文字にこだわる大原大次郎のこのMVは、文字空間のジェットコースターだ!(オススメMV #126)
こんにちは、吉田です。
オススメMVを紹介する連載の126回目です。(連載のマガジンはこちら)
今回は、大原大次郎さんの特集をお送りします。
映像の中に歌詞が大きく表示されるMVがありますが、正直私はその種のMVが苦手で、特に最近の日本のアニメ系MVでよく見受けられるものの、一部のMVを除いて再見はほとんどない状況です。
しかし、今回は歌詞による映像表現の可能性にチャレンジされている「大原大次郎」というクリエイターが手掛けるMVの特集となります。
前回まで3回連続でファンタジスタ歌麿呂さんの特集をお送りしましたが、私は原色を多用した映像のMVは苦手なものの、原色を多用するファンタジスタ歌麿呂さんのMVは大好物で、どんなジャンルであっても頂点を極めた作品は素晴らしいという事実を証明しています。
(超オススメのファンタジスタ歌麿呂さんの特集はコチラ⇒第1回のドリアンさん特集、第2回のパラレルワールドMV、第3回の超絶スゴイ神MV)
そして、大原大次郎さんのMVも、更にその事実を証明しているかのような素晴らしいMVとなっていますので、今回皆さんに紹介する次第です。
では、その「映像の中に歌詞が出てくるオススメMV」はコチラです。
HaKUの「everything but the love」です。どうぞ!
白と黒だけの空間に歌詞の文字が様々に形を変えて表現され、その中をジェットコースターのように駆け抜ける...こんなMV見たことありません!
楽曲との連動も素晴らしく、歌詞をメインとしたMVの究極の作品とも言えるのではないでしょうか。
まず最初に、楽曲を手掛ける「HaKU」というグループについて簡単に紹介したいのですが、実はHaKUとのお付き合いはこのMVだけで、グループ自体についてはほとんど知らないというのが実際のトコロです。
2012年に4名のグループとして結成され、既に2016年に解散してしまっているようですが、2014年にリリースされた2ndアルバム「シンバイオシス」に収録されている楽曲が、この「everything but the love」となります。
では、本題の「everything but the love」のMVの話に入りましょう。
真っ白な画面に細い黒い線でタイトルが表示され、続いて黒い線がイントロの音楽に合わせて画面上を走ります。
そして、ボーカルが歌いだすと大原大次郎劇場の幕が開けるのです。
広大な白い空間に表示されるデフォルメされた線描画の歌詞を、ゆっくりと走るジェットコースターに乗りながら追いかけてゆきます。
このまま続くと思いきや、楽曲が変調するタイミングで今まで表示された歌詞の線の中をバックしながら進み、気が付いたら歌詞の表現が線から幾何学模様や立体造形に変化し、それと共に乗っているジェットコースターが猛烈な勢いで後ろに動いていることに気が付きます。
上下左右に揺られながらすごいスピードでバックしている映像を楽しんでいるさなか、急にスピードが落ちたと思ったら、今度は画面がぐるぐる回りだし、どんどん円周が広がっていったと思うと視線が動き、その円弧を上からではなく横から見始めるのです。
円弧に黒い線で表示される歌詞を見ていると、急に白い四角の画面全体に四角形や三角形、L字型などの黒い図形が並び始めます。
頭の中で『えっ...何?』と戸惑った瞬間、「蹴散(けち)らせ」という歌声と当時にそれらの黒い図形が「蹴散らせ」という形に並び、一瞬止まってまた崩れだすのです。(もうこの段階でテンションMAXです!)
ここからは怒涛の進撃が始まります。
今度は前に進むジェットコースターに乗り、ルール無用にデフォルメされた歌詞の空間の中を突き進みます。
しかしっ!まだまだ大原大次郎劇場は終わりません。
驚愕するのは、1分49秒あたりから始まる大宇宙の表現です。
それが如実(にょじつ)に分かるのは1分55秒あたりからのデフォルメされた歌詞が右から左に流れる場面からで、手前に表示される歌詞の遥か彼方の向こう側の上下の真ん中あたりに左から右に線や図形で構成される何かがあるのが分かります。
その上下中央あたりの「何か」が、1分59秒あたりから大きく下に広がり、全体像が見えたときにその下に広がった底辺の部分がぐるぐる巻かれた円弧の図形と分かった瞬間、脳内に衝撃が走るのです。
『これは、さっき見てきたデフォルメされた歌詞なんだ!』
そうです、広大な空間の中に、すべての歌詞をデフォルメした線や図形などが存在しているのです。
まさしく、夜空に広がる天の川が、大きな銀河系の周辺部の星々であるかのように、すべての歌詞が白い広大な空間の中に存在し、それをはるか遠くから眺めているのです。
この事実を認識し驚愕した瞬間、既に映像は切り替わり、黒い世界でのデフォルメされた白い歌詞による表現に変わってゆきます。
黒い世界の表現から元の白い世界に切り替わる映像表現も秀逸です。
そして、白い世界に戻ると、基本的には前半の表現の繰り返しになるのですが、全く飽きることなく最後まで見ることができます。
その理由は、「広大な空間に様々に表現された歌詞が存在している」という世界観を理解させた状態で、今歌っている歌詞を表現している画面の中に、他の歌詞を表現した部分をあえて差し込み、空間の広大さや表現の多様性を感じさせているからなのです。
これに気付いた時には、完全に大原大次郎ワールドに取り込まれてしまっているのです。
この「everything but the love」のMVの素晴らしさは、歌詞をデフォルメした空間をジェットコースターに乗って疾走するという動的な部分だけでなく、広大な宇宙とも呼べる空間の中にすべての歌詞が存在するという世界観の構築が実はスゴイところなのです。
このMVは、文字にこだわった大原大次郎さんと、モーショングラフィックスで有名な井口皓太さんという二人のクリエイターの合作となります。
もちろん、井口皓太さんの凄まじいモーショングラフィックスがなければこのMVは存在しえませんが、注目したいのは大原大次郎さんの文字へのこだわりです。
文字の大きさやフォント、配置や装飾によって読みやすくし、その文字で表現している内容そのものを伝えやすくする技術を「タイポグラフィ」と呼ぶようですが、文字での表現にこだわり、更に進化させて文字そのものに意味を持たせてダイレクトに表現することにチャレンジされているのが大原大次郎さんというクリエイターなのです。
そして、その大原大次郎さんの文字へのこだわりが生んだ「究極のタイポグラフィMV」とも呼べる名作MVが、この「everything but the love」なのです。
キリがないので、そろそろ次のMVの紹介に参りましょう。
もう1つ、大原大次郎さんの歌詞にこだわったオススメMVがあります。「everything but the love」から遡ること7年前の2007年に、全く違うアプローチで歌詞を映像として表現した素晴らしいMVがあるのです。
それが今回2つ目の「映像の中に歌詞が出てくるオススメMV」。
POLYSICSの「コンピューターおばあちゃん」です。
なぜか懐かしい昭和な香りがする映像ですが、インパクトもあり、かつ不思議なラップの楽曲とのマッチングが秀逸なMVです。
この「コンピューターおばあちゃん」は、以前に本連載でも紹介したPOLYSICSが演奏していますが、実はオリジナルではなくカバー曲となります。(以前のPOLYSICSの回はコチラ⇒「往年のPOLYSICSのイケてるダンスMVが公開されてたなんて知らなかった」)
元々は伊藤良一という方が作詞作曲された楽曲がオリジナルで、なんと1981年にリリースされているというから驚きです。
そして、POLYSICSが2007年にカバーした楽曲のMVが、この「コンピューターおばあちゃん」のMVとなります。
この「コンピューターおばあちゃん」の楽曲ですが、メロディーも素晴らしいのですが、なんといっても歌詞がスゴイんです。
なにがスゴイのかというと、韻の踏み方が独特で、HIPHOP系のラップとは違った趣(おもむき)があるのです。
例えば以下のような韻を踏んだ歌詞になっています。
物知り博学(はくがく)⇒足腰かくしゃく
英語も楽々(らくらく)⇒入れ歯をカクカク
ラップというとチョット怖いイメージがあり、対象となる歌詞も重い内容が多いのですが、なんといってもメインが「おばあちゃん」なので、ほのぼのとした内容のラップで、いわば唯一無二です。(「足腰かくしゃく」や「入れ歯をカクカク」など、まあ普通のラップでは使わないですよね)
まだまだこんなものではありません。
バミューダ海域(かいいき)⇒ハワイはワイキキ
百聞一見(いっけん)⇒事件を発見(はっけん)
このラップに組み合わされる映像こそ、大原大次郎さん渾身の文字を使った様々な表現であり、「ラップという歌詞による表現方法」と「タイポグラフィという文字による表現方法」が絶妙に組み合わされることで生まれた奇跡の作品が、このPOLYSICS版の「コンピューターおばあちゃん」のMVなのです。
「コンピューターおばあちゃん」のMVは、大原大次郎さんと池田一真さんという映像作家の合作なのですが、池田一真さんはこの連載に以前登場したことがあります。
その作品こそが、神MVとも言えるlivetuneさんの「Transfer」なのですが、「Transfer」はファンタジスタ歌麿呂さんというこれまたぶっ飛んだクリエイターとの合作であり、クリエイターの良さを最大限に生かしたMV制作にたけたMV職人とも言えるディレクターではないかと想定しています。
(必見の「Transfer」の回はコチラ⇒「ファンタジスタ歌麿呂の超絶MVは、スパイダーバースとも比するパラレルワールド作品だ!」)
「コンピューターおばあちゃん」のMVは、リリース当時、音楽専用番組で結構放映されていたものの最近は放映されることがほとんどなく、YouTubeでもアップされておらず、私が録画して私蔵しているブルーレイライブラリをたまに観て悦に入っていたところ、なんと2021年9月20日、敬老の日にYouTubeに公式MVがアップされ、多くの方に見ていただくことができるようになりました。
うれしい反面、宝物をみんなに見つけられたような気がして、少し残念だったりもします。(セコイですが...)
話がそれますが、この文字にこだわった大原大次郎さんとは、全く別のところでも出会っており、驚いたことがあります。
それは、SAKEROCKの「ホニャララ」という楽曲のMVとなります。
この「ホニャララ」というMVを制作したのは、映像グループ「山田一郎」なのですが、「山田一郎」なる映像作家やクリエイターを探してもぜんぜん見つかりません。
それもそのはずで、「山田一郎」はSAKEROCKのリーダーの星野源さんと映像作家の山岸聖太さん、そして今回メインとなる大原大次郎さんで構成される映像グループの名前なのです。
「ホニャララ」のMVでは大原大次郎さんの文字へのこだわりはほとんど発現されていないものの、一度見たら忘れられないインパクトのあるMVなので、過去回でも紹介していますのでご興味のある方はご覧ください。
(「ホニャララ」を紹介した回はコチラ⇒「和洋のヘンテコMV対決」)
今回の文字にこだわった大原大次郎さんの特集はいかがでしたでしょうか。
2つのMVとも、「どんなカテゴリでも、突き詰めて極めれば素晴らしい作品となる」ということを証明しています。
歌詞が映像の中に表示されるMVが苦手な方でも、ぜひこの究極の2作品は一度はご覧ください。
大原大次郎ワールドにどっぷりハマること確実です。
ではまた次回に。
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