弁護士の将来設計③~ミニマム経営の経費~
0.はじめに
弁護士登録当時ミニマム経営を志したもののそこにたどり着かないまま引退の日を迎えそうなまもるくんです。独立の一般的な注意点についてはノースライム先生(お目にかかったことはありませんが書籍は購入させていただいています)をはじめ何名かの先生が書籍でまとめておられるためそちらをご確認いただくとして、私は私自身の見果てぬ夢である街弁のミニマム経営の経費面について泥臭く数字で考えてみたいと思います。
ひとくちに弁護士のミニマム経営といっても意味するところは様々です。究極のミニマムとしては事務所を持たず携帯のみで営業を続ける「ケータイ弁」又は「ケー弁」(どちらも最近聞きませんが)がありますが、最低限の事務所の体裁を維持したかたちをミニマム経営と位置づける方もいるでしょう。そこで、今回は経費面に焦点を当てて、①事務所すら持たない、②事務所を持つが事務員を雇わない、③事務所を持ちフルタイムの事務員をひとり雇用する、④事務所を持ちパートタイムの事務員を複数雇用する、という4パターンを考えてみます。経費については私の事務所と弁護士ひとり事務所の支出を参考にしながら書いていますが、漏れがあるとは思うのでご指摘歓迎です。まずは例によってエクセルで作成した表をアップします。細かな説明がいらない方は表だけを見て「5.一応のまとめ」にとんでください。
1.モデル① 事務所すら持たない
月額経費合計 24万5000円
正確には自宅を事務所として登録するが依頼者を含め他人を呼ぶことはないという形態です。自宅登録なら経費なんてほとんどかからないのでは?というイメージを抱きがちですが、実際にはそれなりの経費がかかります。弁護士会費は当然として、携帯の代金、車両関係費などもかかります。以下は全て月額代金の概算です。
弁護士会費・・・4万円 これは単位会によってかなり異なりますが、中規模会だとこのあたりのようです。
固定電話料金・・・4000円 こちらからかけるときにはできるだけ携帯を利用します。
携帯料金・・・1万円 通話し放題の料金だとこのくらいでしょう。
車両関係費等・・・4万円 下取り云々等の細かな話は無視して、200万の車を6年ごとに買い換えるとすると車両代金が月額ならすと2万7778円。車検やら修理やらオイル交換やらタイヤ交換さらには任意保険の保険料などもあるので、それらを含めての月平均は概ね5万円程度でしょうか。20%くらいはプライベートで使うとすると、ここで計上するべきなのは80%、月額4万円ほどになります。
ガソリン代・・・1万5000円 通勤はありませんが事務所を持たない以上移動の機会はそれなりに多いと思うのでこのくらいでしょうか。
交通費・・・5000円 多少は電車を利用するでしょうし、たまにはタクシーを使うこともあるでしょう。
駐車場代・・・1万円 自宅の駐車場代の80%+コインパークなどの利用料でこのくらい。
リース料金・・・2万5000円 カラーコピーのできる複合機が必要です。カウンター料金や保守料金を含めた金額です。書証は量が多いですしカラーの場合もあるので少し高めに設定しています。
消耗品代・・・8000円
インターネット料金・・・5000円 80%相当額とするとこのくらい。
パソコン代・・・3000円 14~15万円のパソコン(オフィス、セキュリティ、一太郎を含む)を4年に1度買い換えるとするとこのくらい。
電話秘書サービス・・・1万5000円 今やミニマム経営の必須アイテムです。事務員を雇用しないと電話に出ることが難しくなるので必然的に少し高くなります。
判例検索サービス+書籍代・・・2万5000円 最低でもこのぐらいは使わないと弁護士としての最低限のサービスを提供できないでしょう。
弁護士賠償責任保険・・・5000円 保険には加入しましょう。
賃料増額分(光熱水費含む)・・・2万5000円 事務所家賃はかかりませんが、複合機を置くほか最低限の業務スペースは必要なので、「ひとりなら1DK28㎡でいいが業務のために1LDK35㎡にする」程度の違いは出てきます。地域や築年数による違いが激しいですが、増加額として2万円程度をみておきます。
記録保管場所・・・1万円 終了記録を全て自宅におくのは無理なので、トランクルームなどを賃借します。
いかがでしょうか?事務所すらなくてもこんなにかかるのか・・・と思ったのではないでしょうか。私もそう思います。ミニマムに近づけると、弁護士会費や車両関係費などの削減に限界があるものの割合が高くなります。
2 モデル② 事務所を持つが事務員は雇用しない
月額経費合計 34万5000円
この場合、モデル①+事務所家賃が基本です。事務所の掃除グッズなどもあるので消耗品費も少し高くなります。自宅でも仕事するかもしれませんが、家賃増額分は削除します。ガソリン代や交通費は、通勤の分は増えますが相談のたびに外出する必要はなくなるので、±0とします。事務所を構えるとなるとランニングコストだけでなく什器備品を揃えるなどの最低限のイニシャルコストもかかるわけですが、これは居抜きやスケルトンなどの初期状況とどこまでこだわるかによって差が激し過ぎるのでここでは計算に組み込みません。
事務所家賃(光熱水費含む)・・・12万1000円 これも地域によってかなり違いますが、最低限の接客スペースなどを考えると地方でもこのくらいではないででしょうか。地方だと最低でも3台分程度(弁護士分×1+来客用×2)の駐車場代がかかりますが、それも含みます。
消耗品費・・・1万2000円(モデル①+4000円)
家賃増額分・・・0(モデル①-2万円)
3 モデル③ 事務所を持ちフルタイムの事務員1名を雇用
月額経費合計 78万4000円
いきなり倍額以上になります。弁護士業は仕入れがない反面労働集約的な産業であり、雇用が経費に与えるインパクトはかなり甚大です。モデル②+人件費が基本ですが、人が増えることに従い事務所も少し広くする必要があるなど、いろいろな面に影響が出てきます。また、完全ワンオペよりは業務をこなせますが、事務員1名が休むときはもちろん、退職したときの影響はかなり深刻です。なお、推奨はしませんが、事務員の給与を押さえ社保に入らなければ月額15万以上削減することが可能です。
固定電話・・・1万円(モデル①②+6000円)
消耗品・・・1万6000円(モデル②+6000円)
パソコン・・・6000円(モデル①②+3000円)
電話秘書・・・1万円(モデル①②-5000円)
事務所家賃(光熱水費含む)・・・15万4000円(モデル②+3万3000円)地方だと4台程度(弁護士分×1+事務員×1+来客用×2)の駐車場代を含みます。
給与・・・33万3000円。年収400万円を12か月で割って端数を切っています。私の事務所の待遇との関係はありません。私のリサーチではこれで高いくらいだった・・・。
社保料等・・・5万3000円。給与の約16%。
退職金積立・・・1万円。福利厚生の一環としてこのくらいは・・・。
4 モデル④ 事務所を持ちパートタイムの事務員を複数雇用する
月額経費合計 66万円
ここでは年収100万円の方を3名雇用としました。社保に加入しないなどの経費的なメリットがあり、また1名に頼らないので休みを取ってもらいやすく、退職の影響も比較的軽微です。しかし、パートタイムで最低限の給与しか支払わないにもかかわらず守秘義務などは同様に課さなければならないので、人物の選定や情報管理は事務員1名の事務所よりも難しくなりがちです。PCは一台を共有してもらいます。
事務所家賃(光熱水費含む)・・・17万6000円(モデル③+2万2000円)地方だと5台程度(弁護士分×1+事務員×2+来客用×2)の駐車場代を含みます。パートタイマーの方が3人同時に事務所内にいることはありませんが、2名同時ということはあるからです。
給与・・・25万円。100万円×3名=300万円を12か月で割っています。
5 一応のまとめ
実際の数字を元に計算してみると、事務所を小さくしても結構経費が嵩む、という夢のない結果となってしまいました。私自身はほぼ紹介で仕事をいただく弁護士であり、「事務所もないような弁護士は紹介しづらい」「事務員もいないような事務所では紹介しづらい」などといった営業面を考慮するので、私がやるとしたら事務所あり+フルタイムの事務員+パートタイムの事務員1~2名という形態にしますがこれはもはやミニマム経営とは言えませんね。
弁護士が希少であったころはモデル③がスタンダードだったのですが社会保険料の高騰等などの事情から現在ではメリットが少ない気がします。さりとてモデル①では(そもそも他人を呼べる事務所がないので)人を呼ぶことすらできず、営業面で甚大な影響がありそうです。モデル②は、司法書士や行政書士は事務員を雇わないことが多いのでその形態に近づける意識があれば見込みがありそうです。モデル④は比較的私の好みには近いのですが、既に記載したとおりの難点があります。
ミニマム経営の難しさは弁護士が真の意味での信用商売であるということとの両立にあります。立派なオフィス、電話対応をしてくれる事務員、法人化の有無、弁護士の乗っている車のレベル、さらには所属弁護士の人数などといった業務を担当する弁護士の案件処理能力とは関連性の高くない要素が対外的な信用ひいては営業(売上)に大きくかかわってきます。多くの個人の依頼者にとって弁護士への依頼は一生に一度か二度のことですし、企業であれば「なぜその弁護士(事務所)を選定したのか」を上司等に説明しなければならない場面もありますので、これはやむを得ません。
しかし、ミニマム経営には、ボスはもちろん共同経営者にも気を遣わなくて良い、支出を自分の意思のみで決定できる等の代えがたいメリットがあることも事実です。私を含めサラリーマンになりたくなくて弁護士を志したというクラシカルな思考の持ち主には絶好の経営形態であり、経費がコントロールできるためある程度の売上を得られる見込みさえあれば所得2000万円以上も充分可能です。私は多様な事件の経験を積むことや他の弁護士の仕事を学ぶということを重視するためにいわゆる即独には賛成しませんが、ミニマム経営は、ある程度のキャリアを積んだ弁護士の選択としてはやはり魅力があると思ってます。
次回は、あまり特別なものはありませんが、私なりの仕事をいただく工夫をまとめてみます。