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弁護士の将来設計④~ポジショニング~

0.はじめに

事業を営む者にとってポジショニングは最重要課題のひとつです。弁護士が売る商品は突き詰めれば自分自身なので、要は「自分自身のポジショニング」です。ポジショニングへの意識は早ければ早いほどよく、キャリアに及ぼす影響は甚大です。

事務所経営という立場からは更に「事務所のポジショニング」が出てくるのですが、そちらはより困難ですので、ここでは前者について、特に街弁のポジショニングについて私の考えるところを書いてみます。偉そうな言い方が多くなりますが、そこは「カイジ」の地下チンチロ編の主人公である大槻班長のような寛容な精神で許していただけるとありがたいです。

1.街弁の差別化要素(専門化できる?)

ポジショニングには差別化が必要で、弁護士の差別化といった場合に最も最初に思いつくのはおそらく専門化です。しかしながら、街弁は、専門性という意味でどうしても大手事務所やいわゆるブティック型事務所に劣ります。専門性のある街弁がいるという指摘もあろうかと思いますが「平均よりかなり詳しい」を超えて「その業界のトップを目指す」というレベルになるともはや街弁の定義を超える気がしています。私自身、2~3の分野では平均的な街弁よりかなり詳しい自信がありますが、逆に言えばその程度です。

そこで、街弁は、弁護士としての総合力の底上げや一定の得意分野を持つことと同時に別な面でも差別化を図っていく必要があるわけです。

2.アドバンテージを生かす

実は、どの弁護士も、弁護士として戦うにあたり、それぞれ特有のアドバンテージを持っています。たとえば、学歴が高かったり若くして合格したりなどの要素がある方については優秀さの推定がある程度働くというアドバンテージがありますし、育った地元に帰って弁護士をする方は知人からの紹介案件が期待できます。学歴については、地方だと早稲田が経営者が多く有利な印象がありますが、実は弁護士も多いため思ったほどアドバンテージにならないようです。中規模の大学の場合には全体の人数が少ない分つながりが強く弁護士も少なかったりするので、活かすことができる場合もあります。慶應はもともとは経営者の数と比較して弁護士がやや少なかったのですが、最近はそうでもありません。

アドバンテージは多ければ多いほど良いのですが、より重要なのは、アドバンテージが多いことではなく、それを活かす意識を持つことです。たとえば、地元に帰って弁護士をしていても、そのことを周囲に知ってもらわなければアドバンテージを活かすことはできません。そのため、同窓会をはじめとした地元の集まりには積極的に参加することが望ましいです。

依頼者との会話の中でさりげなく地元トークを混ぜ込むことも効果的です。これには即効性はありませんが長い目で見ると知人を紹介してくれたりするなどの効果があります。地元大好きな人や地元出身者の信頼度を一定程度底上げする人というのは意外に多いもので、考えてみれば地元が嫌いではないからこそ帰ってきている可能性が高いわけで、当然かもしれません。また、地場の経営者は地域のつながりで仕事をしていることが多く、意識的なのか無意識なのかわかりませんが、専門職についても地元出身者を好む傾向にあります。弁護士自身の能力以外に、そのネットワークを業務や問題解決につながることをも期待されているわけです。

そして、「私にはアドバンテージなんてないよ」という人は、自分で作りましょう。たとえば、地方では英語ができる弁護士は未だに希少ですし、税務の基本がわかっている弁護士も少ないです。これは勉強である程度解決できます。能力以外の面では、たとえば後述する各種青年団体に加入して、自分が弁護士として稼働する場所をいわば地元化してしまうことも可能です。

3.イソ弁時代の事務所内での立ち位置

事務所内でもポジショニングが必要です。

まず、ある特定の分野でいいので、事務所内でトップになることを目指します。ボス弁1イソ弁1のような小規模事務所であれば、まずボスより詳しい分野を増やしていくということになります。そしてそれを事務所内や単位会で積極的にアピールします。

ある分野で事務所内で「一番詳しい」と目される弁護士には、必然的にその分野について「良い事件」「大きな事件」「面白い事件」そして「困難な事件」が回ってきます。二番手三番手に回ってくるのは、それらの要素が劣る事件か、一番手の弁護士が業務をこなせないときのみであるのが普通です。そのため、年月を経るにつれ、当初の「一番詳しい」という評判がたとえ疑わしいものであったとしても、当該弁護士は着実に実力と自信を付けることとなり、いつの間にかその実力と評判は不動のものになります。これは西田章先生の「弁護士の就職と転職―弁護士ヘッドハンターが語る25の経験則」(最近でた新たなものではなく古い方)の受け売りですが、私は非常に正しい指摘であると感じています。

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続いて、ボス弁や兄弁姉弁と相談に同席した際にもポジショニングの工夫が可能です。特にボス弁と相談に入った場合、依頼者は、通常ボス弁の方しか見ていません。そんな中で、依頼者に響くクリティカルなひとことを述べられるかどうか、ボス弁と依頼者の評価はそこにかかってきます。

「そんなことできれば苦労はないよ」と言われてしまうかもしれません。しかしながら、自問自答してみて欲しいのですが、1時間の打ち合わせの中で、相談の内容を把握しながらそのチャンスを絶えず伺っているでしょうか。クリティカルなひとことなんて、最初はうまくいかなくて当たり前です。しかしながら、漫然と相談に同席しているだけでは、つまり強く意識していなければ、永久にできるようにはなりません。受け身の姿勢では、依頼者の信頼はボス弁兄弁姉弁に向いたままとなり、あなたにはなかなか回ってきません。

4.諸団体での立ち位置

地方の街弁の業務拡大の王道として、地元の商工会青年部や各地の青年会議所(いわゆるJC)などに加入することが上げられます。これらの団体には地元企業の社長や次期社長が多く加入しており、仕事を依頼される可能性があるほか、将来顧問先になってくれる可能性があります。ただ、20年前であれば加入すること自体に価値があったのかもしれませんが、今ではポジショニングを意識することが必須です。たとえばJCで言えば会員の1割が弁護士という会もあるようで、弁護士であることだけでは希少価値がないからです。

私のお勧めのポジショングはどの団体に入る場合でも同じで、①常に本業優先の姿勢を打ち出す、②任された業務はきっちりこなす、③これら(①②)をアピールする、というものです。団体内のしっかりと業務をこなすことで信頼を勝ち取り、さらに本業優先(団体の仕事は後回しで本気出していない感)を打ち出すことで、更に業務遂行能力を(無言で)アピールします。良いことかどうかはわからないのですが、私の実感では、青年団体の活動に関しては「全身全霊を傾けている」よりも「本業と線を引きながらこなしている」方が能力面において評価される傾向にあります。そのため、実際には泣きながら徹夜で団体業務をこなしていたとしても、無理せずこなした感を出す方が実は得策です。

そして、弁護士としては、最終的に各種団体のトップになる必要はなく、あくまで2番手以下で上を支えます。仕事の性質上、「周りから支えてもらう立ち位置」よりも「トップを支える立ち位置」の方がアピールになりやすいです。

なお、各種団体での活動で最もやってはいけないのは、業務を途中で投げたり、中途半端に終わらせたり、低品質な業務を提供したりすることです。周囲は団体での活動を通してあなたの人間性や業務への姿勢を見ており、いい加減な姿勢や能力不足を疑われるような成果物はマイナスの評判につながるので、そんなことになら最初から入らない方がまだ良いです。各種青年団体の活動は言葉を選ばず言えば壮大な無駄がほとんどを占めており、「何でボランティアでこんなくだらないことをやっているんだろう」などと考えてしまうこともあるかと思いますが、そこは将来のための種まきと割り切ってしっかりやりましょう。

5.最後に

以上はあくまでポジショニングの一例であり、要は業務にかかわるあらゆる場面でポジショニングを意識するというのが重要なのです。

皆様お気づきであろうかと思いますが、日本において弁護士は士業の中で最もポジションが高く、それに反比例するかのように他士業と比較して営業能力が低いです。そのため、弁護士としてそれなりに仕事をとるというレベルであればそこまで高度なポジショニングは必要ありません。ただ意識しないといつまでも身につきません。私自身、もっと努力しないといけないと感じています。

最後に、弁護士個人のポジショニングを超えた事務所のポジショニングは、より困難で答えの見出し難い課題です。そういったことを考えずに引退の日を迎えられるのが一番いいのかもしれませんね。


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