ヤニ吸う考察3
ヤニ吸うの香水が出てたらしい。
作中のタバコの銘柄を外箱にしているのと、佐々木の香水はさらに「ミスト」もモチーフにしているようで。
タバコの臭いについて指摘され、その対策を田山に伝授され、さらにミストまで貰ったあのエピソードだ。
で、このミストについて。
該当するような製品って無いよなぁ、とぼんやり思ってたんですよ。
ところが、ある時ふとドンキに行った折に見つけたんですよね。
ドンキ使ってそうな山田の性格といい、色合いといい、この辺りかなり近いのでは。
おじさんである佐々木はそんなにドンキ行かなさそうだし(俺もそう)、知らなくても無理はない。高そうだし、と言いつつ割と手頃(それでも1000円、およそ10$)だし。
なお、自分はシルク(真っ白の容器)を使ってたので、同じ物だと全く思い至らなかった。ウールが灰色容器ってのも気がついて無かったし。
さて、タバコの味云々に関して掘り下げるのは野暮ってモンですが、この二人のタバコについて、あくまで日本でのイメージやエピソードを交えて語ろうと思う。
前回までの内容と被る部分はあるが、より掘り下げて行こうと思う。
1 マールボロ
マールボロ、マルボロ、赤マル。呼び方は様々。
今(2024)のパッケージだと、マールボロの綴り"Marlboro"はエンボス加工みたく浮かし掘りのような加工になっている。
パッケージのロゴデザインの下半分を隠して逆にすると「奇妙な果実」を暗示している…なんてゾクっとする話もあるが、流石にこれは「俗説」である。
タバコの逸話にはよくある事なのだ。
ただ、現行パッケージに移行する際に黒色を無くしたので、SNSでは一部の陰謀論好きが騒いでいたのを覚えている。
今でこそ「マルボロ・メン」と呼ばれるカウボーイのイメージが定着しているマールボロだが、販売当初には女性向けの販促がなされていた。
女性を前面推し出したポスター、"Mild as May"の宣伝文句…5月のようにまろやか…どういう意味なんだろうか。1924年のアメリカで生まれたマールボロの産声はそういうものだった。
「吸い口に口紅が目立たない」とするもので、フィルターにあたる部分が赤く着色されていたとか。そういうのは気遣いと言えるのか…。
ところがこうした宣伝とは裏腹に全く売れず、一旦は撤退。世界大戦が始まってからは、ご存じラッキーストライクが大人気だったわけで…。
その後1960年代から、カウボーイなど「マッチョ」を下地にした男性的なイメージで売り出し、軌道に乗った次第。
カウボーイは仕事柄、動物や植物(干し草)を相手にしてるので、実際は火を使うタバコは避けられていたとのことである。
この説を否定している人の中には
「いやいや、カウボーイが紙タバコ吸ってるの写真に残ってるからw」
という反論があったが、例に挙げていたのが完全に当時のファッション誌の写真だった。つまりは作られたイメージで言っていたに過ぎない。それは前提がダメなんだよ。
事実、カウボーイの嗜むタバコは、噛みタバコ(いわゆる痰壺の文化)→嗅ぎタバコへと変遷したという歴史がある。アメリカの1900年前後のプロ野球でも噛みタバコが嗜まれていたという記録もあるので、普及も流通も一般的だったというわけだ。
噛みタバコというと、タバコ葉を食ってるようなイメージをしてしまう人がいるかも知れないが、実際には浸潤性はあるが破れにくい紙などに、甘味料などとタバコ葉をくるみ、その塊を歯茎と頬の間に挟んでおく、というスタイルが基本になる。噛まないし転がさないキャンディみたいなモノだ。
煙も出ないしナイスじゃん?と今のシガレットを見ている人は思うかも知れないが、この喫煙方法は「痰壺(たんつぼ)」とセットだった、という僕の記述を思い返して欲しい。そうすると一気にイメージが逆転するだろう。
こうなると、いわゆる今の「喫煙所」は「ツバ吐き大会会場」と化すわけだし、忌み嫌うべき「ポイ捨て」などは「そこら辺に構わず吐き捨てるクソ野郎」へと変貌する。何も良くなっていない。
これがアメリカのプロ野球で流行り、やがて廃れた…という所にも、納得する所があるのではなかろうか。
そして、変遷したという嗅ぎタバコだが、これは輪をかけて不審な吸い方で、粉を直接鼻腔で吸う、という「怪しい白い粉を吸う」となんら変わらない方法となる。
いやはや、火をつけて吸う方がナンボかマシ…と思ったあなた、それは間違いだ。
そもそも異物を体内に取り込む方法なんだから、全部不審。なんなら「怪しい物質」を取り込む方法としては、現代のタバコスタイルだってスタンダードスタイルだ。ぜーんぶ怪しい。
だからとは言わないが、タバコはやめられるならやめた方が良いよ。マジで。お金無駄にせずに済むよ。
さて、そんなカウボーイのタバコ文化・歴史ではあるが、大衆へと伝わっていくのはマスコミによる企業宣伝のイメージが優先するわけで、雑誌の写真や西部劇のソレが先行していった結果、マッチョイズムとタバコが結びついていった…という事かも知れない。
ここは完全に自分の想像ですがね。
で、ここまで語った「男臭い」マールボロの味はというと、よく言われるのが「辛口、ドライ」という評価。
そして、タバコ吸いの中でも「臭い」とされる際立った香り。
実体験の例だが、高校の頃(!)に隠れてタバコを吸っていたバカが、容易に喫煙してると分かるような臭いがついていたので、隠していてもバレバレだった、というのがある。
そんなんだから、未成年の不良たちはタバコ臭を消す方法に躍起になる。だからタバコを吸ってる奴ほど香水をつけていた。高校をはじめとした学校には大体何故か「香水、コロンなどのフレグランス禁止」が校則にあるが、つまりそういう事だ。流石に制汗剤などが一般的になった今では、その辺の解禁はあるかもしれないが、少なくとも日本人の習慣からして、香水やコロンみたいな強い香りをつけるほどの臭いに悩まされるのは、そもそもタバコくらいのもの…という図式はそう変化してはいない。
それはもう、タバコで臭いか、香水で臭いか、というレベル。程度を知らない上に常識が無いから不良をやるような学生だから、まぁ酷いモンだ。
そんな中でも、未成年喫煙者ですら満場一致で「何をしても無駄」と言われたのがマールボロである。
曰く「普段の体臭から変わる」「こっちがタバコ吸っててもマールボロの臭さが分かる」「なんかウンコ臭い」だから、もう手に負えない。
そこまでか?とお思いのあなた。そうなんですよ。
クッセェタバコなんてゴロワーズぐらいのモンじゃないの?と思ってたけど、学生の頃を思い返してみれば、そもそも吸ってる奴がいないゴロワーズより評判が悪かったと気づいた。
ゴロワーズってなーに?と思った方。いわゆる黒タバコってやつで、有名どころだとルパン三世が吸ってるタバコ・ジタン。何故臭うのかというと、タバコ葉を堆積させて発酵させる、という過程を踏むため、腐葉土のような独特の風味がつきます。そのため黒タバコ全般が火をつけなくとも臭うのですが、その中でもとりわけゴロワーズは臭いです。
パッと調べてみたらけど、終売って話もちらほらあって、もう無いのかな。美味いんだけどな、ゴロワーズ。ジタンも販売終了かよ。マジか(日本市場の話です)
閑話休題
山田が吸っているのは、上面にシールが貼られた「ソフト」である。
蓋がついていてしっかりした「箱」をしているのが「ハード」で、中のタバコには違いがないものの、外気にさらされる度合いが変わるので味に違いが出てくる。
が、そもそも吸う頻度や状態でまるっきり個体差が出るので、ハードの方がこう、ソフトはこう、みたいなハッキリした変化の基準はない。
僕から言わせれば、タバコは乾燥し過ぎてもマズいので、適度な湿度管理こそが大事だと声を大にして言いたい。箱の有無や状態ではないのだ。
そもそもタバコの味って?煙に味なんてあんの?って話だが、ある。
正確には、煙が舌に当たった時に、舌の味覚神経が感じた反応が「味」となる。
煙の温度が低いと甘めに、高いと辛くなる他、流れが早いと辛い、緩いと甘い、という具合。
ここに「葉の種類」「葉の詰まり具合」「葉の切り方」「巻き紙の種類」「着香の有無」などが複雑に絡んで「味」ないし「ブランド」が完成される。
そうなると、タバコってのは「情報を食ってる」最たるモノでは?となるが、実際そうだと思ってる。
なにせ、同じブランドでもソフトとハードで味が変わるのだから。
だから、ここは言い方を変えるべきところで
情報は味を変える
だと強く主張したい。
それだけに、タバコというのはパッケージが大事なのだと理解して欲しい。
形や材質や携帯方法以上に「好み」があるのだ。
だからこそ、みんなそれぞれにブランドへの執着に強いモノがある。
紙タバコの基本的な目的が「肺に煙を取り入れて、効率的にニコチンを摂取する」という現代社会のニーズに適合したモノだが、そこに至る手段には拘りがある。
山田がタバコを吸い始めたきっかけは、それこそ(作中ではまだボカされているが)佐々木の店前での喫煙を見ていて、ということになっている。
この時も佐々木はボンスター(セブンスター)を吸っているが、とは言えタバコにはおそらく興味がなかった山田は、ここから「憧れて」吸うようになったことになる。
仕事が好きで続けたいけど、能力がなくて辞めたいという二重苦。
そこで背中を押してくれた人の煙の思い出。
そりゃハマるよね。
つまり、タバコ導入としてはこの上なくディープでマッチしたものだったわけで。
山田にとってはストレス解消以上の体験になった可能性がある。
赤いパッケージに、作中のブランド名は
BesideMe(そばに居て)
おめぇズルいだろうよぉ〜それはよぉ〜。
さて、この「ヤニ吸う」の山田のタバコの元ネタであるマールボロを語る上で欠かせない「俗説」が一個ある。
根拠も無いし、誰が言い出した話かもわからない由来であるが、このマールボロの綴は
Man Always Remember Love Because Of Romance Only
(人はいつも本当の愛を見つけるために恋をする)
の頭文字から来ている、というもの。繰り返しになるが、これは俗説である(そもそもマールバラ公とか人名由来だし)。
が、作者はおそらくであるが、この辺りの俗説も大いに取り入れているんじゃないかなー、と思っている。
ロマン溢れるラブコメなので、ここら辺は意識してるんじゃないかな?
2 セブンスター
セブンスターは、佐々木のタバコ「ボンスター」の元ネタだ。
星と7に由来する、「北斗七星」とも縁深い。セブンシリーズとして派生した「マイルドセブン」は現行では「メビウス」として生き残ってるし、何よりセブンスター自体が売り上げ上位に残るという化け物級のヒット商品なのだ。
その成分、ニコチン1.2mg、タール14mg。日本のタバコとしてはかなり重い部類だ。
マールボロはニコチン0.9mg、タール12mgだから、まぁまぁ近いものがある。味としては確かにマールボロの方が辛味へパンチが効いてるから、セッタ(セブンスターの略)吸いからしても重いと感じるだろう。
上の場面の感想も納得するしかない。まず女の子がファッションに近いところで吸っていたら、こんなチョイスでは無い。
割とガチ目にタバコが好きだ、という匂わせになっている。
いやまぁ、この作中で吸ってる人ほとんどヘヴィなんだけども。
セブンスターはというと、実は甘味が強く感じられる構造になっている。実にマイルドというか、その数字の割に口当たりは良い。
余談だが、メンソールが入ると吸い口は全てミントに持っていかれる。とても吸いやすい上に、重いものもあるので知らず知らずのうちにヘヴィやチェーンになっているのも怖いところだ。
軽いタバコだと思ってると痛い目を見るのがメンソールである。
フィルター付きの紙タバコであればまだマシだが、リトルシガーだとガチ目にニコチン酔いに見舞われるので注意。
で、佐々木にタバコを教えた先輩のタバコの元ネタはハイライトと来ている。これまたクソ重い(ニコチン1.4mg、タール17mg!)ので、この漫画の主な登場人物、全員ガチ目にタバコ依存しておる。
今のところ、ピースが出ていないのが良心か?(ロンピでニコチン1.9mg、タール21mg。両切りに至ってはニコチン2.3mg、タール28mg!)
さてこのセブンスター、現実世界では特に何か名前に関する逸話があるわけではない。
だのに、作中唯一、架空の名前に逸話が与えられているタバコになっている。
現実には、当時アポロ計画など宇宙開発時代に突入していたこともあってつけられた名前だそうだ。
こういう意味のこじつけならば、現実世界において俗語の意味として名づけられたのはむしろ「ハイライト(陽の当たる場所)」の方である。
さて、ここでちょっとした考察。
作中の小道具としてタバコが与えられている役割は、出会いと語らいのキッカケだ。
では、佐々木と山田(田山)の二人の時間帯は?
そう、大抵「夜」になっている。
ブラック企業に勤める佐々木の帰宅は「夜」遅くなるし、いい具合に人がひいて山田が田山として喫煙所に誘えるのも、スーパーが閉店する前後の「夜」。
だからこそ、ハイライトは「昼」になってしまい、佐々木のタバコには不適切。
二人でいる事の暗示がBesideMe(そばに居て)であり、こじつけ逸話であるところのマールボロの由来が「人はいつも本当の愛を見つけるために恋をする」は確定する(山田の複雑な心境と気づきの暗示にもなっている)。
ならば佐々木のタバコには夜をイメージする名前を架空の名前として付けたのでは?と考察される。
好都合なことに、こじつけの由来は現実世界で沢山あるので、夜をイメージ出来るセブンスターを…となったのではないか。
佐々木と先輩が結局はくっつかなかったようであるところも、この辺りの暗示だろうか。これは完全に妄想だが。
夜のイメージだったら、「ムーン」もある。だけど、月は昼にも存在できてしまう。
だからムーンだと不適切になる。
暗い夜にしか居られないのが星なのだ。
そんな夜の闇の中で、進むべき方角を指し示すための目標になるのが北斗七星だ。古来、太陽や星は方角の基準となっていた。東西と時間軸の基本である太陽。そして北を示す北極星。
ただ、北斗七星は北極星を探すキッカケでしかないところがミソだ。
北斗七星は、北極星を探すための特徴的な形を示しているにすぎない。ぐるぐると回っていて、時には山に隠れて見失ってしまう。(すると、今度はカシオペアが今度は目印になる)
佐々木は若い頃の山田に道を示したあと、転勤で町を去り、数年経って再び戻ってきた。自分自身は仕事に疲れ、かつて導いた山田に元気をもらっている…
こう考えてみると、面白い構図ではないだろうか。
さて、6000余文字ものくだらない妄想に付き合って下さり、ありがとうございました。
お後がよろしいようで。