おっさんの湯渡り4
地元のローカル線をのんびり歩いてみるか…
と思い立った連休初日の夜。いいか?旅は思い立ったらやるもんだ。
1 降りた事ない駅で降りてみよう
滋賀県は、JR西日本の発展により支えられている県である。
JR西日本といえば新快速。その恩恵をフルに受けるのが、関西のベッドタウンたる滋賀県だ。この在来線での弾丸列車が、京都・大阪への連絡を迅速・容易にし、湖南地域から京都30分、大阪1時間で移動できる滋賀にマイホームを買うというのがバブル期の流れだった。
その残滓ともいうべき廃墟群が、大津の北側、湖西線沿線にある。湖西線は踏切の無い高速高規格線路を有しながら、比叡山から吹き下ろす風に滅法弱く、唐崎・堅田あたりまではなんとかなるが、そこから北は止まることが多々ある。住宅事情も様変わりし、バブル期の別荘買いの勢いは無くなってしまった。
かくして、湖西にあるニュータウンの一部は「生ける廃墟」となっている箇所もチラホラ。
では湖東は?というと。
琵琶湖線として知られる大津から南回りの路線は、JR沿線に商業施設を建て、バブル後にも大学を招致するなどして発展。
なるほど、目覚ましい発展だ…
…いやいや、そうじゃない。
実は、それに該当する地域は「湖南」と呼ばれる地域だ。
厳密に言う「湖東」は、なかなかどうしてそうならなかった。甲賀や水口、八日市といった地域は、例えば草津線であったり、近江鉄道という私鉄沿線の単線区間が基盤である。
なのに、人がやたらと多い。集落もそれなりにあるし、でも、線路だけが貧弱なのだ。なぜ?人が集まっているのだから、もっと電車が発展しても良いのでは?と思われても仕方ないのだが、なぜそうならないのか?
そう、それは元々滋賀県は「車社会」だからだ。
草津線沿線であればまだ電車利用も多いものの、旧来野洲川流域で働く農家さんは車での移動が主体で、その家族であったり移住してきた人も通勤に車を使う人がめちゃ多い。
僕の知っている大半の人が車を使って通勤しているのが良い証拠。そもそも草津線でも賄いきれていないのだ。
そら30分に一本あるかないか、それも車両少ないのなら、快適さで車を選ぶ人も出ますよって話なんですがね。あの地域で電車使ってない人は、大体そう言ってます。ラッシュ時は混みすぎなのよ。
でも「それじゃいかん」と自治体が動いてる。
草津線沿線の色んな駅から、料金統一区間のコミュニティバスが出ており、それが主要住宅地や商業施設、観光施設に伸びている。さながら京都の市バス並みのサービスなのに、激安料金で利用できるのが非常に嬉しい(普段使ってる京都市バスが高いだけ、というのには目を瞑っておく)。
人口も着実に増え、草津線の複線化を叫ぶ声も増えている。それぐらいに人が増えて、住宅地も増えている。
つまり、今が熱くなる前なわけだ。
人が多くなる前に行っておきたい!
そんな理由で、旅立ったわけだ。
2 野洲川の恵み
さて、草津線はその名の通り滋賀県最大級のベッドタウン「草津」から伸びている。
そこから東方向、野洲川に沿っていき、三重県の柘植まで続いている。途中に忍者の里である甲賀を抜け、三重の伊賀お隣柘植まで行くのは、なかなか乙な繋がりなのだが、いかんせんここまでの滋賀県ルートが「単線」なこともあり、非常に寂しい風景が続くし、乗車人員もラッシュ以外は寂しい。
貴生川駅からは、他路線が伸びていることもありさらに乗車人数が少なくなる。
これが通勤・通学時間帯になればメチャクチャ混むんだから、まぁアンバランスな路線だとつくづく思う。
さて、そんな路線を早朝に「逆」に行くわけだ。人の流れに逆らうわけだから、当然同じ方向に向かう人は少ない。
しかも割と早朝である。物好きしか乗ってない。
野洲川をこの時間に行くのは、大体釣り人だ。若い頃に野洲川沿いを走ってたら、投網やってる奴らがいた。密漁である。そんな風に禁漁時期なんかもあるから、もし釣りをするのならちゃんと調べてから行こう。今見つけたら間違いなく通報する。
三雲駅で降りて、野洲川へ徒歩で向かう。釣具店を抜けて堤防から降りれば、砂利や石の溜まりがある。
ここいらでしばらく石探しをし、水晶やらガーネットを探していた。割と色んな石が流れ着いてくるので、見ていて飽きない。
川探しに飽きたら、次は散歩だ。道路に出て、来た方向、西に向かって歩き始める。
ここいらは道路は整備されてるし、そのロードサイドには昔ながらの「遊技場」跡が大量にあり、廃墟好きをワクワクさせる。
もちろん現役設備もあるが、やはり古き良き時代を知っている身からしたら「あー、ここ無くなったんだよな」となる。
そんなこんなで歩き通し、お隣の甲西駅に辿り着く。
程なくして来たバスに乗り、十二坊温泉のキャンプ場に向けて出立した。
3 石の仏に手を合わせ
温泉!と名がついたからには当然入るのだが、まだ早い。
朝の6時から歩き通し、まだ9時前である。まだ温泉は開いちゃいない。
そう、まだ歩きます。
オートキャンプ場の横を抜け、メイン道路ではないアスファルト舗装の道を行くと、電柱が途切れ、じゃり道へと変わる。
そこをさらに奥へ進んで行くと、三雲城の跡が道のそこかしこに見て取れるようになってくる。
この辺りは三雲城のメインの場所ではないものの、こうやって道のりに史跡が残っているのは、なかなかに趣き深い。
この先にあるモノだけを目当てに行くと見逃してしまう所なので、道すがらもしっかりと目を凝らしてほしいものだ。
さて、これこそが目当てのものだ。
恐ろしいスケールの「彫り物」が向かいの崖に見て取れるのである。
高さ6mほどの自然石に掘られた不動明王である。車谷不動尊とも呼ばれていて、江戸初期に彫られたそうな。
仏像やらに関して詳しいことは分からないが、とんでもないデカさなのは分かる。
落石もあって近くまでは行けなかったが、こうしたものは永く残って欲しいものだ。ありがたやありがたや。
そして、ここから戻ればおそらく温泉が開いている時間になるだろう。
散々歩いたんだ!ここからが本番だぜ!
4 待ちに待った湯
オートキャンプ場の併設という土地柄、やはり清潔なのは良い。
そして、何より平日に来ると人が少な…いや少ない事はねぇなコレ?
割と人がいる。それも地元の爺ちゃんが。何で分かるかって?ジモトークしてるからだよ!
知りたくもないお家事情が第三者に筒抜けになる昨今、お風呂リテラシーというモノは浸透していないが故に、非常に危ういプライバシー。世のご年配には気をつけていただきたいものである。
どうか当たり障りのない会話にとどめましょう。俺は地元の農家の売り付け先の良い悪いとか安い高いとか聞きとうなかったんや(言い訳)
閑話休題
内湯と外湯、どこも綺麗にされており、非常に快適だ。
家族連れ向きなのか、湯温も穏やかである。
まだ肌寒い時期に来ていたので、そういった場合は自然と長湯が出来る。水分補給さえクリア出来れば延々と入っていられる程だ。
芋の貯蔵庫やらネズミに食い荒らされたなんかの小粋な田舎トーク、どこそこの露天売りはぼっただのそんな話が行き交うのを除けば、非常に快適かつ心穏やかに過ごせる。
たっぷり昼過ぎまで浸かることになったが、全く疲れなかった。まさしくいい湯である。
湯上がりの休み場も完備されており、畳のだだっ広い部屋でゴロゴロできる。
住みたいくらいに快適だ。ここん家の子になりたい。
もちろん、フルーツ牛乳やコーヒー牛乳も完備である。
帰りは施設から直接バス一本で甲西へ。交通の便もこうなると、別に悪く感じない。逆にこんなに楽に行けて良いんですか?って気になる。
キャンプのついでに風呂に入れるのも良いし、日帰りで入る人も多いことから、そういう利用客も見込んでいるのだろう。
僕の趣味の散歩はさておき、気楽に入りに行ける遠くの温泉、皆さんもどうでしょうか。