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若手弁護士と年収

今回の記事のきっかけはこの投稿でした。

https://mobile.twitter.com/mamoruhatago/status/1468632989118926849

私としてはこの方に含むところは一切なく単純な感想を述べたのみだったのですが否定的なニュアンスにとれる内容になっており反省しております。ただnoteにまとめますと書いたせいかこの機会にフォローしてくれた方も多いみたいなので有言実行ということで私なりにまとめてみました。

1.年収とは


法律は定義の学問であり、今回のケースでもそもそも年収とはなんぞやというところからスタートしなければなりません。今回の議論では「年収=売上」と定義します。そして若手については、「キャリア10年未満」と・・・一応定義(これについても誰に対しても含むところはないので怒らないでください)し、特に中間点に位置するキャリア5年前後の弁護士を意識しながら述べていきます。また、四大なのか五大なのか外資を含むのかとかが難しいので、四大を念頭にしつつ「大手」「大手事務所」などといった言い方をします。

2.大手の収入形態


私の理解ではこのうちいわゆる大手事務所のキャリア5年くらいの弁護士はアソシエイト(=イソ弁)であり、事務所からの報酬も個人事件分も事業収入という形態であると理解しております。大手だと街弁のイソ弁のような個人事件というのはほぼないかと思うのですがその分事務所からの報酬が相当高額であり、今では5年だと2000万円到達するのかもしれません。私が登録した頃は初年度の収入は1000万円くらいで外資はもう少し多いくらいだった記憶ですが今は1200万円くらいらしいので仮に毎年200万円昇給するとすればちょうど5年目で到達しますね。

3.街弁の収入形態


さて、まず街弁の収入形態ですが、考え得る就労形態としてイソ弁、独立、パートナーと3パターンあり、その中でさらに事業収入のみ、給与のみ、給与+個人受任(事業収入)と3パターンあるので、合計9パターンの稼ぎ方があることになります。詳細は以下のような感じです。

① イソ弁A(事業収入のみ/事務所からの報酬も個人事件分も事業収入)
② イソ弁B(給与のみ/個人事件分は全額事務所に上納)
③ イソ弁C(給与+事業所得/事務所からの報酬は給与、個人事件分は事業収入)
④ 独立A(事業収入のみ/法人化していない状態)
⑤ 独立B(給与のみ/法人化)
⑥ 独立C(給与+事業所得/法人化していてかつ弁護士個人としても受任する場合)
⑦ パートナーA(事業収入のみ/法人化していない状態)
⑧ パートナーB(給与のみ/法人化)
⑨ パートナーC(給与+事業所得/法人化していてかつ弁護士個人としても受任する場合)

そしてこの①~⑨、①~③と④~⑨では経費のかかり方の違いから①~③の方が通常は豊かですし、さらにたとえば①~③の中でも給与収入と事業収入を組み合わせた方法(③)が圧倒的に有利であるなど額面としても収入=売上が同じでもその経済的な豊かさは全く異なります。

4.収入での比較が難しい理由


ここまで読んでいただいて、やっと私が言いたかった問題の所在に到達できます。
大手の若手だとほとんどの人員が前項の「①イソ弁A(事業収入のみ/事務所からの報酬も個人事件分も事業収入)」に分類されるのでもらい方云々を考える必要がない上、留学などの時期を除けば生活圏はほぼ東京で物価水準も類似するため、たとえば「年収2000万」などと年収のみを設定するだけで豊かさの比較がかなり容易なわけです。
一方で、街弁の場合、たとえば同じ年収2000万円であっても、「③イソ弁C(給与+事業所得/事務所からの報酬は給与、個人事件分は事業収入)」の場合には給与所得控除が使えて経費も押さえられるので相当豊かですが「④独立A(事業収入のみ/法人化していない状態)」の場合には経費を抑えれば生活には困らないものの弁護士として経済的に豊かかというとやや疑問符が付く感じになります。さらに街弁の就業場所は都心から人口数万人規模の街までいろいろあり当然物価水準が大きく異なってきます。
以上のような理由から、街弁同士又は街弁と大手事務所とでは「年収=売上」による経済的な豊かさの比較が非常に困難なのです。

5.街弁としての体感


さて、このように年収=売上では経済的な豊かさの比較が難しいことを理解しても、なお街弁キャリア5年くらいの弁護士のどのくらいが大手事務所のキャリア5年の弁護士と同等かそれ以上の経済的な豊かさに達するかが気になるところですが・・・私個人は弁護士5年の時点で売上=収入は事務所への上納を除いても2000万円を超えていましたし、しかもそのもらい方は非常に有利な形態である「③イソ弁C(給与+事業所得/事務所からの報酬は給与、個人事件分は事業収入)」であり、充分に豊かさを享受していました。ただ私が特別ということでもなく、私以上に稼いでいる同期もちらほらいたような気がする(とはいっても申告書を見せてもらったわけではないので自慢話を聞いたというレベル)ので、全体の1割以下ということはないかと思います。とはいえ5割に達しているとも思えず、体感的には1~2割といったところでしょうか。やはり比較でいえば生き残っていれば昇級していく2000万円に達する大手事務所は待遇面において非常に有利であると言えそうです。

6.入れるのなら大手に入った方が良い(私見)


このように大手事務所は収入面でかなり恵まれています。また大手から独立した人の多くがTwitterやブログのプロフィールに自分が最初に勤めた事務所を記載していることからして、将来独立した場合の営業的な有利さもありそうです。
一方で激務であることは間違いなく、そこだけは覚悟する必要がありますが、やはり入れるのであれば大手事務所に入った方が良いと思います。せっかく若くして司法試験を突破したのだから、高額な収入を求めることも、最先端の議論に参加したいと考えることも、大きな取引に関与したいと思うことも、自分の能力がどこまで通用するのか限界までチャレンジしてみたいと考えることもすべて自然です。事務所側としてもそういう人を求めているはずです。
さらにいえば、自分と他者と比較してしまうことは人間の本能であり、同期の中でトップグループに所属しているということから得られる満足感は大きいでしょうから、その意味でも入る価値があります。学歴や資格試験といったわかりやすい競争を勝ち抜いてきた法曹にはそのようなプライドを持つ傾向が顕著であり、本能を否定する必要はありません。

7.街弁として何を求めるか


一方で、街弁たる我々としては、大手事務所のようにパートナーになるというようなある意味でわかりやすいゴールが設定されていないこともあって、若い頃から何を求めるかを考えておくべきです。私のおすすめは将来のワークライフバランスのために現在のワークライフバランスを犠牲にして働き勉強することです。そうすることで、年収1億2億を超えることや、「資産形成できてFIRE要件を満たしたけど弁護士やめてもやることがないから週4日くらい働くか」などといった傲慢な態度(すいません)が実現できる可能性があります。一方で、程度問題ではあるものの弁護士1年目から成長やキャリアアップを考えず野心を持たずワークライフバランスを享受しながら生活してもそれはそれで良いかと思います。今のところ収入が生活に困るレベルにまで落ちてしまう可能性は高くありませんし、長時間働くことはできないけれどそこそこの待遇で満足してくれるイソ弁というのもそれはそれで需要があるものです。いずれにせよ、街弁に限りませんが、頑張りすぎて体を壊しても頑張らなすぎて思ったように稼げなくてもすべて自分の責任、早いうちから将来のことは考えておいて損はないです。

8.最後に


結局のところ、日本の弁護士は他の職業に比べて圧倒的に恵まれているのです。医者と比べたらどうだとか地主と比べたらこうだとか言い始めるときりがありませんが、最も大事な時間をある程度コントロールできて、生活には困らず、少なくとも司法試験に合格したという自負を得られて、そこそこの人物として社会的に受け入れられて、毎日スシローやサイゼリヤに行けて好きなものを食べられる・・・有史以来恵まれている人類上位1パーセントに入るのではないでしょうか?弁護士なんかよりも「会社員か公務員になった方がいいよ」という方もおり、本気かどうか私には判断できかねるのですが、それはさておき私は弁護士であることのすばらしさを世の中に広め、若手に希望を持ってほしいと思っているのでした。

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