八海山にロッド・スチュワート、さらに倉敷、徳島の阿波乃蒸留所へ…
台湾のカバランから帰って、その日の夜はパレスホテルで開かれた八海醸造の創立100周年パーティーに出席し、翌20日は有明アリーナで開かれたロッド・スチュワートの一夜限りのコンサートに行く。これはロッドがプロデュースした「ウルフィーズ」というブレンデッドスコッチのプロモートも兼ねていて、そのウイスキーを輸入販売する都光さんの招待だった。
ロッドはロンドン生まれだが両親はスコットランド人。ソロとなってアメリカに渡り、最初に出したアルバムが「アトランティッククロッシング」で、その中の1曲のセーリングが世界的なヒットとなった。1980年代初期によく聴いていたが、その時はセーリングにどんな意味があるのか、まったく知らなかった。
意味を知ったのはウイスキーをやるようになって10年くらいしてから。たまたま見ていたNHKの名曲を訪ねてという番組で、この曲の作られたマレイ湾の寒村、クロービーが登場した時だった。この歌のオリジナルはスコットランドのフォークデュオ、サザーランドブラザーズが作詞・作曲をした「セーリング」で、ロッドはそれをカバー曲として自身のアルバムに選んでいたのだ。
テレビの画面に映し出されたクロービーの村は崖下の戸数20軒ほどの漁村で、目の前は荒れ狂う北海!!ロッドのセクシーな歌声で唄われると“ニアートゥユー”、あなたの側へというその歌詞は、まるで恋人にあてた甘いささやきのようにも聞こえるが、サザーランドブラザーズのCDを聴くと、そうではなく、その曲が海に乗り出す男たちの神への願い、鎭魂歌であることがよく分かる。あなたの側へのあなたは恋人ではなく、神のことなのだ。
そのあと2度ほどクロービーの村を訪れたことがあるが、荒れ狂う海にのり出す舟のシーンは、アイルランド西部のアラン諸島の映像と重なるようで、それを恋の歌のように聴かせてしまうロッドの歌のうまさなのだろう。コンサートでは往年の代表曲を20曲近く歌ったが、このセーリングは歌わなかった。ところが、アンコールで登場し、その1曲目としてうたったのが、セーリングだった。現在79歳(!)だというロッドがアンコールで歌ったセーリングは、40年前にアルバムで聴いたあの甘いささやきでなく、年齢を重ねた男の、人生の鎭魂歌のように聞こえた…。自分の青春時代、そして人生を重ねて思わず眼がしらが熱くなってしまった。
と、久しぶりのコンサートを満喫した翌日からは怒涛のスケジュール。社内外のミーティングが相次ぎ、鹿児島テレビ(NHK)のオンライン取材も。さらに21日の木曜日は夕方6時から中国人ビジネスマン向けのジャパニーズウイスキーセミナー。7種のボトルを飲みながら、40名ほどの中国人にジャパニーズについて講義をし、22日の金曜日にはウイスキー検定のテキストの再校をチェック。台湾に行っている間も、空いた時間に校正・執筆を続けていたが、ようやく再校までたどりつくことができた。
さらに23日の土曜は午前中『コニサー倶楽部』の原稿を書き、昼過ぎの新幹線で岡山倉敷へ。夜は以前ガロアの“ぶらり旅”でお世話になったイタリアンの『はしまや』に行き、24日は4年半ぶりの倉敷ウイスキーフォーラム。結局、倉敷には2泊して、25日の月曜はレンタカーで一路四国に渡り、徳島県の阿波乃蒸留所の取材を行う。詳細は次号ガロアでお伝えしたいと思っているが、これは徳島の総合酒造メーカー、日新酒類さんが昨年オープンさせた小さなクラフト蒸留所で、今は週1回の仕込みで、じっくりと技術を積んでいるという感じだった。スチルは2基のみだが、大阪のケミカルプラント社製で、同社の銅製スチルは阿波乃蒸留所が初めてだという。ニューポットとニューボーンを試飲させてもらったが、将来が楽しみな蒸留所だ。