまで、アメリカでは基本的にこちらのほうがポピュラーだったようです。微妙にジャケットのロゴの色が元のイギリス盤よりも薄くて茶色っぽい色になっていますが、収録内容はさらに変わっています。すごいですよ。上にある「NEW IMPROVED FULL DIMENTIONAL STEREO」のロゴの下の部分が少し、上から貼り付けられたジャケットで隠れてしまっています。うーん仕事が雑!
全12曲は単に「オリジナル盤より2曲少ない」ということではなくて、「Drive My Car」「Nowhere Man(ひとりぼっちのあいつ)」「What Goes On(消えた恋)」「If I Needed Someone(恋をするなら)」の4曲が外され、「I’ve Just Seen A Face(夢の人)」「It’s Only Love」の2曲が追加された12曲入り。オリジナルから4曲減って、前作『Help!』のB面から2曲追加ですからだいぶ印象が変わります。
レーベル
だいたいA面1曲目から「I’ve Just Seen A Face」です。シブすぎです。例えば、「No Reply」で始まらない『Beatles for Sale』、「Taxman」で始まらない『Revolver』。そんなものがあったらけっこうあり得ないと思うのですが、「Drive My Car」で始まらない『Rubber Soul』は割といけますね。アルバムジャケットの背景にある「森」の感じがより強いというか。ちなみに「The Word(愛のことば)」はアメリカ向けの別ミックスで、途中のジョンのヴォーカル・ソロがダブルトラックになっています。エンディングのフェードアウトも微妙に長くて、「ジャーン!」と演奏が終わるところがかすかに聴こえます。個人的にはこちらのミックスのほうが好き。
B面1曲目は「It’s Only Love」。これまたシブい。そして「What Goes On」はないので、『Rubber Soul』からリンゴのヴォーカル曲がなくなってしまいました。ジョージの曲も1曲だけです。「I’m Looking Through You」はイントロを2回失敗してやり直す部分がそのまま入った謎編集バージョン。聴きながら「今日の『ラバー・ソウル』はなんか進行が早いな?」と思っているうちにラストの「Run for Your Life(浮気娘)」に差し掛かり、さっさとアルバムは終わってしまいます。
プレス時期とプレス工場の特定
レーベルの周りに掘られている文字やマークなどを手がかりにしてDiscogsで調べてみると、どうやらこのレコードは1971年に再発されたもののようで、プレス工場はロサンゼルスとのこと。それでも特徴が完全に一致するプレスは見つからなかったので、中身のレコードだけ別のプレスに入れ替えられたのか、それとも未確認のプレスなのか(流石にそれはないか)。もしB面のレーベルの下の部分にキャピトル・レコード関係のクレジットがズラッと印刷されていたら1971年のロサンゼルスで間違いないんですけどね。プレスされた時期やプレス工場の場所によって音もかなり違っているらしいのですが、そこまで行くと本当に沼すぎるのでそこまでは立ち入りません。でも、どれでもいいから1枚聴いてみると、とにかくアメリカ盤特有のサウンドがどんなものかわかります。クリアな感じはなくて、音がやたらでかい。それと、あんまりプレスの品質が良くないと言うか、別に盤面に大きな傷があるわけでもないのにやたらとノイズが出たりとか。曲が始まってしまえば気にならないですけどね。
名盤『ペット・サウンズ』に影響を与えたのは…?
ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンが『ラバー・ソウル』を聴いて、「我々ももっと良い作品を作らねば…」と決意し『ペット・サウンズ』が生まれたという話は有名ですよね。この時ブライアンは、イギリス盤とアメリカ盤のどっちの『ラバー・ソウル』を聴いたのだろうか? という話がよくマニアの間で議論になります。ビーチ・ボーイズはアメリカのバンドだし、その上キャピトル・レコード所属のグループだったわけで、「普通に考えたらアメリカ盤だよね」という話ですがどうでしょうか? いくらアーティスト同士が意識し合っていたとしても、同じタイトルのレコードをわざわざイギリスから輸入して聴くか? という気もします。結局決め手になる証拠がないのでハッキリしたことは言えないわけなんですが、雑誌『Rolling Stone』のインタビュー(2013年)でブライアンがこのアルバムのことを「フォークソング集」だと言っているので、たぶんアメリカ盤ではないでしょうか。実際、アコースティックな曲が追加されたおかげで、イギリス盤よりもフォーキーな雰囲気になっているんですよね。「Wait」は前作のセッションでボツになっていた曲に手を加えたものだし、実際に聴いてみると『Help!』の収録曲が混じっていてもそれほど違和感はないです。
日本では1970年にアメリカ盤のジャケット・曲順でいくつかのタイトルが「アメリカ・オリジナル盤」として初リリースされましたが、このアメリカ仕様の『ラバー・ソウル』は日本では出なかったので、レコードで聴きたい人はアメリカで出回っていたこのレコードを探すしかありません。もちろん1960年代当時に出ていたレコードはけっこう今では価値がついておりますが、今回ご紹介したアップル・レーベルの再発盤なら割合安く簡単に手に入ります。イギリス盤の『ラバー・ソウル』をレコードで持っている人も、ぜひお手元にどうぞ。こっちもなかなかいいですよ。
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