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きまぐれ呑兵衛録

電車が止まっている。
最近のJR西日本にはまっこと多い。ついぞ昔はやってなかった「ホーム入場制限」まである始末。
ご丁寧に階段に規制線まで張ってある。
階段前には五列縦隊が組まれ、もうすでに長蛇となっている。
最後尾がコンコースの端まで伸びているのを見て、もう終いだ、10時くらいまでは埒が明くまい、と判断した。

となれば、突発の一人呑みである。
頭を切り替えて「何を飲むか、食うか」に思考を巡らす。
長居も無用だ。駅を去りながら街の看板に目をやる。駅の北に行くか南に行くかも重要だ。
だが、腹は決まっていた。
焼き鳥だ。焼き鳥で酒を飲もう。

長っ尻をするつもりはない。サッと入ってサッと食う。そして〆を河岸を移して食う。何ならデザートをつけてもいい。
そのとっかかりが焼き鳥だ。

京都駅の地下に潜り、京都タワー地下一階の飲み屋街に入る。
そこに、鳥せいが入っている。日本酒もあるから丁度いい。
店員に声をかけると、一人で行けるとのこと。カウンターも空いている…と思ったら、普通に席へ通された。別にカウンターでも良かったんだが、ここはありがたく使わせてもらうとしよう。

しぼりたての冷、肝の時雨煮、焼き鳥を注文。
時雨煮と酒はすぐに来るから良い。

写真撮る前に飲むぐらいには乾いていた

表面張力を体現した注ぎ方で運ばれてくるので、受け皿は必須である。
なに、多少溢れていても注ぎ直すから良い。
酒で喉を潤しながら、時雨煮を口に放り込む。
甘辛いネットリとした肝が口中に広がる。苦手な人が多いと聞くが、苦手なら全部俺に譲って欲しい。
ややあって、串も届く。

肝、ねぎま、こころ

たれ三銃士を迎えて、早くもボルテージが上がる。
肝が被るじゃないか、とお思いの人もいるかと思うが、煮た肝と焼いた肝はまた別である。炭火の薫るパツッとした肝を齧ると、柔らかい中が崩れるという、その食感の妙が生まれるのが焼き鳥の肝だ。
レアで焼くのは焼きの素人。新鮮だ安全だ何だのは言い訳に過ぎない。職人魂は肝にキッチリ火を通してなお柔らかい、その瞬間を逃さない、その技にこそ宿る。
脂を吸ったネギにまとわりつくタレ、程よく脂が落ち柔らかくなったももが一体となった「ねぎま」が、心安らぐ。焼き鳥と言ったらイメージされる代表選手。ホントはマグロだったんだよ、とわかっちゃいるが、もう鳥でしか見ることも無くなった今では、お前こそがねぎまだ。
こころはもう、泣かせに来ている。柔らかい。ひたすらに柔らかい。血の臭さなどない、下ごしらえの丁寧さが伺える逸品。小さくともそこに心遣いが光っている。

焼き鳥と酒を堪能して、1500円。十分である。

さて、飲めば塩辛いモノが欲しくなる。ラーメンなんかが。
そして、京都タワーには「さいか亭」がある。
ここのラーメンは美味い。シンプルな京都ラーメンの直球な旨さが、こういうところに潜んでいる。
外見は中華飲み屋だが、ちゃんとラーメン・チャーハンもあるのだ。作り手で味はバラけるものの、基本はしっかりしてるからそこまでハズレを引くこともない。安心安定の旨さ。

うまいラーメン

ラーメンを食って〆。冷えた酒も臓腑で温まる。
背後では未だ宴会を続ける酔客が居るが、こちらは早々に〆である。こうした対比が生まれるのも面白いところ。

さて、呑み終えたがまだ早い気がしてくる。
電車が動き出してしばらくは、まだ混み合っているだろう。
もう少し時間潰しが欲しいところ。

ならば、そのまま隣のスターバックスに入ってしまえば良い。

新作のケーキがありますよ、と言われた

宿酔い防止に糖分は重要である。
そして、帰るまでの居眠り防止にコーヒーを。実に完璧な布陣である。
ゆったりとコーヒーを楽しみつつ、時間が過ぎていく。

良い頃合いに、店を出る。
駅の混み合いはすっかり解消されていた。たまの呑みをすっかり堪能した。電車が止まっていた不満など何処へやら、これですっかり吹き飛ぶのである。

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