映画やアニメなどの音楽を手がける「劇伴作家」の仕事とは?【多田彰文先生対談#3】
今回も前回に引き続き、有名映像作品の音楽を手掛ける作曲家の多田彰文先生と、サックスプレイヤー、沢井原兒先生の対談をお送りします。
多田先生は、茅原実里、中川翔子をはじめとするアーティストのサウンドプロデュース、また劇場版ポケットモンスター、クレヨンしんちゃん他、アニメやドラマ、ゲームなどの背景音楽を手掛けられています。
対談では、多田先生が今のお仕事に至るまでの経緯や、普段中々知ることができない、「映像に音楽をつける」というお仕事についてお話を伺っていきます。
ぜひ最後までお楽しみください。(以下、敬称略)
【対談者プロフィール】
多田 彰文(タダ アキフミ)
作・編曲を手使海ユトロ氏、指揮法を大澤健一氏に師事。日本大学文理学部在学中より音楽活動を開始。
茅原実里・中川翔子など歌手・アーティストのサウンドプロデュース・編曲などを手がける。アニメーションでは「魔法つかいプリキュア!」ED主題歌作曲をはじめとするプリキュアシリーズを編曲。劇場版では「ポケットモンスター」「クレヨンしんちゃん」などの背景音楽を作曲。ゲームでは「ガンパレードマーチ」など「爆・ボンバーマン64」を作曲。また、YouTube動画再生が500万回を突破・新海誠監督の Z会CM「クロスロード」では編曲のほか作詞をも手がける。作曲のみならず様々な楽器の演奏・指揮者・司会者までもこなす。
沢井原兒(サワイ ゲンジ)
20代より多くのジャズバンドに参加。
アルバムのプロデュースは40枚を超える。
矢沢永吉/RCサクセション/鈴木雅之/加山雄三/今井美樹/米倉利紀/REBECCA/中村雅俊/上田正樹/シーナ&ロケッツ/吉川晃司/小林克也 他、Stage Support / Produceを行う。
インストラクターとしてはヤマハ、音楽学校メーザー・ハウスなどで40年以上。現在は株式会社MOP代表、IRMA役員。
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沢井:先生はポケモンだったり、クレヨンしんちゃんだったり、アニメの音楽を提供されていますよね。
今の若者もアニメの音楽をやりたいっていう人は多いじゃないですか。
そういう意味で言うと、先生は先駆けだと思うんですよ。
でもそのお仕事っていうのは、そんなに簡単な話ではないと思うんです。
ストーリーのある映像に音楽をつけるということは難しい部分もたくさんあったと思うのですが、その中でも特に難しかったところを教えていただけますか。
多田:終わりの形が多様すぎるというところですね。
歌ものの楽曲は、起承転結があり、音楽用語でいうとしっかり終始をしますよね。
もちろん未終始で終わるものも中にはありますが、劇伴は終わりの形が多岐に渡るんです。
例えばほっぽりっぱなし(ぶち切れ)で終わる場合もありますし、とにかく百種百様で、タイムも一定していないですからね。過去に僕が作った中では最短8秒、最長9分というものもありました。
沢井:そのバリエーションすごいですね!
多田:それからラップタイムもありますからね。例えば、最初から16秒まではゆったりした雰囲気で、16秒から3秒間で「気づき」があって、そのあとバトルに入るとか。それはトータルは6分なんですけど、延々とフィルムスコアリングだとラップが切られてるわけですね。
それは歌ものにはないですよね。
沢井:なるほど、そのタイムに合わせなきゃいけないってことなんですね。
多田:もちろん分けて作っても良いんでしょうけれども、フィルムスコアリングですとその流れですね。去年やった「SUPER SHIRO(スーパーシロ)」というクレヨンしんちゃんのスピンアウトの作品は、5分のアニメ作品の中の4分くらいは、ずっとフィルムスコアリングなんですね。それも「最初の30秒はこうで、次からはこう」みたいなもので。
動画をDAW に取り込んでコツコツと合わせていく感じで作業していくわけです。
沢井:アニメとか映像に音楽をつけるということに対して言うと、プロデューサーから「こういう感じで作ってほしい」というリクエストがあるとは思うんですが、それは文章で来るものなんですか、それとも口頭で言われるんですか。
多田:文章、口頭、そして場合によっては参考曲の3パターンですね。
沢井:なるほど、絵コンテみたいなものはあるんですか。
多田:もちろん、頂きます。
沢井:絵コンテもあって、脚本もあるということでしょうか。
多田:脚本は脚本で別にト書きがあるので、状況を知る上では脚本を読み込みます。あと実際に製作をする段階ではコンテ撮影ですね。
コンテをラフにつなぎ合わせた動画なのですが、アニメの場合にはそれがあります。
実写の場合は主に動画を先に撮るので、ほぼ出来上がっている動画を渡されます。
例外としては、脚本だけで先行して音楽を作るということもまぁまぁあります。
沢井:いろんなパターンがあるということですね。最終的にこの形でオッケーというのを決めるのはやっぱり監督ですか。
多田:監督であり、音響監督であり、場合によってはプロデューサーですね。
沢井:ということは、その人たちの意向によって変更もあるわけですね
多田:もちろんあります。
沢井:大体、映画で多い場合だと曲は何種類くらい作るんですか。
多田:アニメの劇場版で大体60曲ですね、多いと80曲くらいです。
シリーズだとワンクールで、40曲くらいですね。
沢井:なるほど。どのくらいの期間で作るんですか。
多田:劇場版だと平均1ヶ月ですね。60曲とすると、1日あたり2曲作っていることになりますね。
沢井:大変ですね!
多田:たださっき申し上げたようにバリエーションが8秒から9分まであるので、我々はよくタイム数で考えますね。トータルタイム何分という形で。
現場の録音で指揮を執っていく時も、僕は「時間12分」っていう基準を自分の中に設けているんです。
1時間中に大体タイム12分で進めていくということです。
単純に曲のタイムの合計が12分だとしたら、1回目リハーサルでそのあと1回目の本番だとしても合計24分かかりますよね。
そこにアティキュレーションの指示だったり、音楽性の指示をしていくと、その3倍と考えて36分。
最初の曲っていうのはサウンドチェックも入りますので最初の1時間っていうのはやっぱり時間がかかりますよね。
1時間ごとの休憩などの時間も含めると大体「時間12分」っていう値が出てくるわけです。
沢井:なるほど、私も昔スタジオミュージシャンをやっていたので映画音楽の仕事もいっぱいやったんですよ。
その時に、指揮の人はストップウォッチ持っていてそれを見ながら指揮をしていたんですけど、いまだにそうなんですか。
多田:今はクリックで縛ってるのでほとんど無いですけれども、でも2年前に一度ストップウォッチっていうのもやりました。
クリックなしの現場で、しかもスコアにテンポすら書いてないというものでしたね。
要するに、「この8小節を30秒」とかそういう区切り方をしているので、そこからおおよそのテンポを計算してストップウォッチを見ながらやっていくという方法ですね。
沢井:そうですよね、その当時は「指揮の人、大変だなぁ」と思っていました。
多田:僕も尊敬する代棒指揮の方は権威ですね。
スペシャリストで、ピタッとタイム合わせてくるんですよ。
沢井:すごいですね。そういう人は音楽を作るというよりも、どうやってまとめるかというのが仕事なんですよね。
多田:そうですね。その方も元は作曲家でありましたが、そういうニーズが多いというのと、彼がその部分に長けていたというところですね。
僕は作曲の仕事をする傍らそういう先生方にお世話になっていたんですが、当時かなりご高齢でもあったのでその下の人がいなかったんですよね。
それで「ひょっとして僕、これ向いているのかな」って思って、国立音大の指揮の先生に改めて習って直談判したんですよ。
「この分野、将来空くと思うのでこの仕事やりたいです」って。
それでやって、20年経って今に至るわけですよね。
沢井:そういう代棒指揮者の方っていっぱいいらっしゃるんですか。
多田:何名かいらっしゃいますが、数える程度ですね。
沢井:そうですか、そういう部分でもマルチにやっていらっしゃるっていうのはすごいですね。
多田:いや、うちの社長にも言われましたよ。「よくこの隙間を見つけたな」って。
沢井:でもそれって無くならない仕事のような気がしますけどね!
多田:今は割と指揮者を立てずに、コンサートマスターというかヴァイオリンのトップの方にお任せして、作家はコントロールルームからリアクションするっていう形が主流になってきているからなかなか昔に比べたら呼ばれる機会も減りましたけどね。
ただ昔とちょっと役回りも変わってきているんです。
例えば、ストリングスで大編成になるとやはり中で取りまとめる人が必要になってくるんですよね。プレーヤーってやっぱり演奏に集中したいじゃないですか。
そうなってくると返事するのも鬱陶しいじゃないですか。
作家とかクライアントの指示は皆さん聞こえてるんですけど、それに対していちいち返事をしていると、正直な話、その返事だけでも1秒のタイムロスがあるんですよ。
劇伴っていうのは本当に秒で切っていかなきゃいけない仕事なので、できるだけ円滑に進むようにそういう意味でも橋渡し役なんですよね。
僕が返事をして進めれば、そこで何か疑問があったら演奏者は次の疑問からスタートできるので、多分そういう役割なんじゃないかなと思います。
沢井:なるほど、素晴らしいですね。
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いかがでしたか?
今回は多田先生に、劇伴の奥深い世界をとリアルなお仕事の仕組みについて語っていただきました。
テレビや映画を観ている時など劇伴を耳にすることは多いですが、実際にどのように制作されているのかということはあまり知る機会が無いので、とても貴重なお話を聞かせて頂いたと思います。
普段観ている映像作品も、これからは今までとはまた違った角度から映像と音楽の世界を楽しむことができそうですね。
さて、次回はいよいよ最終回。
映像音楽の世界を目指す人に向けてのアドバイスなどもお伺いしていきます。
お楽しみに!
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