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待ち合わせ 【ショートショート】

高揚感と緊張感が身を包んでいる。この感覚は久しぶりだ。
まだ結婚していなかった時を思い出す。
あの頃も僕の方が先に待合せ場所に着いて彼女を待ってばかりだった。
今日も自分なりに精一杯めかしこんできたつもりだが、不恰好になっていないだろうか。

大きい橋の入り口で妻の美咲さんを待っている。
人通りもそれなりにあり、多くの人が橋を渡っていっている。
普段は周りの人間など気にしないが、待ち人を探しつつ人間観察をしてしまう。
中には自分と同じように、橋の入り口で立ち止まっている人いるようだ。
美咲さんよりも早く到着したつもりだけど、歩いている人の中から彼女を見つけられるだろうか。あるいは、彼女は見つけてくれるだろうか。
彼女はちゃんときてくれるだろうか。

「あなたも待合せなのかしら」

すぐ隣に立っていた女性が話しかけてきた。
40代ごろに見える。

「ええ、妻を待っているんです」
「あら。私も旦那さんを待っているの。待ち合わせって緊張するわよね」

女性は落ち着いた雰囲気の中にも、意中の人に会えるためか、どこか興奮した様子だった。

「あー、わかります。自分もなぜだか緊張しちゃって……。
 結婚前は当たり前のように待ち合わせしていたはずなんですけど、なんだか特別な気持ちになっちゃいますね」
「ふふ、そうよね。いざ会えるとなると舞い上がっちゃう。
 早く会いたいはずなのに、まだきてほしくないって思っちゃうわ。
 私の旦那さんはのんびり屋さんだからきっとゆっくり来るはずなのよ」
「そうなんですか。僕はすぐにでも会いたいって思っちゃってます。
 早くきてくれないかなって。」
「そんなに急がなくてもいいじゃない。待つ時間も良いものよ。
 私は彼との思い出を振り返りながら、ここでずーっと待ってるの」

その時だった。

「紀子さんですか」

震える声で話しかけてきたのは白髪で腰も曲がっている男性だった。
一歩一歩は小さいものだったが、女性の姿を真っ直ぐに捉えしっかりとした足取りで近づいてくる。

「勇さん……。会いたかったわ」

女性の声も震え、涙が今にも溢れそうになっている。
先ほどまで会話していたはずの僕だったが、ふたりの世界に居場所はなかった。

「私もです。やっと会えました。ずいぶん会うのが遅くなりましたね。
 ……相変わらずお綺麗です。」
「ふふ、ありがとう。あなたも素敵ですよ。」

手を繋ぎ、歩き出すふたり。

「紀子さん、話したいことがたくさんあるんです。
 誠は素直に育ってくれて、家庭を持ってくれましたよ。
 綺麗な嫁さんに似た、私たちの孫だっているんです」
「それはよかった……。あなたたちには申し訳なかったわ……。」
「そんなこと、かまいませんよ」
「そういえば、あの子も待っておけばよかったかしら」
「別にいいと思いますよ。誠にも家族がいるし、第一、誠を待っていたらいつになるか。向こうでいつか会えますよ」

そんな会話をしながら夫婦は手を繋ぎ橋を渡っていった。

羨ましい、と思った。
僕と美咲さんも、あんな夫婦になれているだろうか。
彼女たちとは違い、僕らには子供はいないが、僕と美咲さんはすぐに会えるはずだ。

僕も美咲さんを待つ間、思い出を振り返ろうかな。
僕らが出会った頃。
僕らが付き合った頃。
僕らが結婚した頃。
どんな時を思い出しても、僕にとっては宝物のような日々だった。
彼女がいてくれるおかげで僕の人生は輝いていたし、彼女と過ごすことが僕の人生の全てだった。
だからどんな時でも、どんな場所でも僕は彼女と一緒にいたい。

そんなことを考えながら周りを見回す。
いつもと同じ、シンプルなTシャツにジーンズ姿の美咲さんの姿があった。

彼女は彼女で周りの様子を伺っており、
僕の姿に気づくと小走りで駆け寄ってきた。

「拓也くん?」
「美咲さん。無事に会えてよかった。それじゃあ行こうか」
「うん。拓也くん、今日の格好、素敵だね。私なんて普段着なんだけど。」
「ありがとう。美咲さんも十分素敵だよ」

大丈夫だとは言ったけど美咲さん、来るのが遅かったな。
僕のやり方が悪かったのかな。反省だ。
すぐにいけるようにしたつもりだったのに。

「あのさ、変なことを聞くけど、私、どうやってここにきたんだっけ?」

美咲さんの手を握り歩いていく。この手はもう離さない。
時間ならある。それこそ永遠に。
これからもずっと一緒だよ。

僕らは橋を渡って逝く。

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