《朱色と輝く青.》
祖母との旅は、久しぶりだった。
九十を過ぎた彼女と出かけることは「もう難しい」といつからかあきらめるようになっていた。それでもまだ歩ける姿を日々みていたら今のうちにという想いが湧き上がってきた。
向かったのは、京都。
坂の多いこの街を歩いてもらうのは申し訳ないという気持ちと、素敵な景色をみせてあげたいというそれがせめぎ合う。
清水寺の階段。馴染みのない土地もでこぼことした石段も彼女にはこわかったようで、ずっとわたしの腕に腕を絡ませていた。
そういえば、子どもの頃の家族旅行ではわたしの方が祖母につかまって歩いていた。少しでも姿がみえなくなると「おばあちゃんどこ行った?」と目をうるませてきょろきょろした。
階段をのぼりきって後ろを振り返る。歴史ある朱色の門の中に青く輝く京の街が広がっていた。
「きれいだね」と言葉をかけ合う。その一言で感動の全部をわかち合える袖摺れなわたしたちの旅の始まりだった。
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