あんたがやりもくじゃないことくらい、私はちゃんと分かってたよ。
私と彼が出会ったのは、学科内での飲み会だった。
大学1年の春、仲良くなった女の子に誘われ、同じ学科の1年生が集まるという集まりに参加することになった。
彼と私は特別仲がいいわけではなかったが、飲み会で顔を何度か合わせていくうちに服や音楽の趣味が似ていることがわかり、次第に2人で話し込むことも増えていった。
ある時、いつものように複数人で飲みに行った後、半分くらいの人数で私の家に行き二次会を開いた。その中には彼の姿もあった。
彼は一見、寡黙でおとなしそうに見えるが、ノリがよく、率先してお酒を飲むようなタイプであったため、この日もかなり酔ってしまったようで私の家に着くや否や床で眠り込んでしまった。
2,3時間ほどわいわいとお酒を飲んだのち、1人が「俺そろそろ終電だから」といったのを筆頭に、皆がぞろぞろと帰宅し始めた。
いつの間にか彼も目が覚めていたようで
「俺んちここから近いから片付けしてから帰るわ。」
と言って部屋中に散らばったお菓子のごみや空き缶を集め始めた。
少し寝たおかげで酔いはすっかりさめたようだった。
「そんなの気にしなくていいのに。」
私が手伝いながらそう言うと、
「そうか?なら、2人でもうちょっと飲まん?笑」
なんて言いながら未開封のまま残されていた缶チューハイを2つ手に取り、私に笑いかけた。
「…あり。」
私たちは並んで机の前に座り、乾杯をした。
そこからはいろいろな話をした。あの教授がうざいだとか、あの先輩が怖いだとか、あのバンドが最高だとか、あの曲が好きだとか。
とても楽しい時間だった。
いつのまにか残っていたお酒を二人で飲み切ってしまっていた。
「結構飲んじゃったねー。」
なんて言いながら彼のほうを見ると、少しほてって赤くなった顔の彼と目が合った。
その瞬間、私たちはどちらからともなくキスをした。
彼は私をベッドに誘導し、とても丁寧に私を抱いた。何度も優しく名前を呼んでくれた。そんな彼がとてもいとおしく感じた。
翌朝、彼が布団から出る音で目が覚めた。
「ごめん、起こしちゃったね。」
彼はまだ横になっている私のそばに戻ってきて、静かに頭をなでながら言った。
「付き合おっか。」
その日から私たちは恋人同士になった。
友達には「それ絶対やりもくだよ!」とよく言われた。
私も初めはそう思っていた。
彼と会うのは決まってどちらかの家だったし、ほとんどが夜だった。
だけど、あの日以来、彼は私をほとんど抱かなかった。
キスはしたし、一緒にお風呂に入ることもあった。でも、その先は、ない。
私も性欲があるほうではなかったため特に苦痛ではなかったし、なにより友達のような関係のままいられるのが心地よかった。
だが、しばらく経つと彼と会う頻度は減っていった。
ときどき会うといつものように他愛もない会話をして楽しい時間を過ごしたが、どこかぎこちなさを感じるようになっていた。
いつからか私は彼との関係性がわからなくなっていたし、彼への気持ちもわからなくなっていた。
このままではいけない、と感じた私は彼に電話をかけ、彼の家に行くことになった。
「私のこと、どう思ってるの。」
「好き、だよ。でも、恋人としての付き合い方がわからない。」
きっと彼も私も、同じ気持ちなのだ。
「別れよっか。」
気づけば私はそう口にしていた。
彼は驚いたような様子もなく静かにうなずいた。
付き合って約半年、私たちは終わった。
身体の関係を持ったことから始まったはずなのに、身体を重ねたのはたった2回。
少なかったけど、満たされていた。
彼とはその後も普通の友達として接した。
学科内の複数人でまた何度も飲み会をひらいた。私の家にも来た。
でも、彼はもう「片付けするから」なんて言って残ってくれることはなかった。