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私たち、ただのセフレでいるには少しお互いを知りすぎたね。



私にはセフレがいる。
気まぐれで始めたマッチングアプリでたまたま出会った、音楽の趣味が似ている3つ年上の男の人だ。
ただの暇つぶしのつもりで、1,2回会って終わる関係のはずだった。
それなのにどういうわけか1年たった今でも頻繁に会って体を重ねている。

私たちは会うたびにいろいろな話をした。
好きな音楽の話、好きな食べ物の話など、当り障りのない話ばかりしていた。
彼は自分のことをあまり多く語ろうとしなかったため、私もあえて深く追求しようとはしなかった。
でもある時、彼が「聞いてほしい話がある」と言って静かに自分の過去の話を始めた。
幼い頃に両親に捨てられたこと、孤児院にいたこと、引き取られた先の家庭で虐待を受けていたこと、自殺を試みたこと、身近な人が何人も亡くなってしまったこと。
私には想像できないつらい話ばかりだった。
正直、すべてを信用することはできなかった。所詮私は、アプリでたまたま出会っただけの女だ。同情させてキープするための戦略なのかもしれない。
疑う気持ちはあったが、もし、彼の話が全て本当だったとすれば、彼は今までどれだけつらい思いをしてきたのだろうと想像するととてもいたたまれなかった。
その時の私には、彼を抱きしめることしかできなかった。かける言葉がわからない。ただ「頑張ったね」としか言えなかった。

「俺が死んだら、どうする?」
彼にそんなことを聞かれたことがある。
「死ぬときは私に言ってね。私も一緒にいくから。」
当時の私は抑うつ状態がひどく、彼の家に行く時くらいしか家を出れなくなっていた。
大学では欠席が続き、バイトもやめた。自分が嫌いで仕方なくなり、死んでしまおうと考えていた。
私の返答は、彼には予想外だったみたいだ。
彼は少し驚いた顔をした後、「じゃあ生きなきゃだね」と笑った。

また、別の日には、私が彼の家で「死にたい」と泣いた。
私が安心して泣けるのは彼の前だけだった。
「死にたいなんて言っちゃだめだよ。」
たいていの人はそう言う。でも彼は言わない。
私の呼吸が落ち着くまで隣で静かに待った後、
「そんなことしたら俺も死ぬよ。俺のために生きて。」
真剣な顔をしてそんなことを言うから、ちょっと笑ってしまった。

そうやって、私たちは自分の弱い部分をお互いにさらけ出すようになった。
そしてもっといろいろな話をした。
学校のこと、仕事のこと、家族のこと、友達のこと。
でも、どれだけいろいろな話をしても、苦しみを共有しても、私たちはセフレだ。所詮、身体の関係でしかない。
私は彼のことが好きなわけじゃないし、付き合いたいとも思わない。それはきっと彼も同じだ。どちらかに恋人ができるまでの脆い関係だ。

それでもいいと思った。それがいいんだと思った。
彼が死んでも、私は死なない。同様に、私が死んでも彼は死なない。
口だけだ。甘い言葉を吐いて騙し慰めあう、ほら、セフレにピッタリじゃないか。


こうやって私はずぶずぶと沼にはまっていった。
身体の関係なんて、世間体のいいもんじゃないし、リスクも伴う。
やめたほうがいいのは分かってる。
でも、彼のおかげで私は今も生きている。
もう、いまさら連絡を取るのをやめようだなんて、私にはできない。


私たち、ただのセフレにしては、お互いを知りすぎたね。


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