おっさんの湯渡り
温泉が好きだ。
思えば幼少の頃から野沢温泉をスキーのホームグラウンドにし、夕方には必ず湯に入って疲れを癒していた身だ。温泉のある街の出身でもないのに、これほど温泉に馴染んだ身体もそうあるまい。
1 トラブルもまた楽し、しかし回避はすべし
今回は泊まりがけの旅行、それもド平日の真ん中という普通の人が旅行をしない時期に計画を立てた。
電車は混まないし、僻地だから切符が取れない心配はない…そうタカを括っていた。
結論からすると、ここに全ての油断があったのだ。
京都発特急きのさきが11時25分に出るので、それに合わせて動くが、自分は二時間も余裕を持って家を出た。
最寄駅から京都まで30分程度。ついてもさらに余裕がある。早すぎでは?と思った人は、既に敗北が決定する。僕はこの点で幸運だった。
最近のJR西日本はとても不甲斐ない。大変よく遅れる。それも日中に。これについて「不甲斐ない」というのは酷かも知れないが、出勤客を一晩閉じ込めた会社にはそんな信頼をおいてない。その後も、姫路まで走る電車が急に大津止まりになって無理やり降ろされるという、ふざけた運用をしたりもしている。個人的な恨みではあるが、夜中に10キロ単位の行軍を今冬2回も強いられたのだから、これぐらいは愚痴を言わせてほしい。
融雪灯が鉄道系YouTuberに格好のネタであっても、常用者にはとんでもない裏切りなのだ。去年までそんなことしてたか!?
家の最寄駅で京都行きを待っている最中、既にダイヤは遅れていた。そして、京都行き新快速に乗っている最中、非常ボタンが押されさらに遅れた。
30分のロスだ。こういう旅で「ギリギリ」は良くない。
この時点では、僕は確かにまだ幸運であった。
が、京都についてみどりの券売機を見た時、絶望した。
長蛇の列。それも、全て外国人旅行者だ。
指定席特急券はみどりの券売機でしか買えない。特急きのさきは全席指定。つまり、売り場はそこだけ。
出発まであとどれだけ?一時間だ。
20分ならんで得た結論は、一組とて進んでいないという地獄の現実。駅員はマジで何をやってるんだ。仕事しろ。並んだ時に券売機と格闘してるメンツ、変わってねーぞ。
つまり、僕が並ぶ前から少なく換算して30分近く、ここの列の誰も切符を買えていないのだ。
ちょっとした異常事態なのに、この場に駅員は一人しかついていない。しかも一組につきっきりで、一切誰も補助に入って来ないのだ。
これは文句を言っても埒があかん、と列を抜けて別の階のみどりの券売機へ向かう。中央口は外国人だらけだが、他ならば少ない可能性がある。
そして、少な目な券売機を見つけ、並んだ。そして、ようやく券を購入。
京都駅に着いてから50分、乗り換えの券を買うのにかかった時間だ。
コロナが明けたとはいえ、まだ初期だから…とナメていた自分にまず反省するとしよう。
だが、困っている旅行者を放置してるJR京都駅はマジで仕事してくれ。いくら何でもありゃおかしい。あの列いつ吐けたんだろうな?
と、しょーもない事を考えつつ、残りの10分で僕は駅弁を買い、自販機で茶を買って、出発直前の特急きのさきに乗り込んだのだった。
2 されど鉄の旅は楽し
トラブルはあれど、電車というのは乗ってしまえばこちらのもの。
指定席ならば尚更だ。窓際ならばなお良し。
ギリギリで抑えた割に、窓際が余裕で取れたので「やっぱ過疎な路線の特急だとこんなモンよな」と思っていたのだが、そんなことはなかった。通勤に嵯峨野山陰線を利用している人はご存知だろうが、この路線は通勤と通学と観光の主要路線であり、京都から福知山までこしばらくの間は激烈な混雑となる。
京都駅構内でも乗り換えの接続が劣悪なため、ラッシュ時間帯の嵯峨野山陰線から他への乗り換えには30分かかると言われたりもするほどだ。
つまり、そんな激混み路線では何が起こるか?
通勤に指定席特急を使う奴がチラホラいるということ。主要な降車駅が亀岡や園部、さらに福知山となると、鈍行だとかなりかかるため、そういう人もいるわけだ。
まさかの結構な満席。自分が取った席の通路側に、出発前だと言うのに早速駅弁をかっ込んでる若いサラリマンがいた。
お楽しみのタイミングは人それぞれだ。しかし、権利は行使する。すみませんね、と手刀を切りつつ、窓際の席に腰を落ち着け、持っていた鞄を荷物置きに置く。
周りを見渡すと、圧倒的に外国人が多い。しかも旅行者だ。これは、嵐山に向かうのか、それとも僕と同じ城崎へ向かうのか。
結論から言えば、ほぼ福知山までで大半が降りてしまった。隣の早弁サラリマンも亀岡でいそいそと降りていき、快適空間が出来上がる。
さて、遅くなったがここで駅弁だ。
とは言え、城崎で温泉と酒に溺れるのだから、ここで満腹になるわけにはいかない。
発車間際に自販機で買ったペットボトルの茶と、売店で待たずに買える柿の葉寿司。こんなので良い。いや、これが良い。
柿の葉に押されてピカピカするネタに、固く締められても柔らかく甘い米。安定の味だからこそ、僕の駅弁セレクトの中で上位に来る。
昔は旅行中に親父がよく鱒寿司を買っていた。ケーキみたいな形をした、丸く整形され、竹と輪ゴムで押されたヤツ。プラスチックのちゃちなナイフが付いていて、それでギコギコ切り分けて食うヤツだ。
子供の頃はもっと大きかった気がするが、アレもなんだか最近の世間の流れに逆らえなかったのか、やや小さくなった気がするが…ああした押し寿司が、僕の中での旅の最中に食う飯の定番なのだ。
そんな懐かしさもありつつ、柿の葉寿司を一つ二つとつまんでいるうち、長い河が車窓の右手に流れるようになる。円山川だ。
城崎までの、長いようで短い付き合いだ。豊岡で少し離れたかと思うと、玄武洞でベタ付きになる。こうなれば、目的地はもうすぐそこだ。
3 平日の昼間にのびのびと
城崎温泉の魅力というと、やはり落ち着いた風景だ。
奥座敷、なんて表現されるが、やはり都会の喧騒から逃れて来るにはちょうど良い緩さがある。
とは言え、世間が大型の休みならばそういうこともなく「山盛り人がきた」というくらいにはごった返していたらしい。
嗚呼、静寂が遠くなりにけり。
人が良く来るようになったという事実を裏付けるように、当たりには外国人だらけである。
国籍は不定。まさに入り乱れ。道を聞かれたり時間を聞かれたり飯屋はどこだと聞かれたり。
日本語母語話者には少々荷が勝ちすぎている。英語ならギリ分かる程度のコミュニケーション能力ではどうにもならん。
宿のご主人も「この歳になると、もう外国語とかわからんのよ!」と熱弁しておられた。
だもんで、残念ながら僕の泊まった宿は外国人は不可である。日本語喋れたら多分大丈夫。
素泊まりで、シーズンオフだとかなり安く上がる。外湯の入り放題券もついてくる。飯はないが、基本的に城崎温泉はメシどころがそこいら中にあるので困ることはない。
あと、嬉しいことにWi-Fiも完備してる。ネット環境すら困らないのだ。
部屋だって古いけど小綺麗だし、いう事なし。
時期が時期なら桜も部屋から見られるという、嬉しいロケーション。
これは非常にありがたい。
居酒屋の場所を一通り聞いて、まずは部屋で大きく伸びていた。
居心地がよい。なんならこの旅行は「インプット奴隷合宿」も兼ねているから、ここから本の虫になったって良い。
でも先ずは温泉だろう。そろそろ、外湯が本格的に開く時間だ。
先ずは、城崎と言えばここ、という御所の湯(ごしょのゆ)だ。
城崎温泉の顔、と言って良いかも知れない。
豪快な露天風呂と、滝の風景がなんとも風流だ。風呂も広いし、人気のわけもわかる。
実は露天風呂になったのは色々と訳アリなのだが、そこいらは地元の人と仲良くなり聞いたところによると、「冬期にあまりに寒かったため、換気扇を塞いでしまい、天井が腐って落ちた」とのこと。マジかよ。ちょっとした現場猫案件じゃねーか。
その天井の改修額が億単位になるため、苦肉の策で半露天のような今の形式になったとか。
コレに関しては、むしろそれで正解だったと思う。この開放感は、城崎では唯一無二だ。
今回、実は前に入った方とは違う湯に浸かったのだが、時期により男女入れ替えをしているようだった。
どちらも滝は見えるので安心して欲しい。ちょっと風呂のレイアウトが違うだけだ。
この御所の湯が優れているのは、自分で入り方を調節できるゆとりが設けられている事だ。
風呂で煮詰まれば、洗い場で頭に水を被り、外に設けられたベンチで外気浴も出来る。
ジェットバスもあるし、湯の取り込み場所に近づくと熱い湯にもありつける。
自分で調節すれば、如何様にも快適を創造できるのだ。
じんわり温まって、ベンチで火照った身体を冷やしつつ、また温まってを繰り返し、温泉を満喫する。
たっぷり一時間は楽しみ、カラッカラの状態で外に出た。
御所の湯は狭いながらも畳敷の休み処がある。
人が多い時期だとゆっくり出来る雰囲気ではないが、シーズンオフなら自由だ。
やはり湯上がりには牛乳。お好みでコーヒー牛乳でもフルーツ牛乳でも。
と言いたいところだが、最近はフルーツ牛乳が無くなったらしく、フルーツ牛乳派閥は涙を飲む羽目になった。僕のことだ。
製品名としてのコーヒー牛乳は無くなったが、僕はこれをコーヒー牛乳と言って憚らない。
大手企業の「クラフトビール」呼称を認めるくせに、こういう意味のわからないところで昔ながらの呼び方を消していくのは何なのか。
そんな愚痴も飲み込むのが、甘い癒しの乳飲料。
染みる。
一発目はビールよりもコイツだ。
ビンで飲むと、より一層美味い。
これがフルーツ牛乳ならなぁ、と思わないでもないが、美味い。
次は何処へ行くか、となるがここはやはり、人気の湯の連チャンである。
一の湯(いちのゆ)は、自分の泊まっている旅館から最も近くにある。本来なら、城崎温泉の顔はこちらであろう。
ここの自慢は「洞穴風呂」である。露天に行くと、岩穴があってそこが湯船になっている。
少し暗い時間帯だと、なんとも幻想的な雰囲気があって良い。朝や夕が良いとされるのはそのせいだろう。
ここでもたっぷりと湯に浸かり、水を浴びては休み、また浸かり…とまた一時間ほど楽しんだ。
ここは、ベンチみたいな休む所はないため、色々工夫が必要である。そういう意味で、御所の湯よりも難易度が高い。
湯はずっと浸からずとも良いのだが、ここらを勘違いすると、烏の行水となって「温泉の何が良いのか」と宣う羽目になるわけだ。何も茹だるまで浸からずともよろしい。
適当に上がっては外気で火照りを取るのだ。御所の湯はベンチがあるので、分かりやすいし、休みやすい。では、それがない施設はどうするのか。
コレを、たとえば脚だけ湯につけて行うのも良い。そういう入り方がしやすいのが、この一の湯だ。
洞穴風呂は、浅い場所が多いので、そこで上半身を外気にさらせば十分に休める。
なんなら、ちょっと深い所で腰まで浸かり、上半身は出したまま岩に背を預ければ、それこそ長く浸かれる。
要はリラックスだ。ほぐれれば何でも良い。強制的にそれを促すのがサウナだったりするが、風呂でも十分同じ効果を得るのは可能だ。
またも湯を堪能して、風呂から上がって2階に登り、マッサージチェアに乗る。一の湯は2階に休憩スペースがある。自販機もそこにあるので、水分補給にも使うと良い。
4 腹が減っては戦はできぬ
昼は軽かったからか、ここらで腹がいい具合に減ってきた。
城崎に来たら、酒もまた楽しい。特にビールは格別だ。
城崎に地ビールあり。ピルスナー、スタウト、ヴァイツェンと選択肢は豊富だ。
店によっては飲み比べメニューもあるので、全種欲張りに味わうのも良い。
僕は以前に全種制覇してるので、気に入っているヴァイツェンで一杯つける。
城崎は兵庫だが、兵庫と言ったら但馬牛だ。肉食いならば外せまい。
僕はハンバーグで肉欲を満たす。丁寧で美味い。ソースも肉汁たっぷりだ。
コレがいい塩梅に、塩気の足りぬ身体に染み渡る。ビールと合わせて無限ループだ。
金のことを考えないならば、何枚でも食えてしまう。実に危険な味わい。ビールだから致命傷で済んでいるのに、ワインを注文していたら多分死んでいた。
腹を満たしたところで、フラフラと街を散策する。観光シーズンを外れているから、街が普段の姿を見せている。
写真を撮ろうかなと思いつつも、あまりに普段すぎて、これは公開していいものかどうか、みたいな写真が撮れてしまう。
緩いもんで、客が来ないから早仕舞いしよう、なんてところも多い。しょうがないね。シーズンオフだもの。
普段は大行列であろう、名物「たまごパン」も客がおらずのんびりしている。
さて、腹もこなれ、軽く歩いて汗ばみ、酒も抜けたところで、温泉だ。
5 夜に向けて湯に浸む
城崎温泉の玄関口の一つである、JR城崎温泉駅のすぐそこに外湯がある。
これがさとの湯だ。駅を出て本当にすぐそこにある。帰る前にちょいと、みたいな使い方も出来るのだ。
外湯の中では、一番最近の入浴施設に近い。屋内風呂の他、露天風呂もあるし、なんなら各種サウナまである。
近年の需要を満たす要素が詰まっているのがここだ。
人がほとんどいなかったため、2階の露天風呂は貸切状態であった。心ゆくまで身体を伸ばすことができるし、サウナも選び放題だ。
露天風呂で下茹でし、その後スチームサウナに身を置き、体内の残ったアルコールを水分へと変換させていく。じっとりと暖まれば、シャワーを浴びて、再び露天風呂へ。
そんなルーティンをやっていると、ようやっと他の客が来た。
こちらは十分堪能したので、入れ替わるように1階の内風呂へ向かう。
1階の風呂も広く、何よりタイルで出来た曲線美と彩りが、グッと胸をつかむ。打たせ湯みたく高所から湯を入れている箇所もあって、そうした動きも目に楽しい。打たせ湯の滝の向こうに窓があり、そこに座れるようになっている作りも楽しい。湯休みしながら滝の向こうを見るという寸法だ。
居るだけで楽しいというのは、なかなか稀有ではないだろうか。
すっかりとアルコールも抜けたところで、宿方面に歩き出す。
城崎の大通りを歩いていき、川と踏切と信号の交差点に辿り着いたところに、地蔵湯がある。
湯に浸かる銭湯としては、一番スタンダードなのでは?と思えるくらいに普通の湯。
真ん中にズドーンと浴槽があり、周りに洗い場がある…という格好なのだが、一つだけ目を引くのが、温泉の「絵」に当たる部分だ。
タイルに富士山が描かれて、なんていうのを一般的にはイメージする、あの部分。
アレが、この地蔵湯では「玄武洞」をイメージしているらしい。
しかし、だ。
今回自分は行ってないのだが、玄武洞ってもっと岩が折り重なった、柱状節理の神秘が見られる場所で、結構壮大なんだけど。
六角形の柱岩(石?)が、ポツンとあるだけなんだよね。
うーん、玄武洞…ではないなぁ。
などと思いながら肩まで浸かり、汗を思いっきりかいた。
なんか、あまり良さそうな書き方をしていないので誤解を生みそうだが、非常に綺麗な場所なので、居心地がいい。当然温泉だから、長く居られるほどに良い場所であるのは分かるだろう。
僕はもうハシゴをしまくって、次の予定が立っているため「繋ぎ」という失礼な使い方をしているだけで、とても良い湯であったことは断っておく。
さて、湯から上がってまだ芯まで熱いうちに、ここで目的地へ移動だ。
地蔵湯の横の路地を奥へと進むと、ラーメン屋がある。
こんな温泉街で、町中華が食えると聞いたら、やるしかあるまいよ。
堪えられないほどのうまさ。
冷たいジョッキに、冷たいビールを注いだコイツが一番美味い瞬間が、このときだ。
からっからに乾いた身体に、瞬間で染み込んでいく黄金色の液体。
この世の至福だ。
餃子なんかをつまんでビールをやる。町中華の作法がここで出来るんだぞ。
やらない手はないだろう。
近くに地蔵湯がある!というので、この流れをやるのは確定していた。
実はこの後に行く湯と「どっちを先にするか?」で迷ったりもしたんだが、好みの問題で、それを後回しにしたのだ。
結論、僕にしてみればコレが正解だった。
ビールを楽しんで外に出ると、すっかり日が暮れていた。
さあ、本日最後の湯を目指す。
柳湯、という。
ここの湯は、とにかく「熱い」のだ。
一番を争うんじゃないか?と思ってる。今回行ってない「まんだら湯」といい勝負だ。
熱い湯を死ぬほど味わって、本日の〆とする。
これが僕の狙いだ。
ありがたいことに、オフシーズンという環境も手伝って人が全くおらず、完全に貸切状態。
心ゆくまで熱い湯を楽しみ、宿への帰途についた。
部屋にはいれば、もう布団が敷いてある。
ホスピタリティは満点だ。コレで十分。
コンビニで買ってきたビールを片手に、日本の宿にお馴染み「謎スペース」で読書に耽る。
眠くなって来たら、布団に移って寝ながら本を読む。
気がついたら、当然の如く眠っていた。読めた本は二冊。インプット奴隷合宿としても上々ではないだろうか?
まぁ温泉メインではあるんだけども。
6 日常はかくもそばに
翌朝、早くに目覚めてしまうくらいにはよく眠り、さらに疲れも全く無かった。
本疲れくらいしても良さそうなモノだが、まったくそれは無し。
興味深い「謎のワイン」を巡る探究の話は印象に残った。そんな一杯に出くわしたいものだが、悲しいかな僕はワインには明るくない。
いい歳なんだから、そろそろ覚えてもいいかなと思うんだが、それでも色々とハードルが高い。
好きなビールとウイスキーで適当にやってる方が性に合ってる。
それに、ぼちぼち休みが明けると仕事も待っているという、憂鬱な事実もある。
名残惜しいが、旅にも終わりはくるのだ。
そして、再び特急きのさき。
意外に早く帰る外国人客で、駅の改札がごった返しており、これはヤバいと思い切ってグリーン車にした。
これは正解。周りで騒ぐ人もおらず、騒がずもと人がいたとて、程よく距離もある。全くの快適空間であった。
そして、弁当にはのどぐろ寿司がある。
のどぐろの魅力は脂と柔らかさだ。
量も少しでも満足いくのが良い。
日常へ帰っていく飯にしては豪華だが、これくらいは許して欲しい。
仕事もグダグダの割に忙しく、休みもロクに取れない所に、肺病も再発し、踏んだり蹴ったりだったのだ。
こうした贅沢や休息が無ければやってられない。
ああ、それにしても、また京都駅を通るのか、あの人の多すぎる駅を。
それだけが憂鬱である。