私にきれいな恋愛をさせてくれてありがとう。
高校3年生の10月、私はクラスメイトと付き合い始めた。
彼とは3年間同じクラスだったが、よく話すようになったのは3年生の夏ごろだった。
いつも明るくてクラスのムードメーカー的存在だった彼と、まじめぶって机に向かう私とでは、住む世界があまりに違っていた。
彼と仲良くなったきっかけは、文化祭だった。
準備を進めていく中で会話が増え、仲良くなるという高校生にありがちなやつだ。
彼と過ごした日々は、楽しかった。
毎日どきどきしていた。
おそろいのキーホルダーを通学リュックに付けて、
一緒に撮ったプリクラをスマホケースに入れて、
受験の前の日にはお菓子を渡して励ましあって、
バレンタインには手作りのクッキーを渡した。
とても純粋な恋愛だった。
私もそれを望んでいた。
でも、私たちは半年も経たないうちに終わった。
スキンシップが好きな彼と、苦手な私。
ある時ぷつっと何かが切れ、私が限界を迎えた。
彼とのキスが気持ち悪くて仕方がない。
彼は、私が相手だと幸せになれない。
彼の望んでいることを、おなじように望んでいる人がきっとほかにいるはずだと思った。
お互いの大学受験が終わった後、私は彼に別れを告げた。
4月、私は上京して大学生活が始まった。
念願だったひとり暮らしに心を躍らせていたが、現実は思っていたよりつまらなかった。
まじめな子が多い学部に、授業の話しかしない友達、上下関係の厳しいサークル。
何かが足りなかった。
やけくそでマッチングアプリを始めた。
付き合うためではなく、刺激を得るためだった。
1人目、相手の家でお酒を飲んだ。
やっぱり、キスは気持ち悪かった。
でも、口を使わない行為なら何も感じずにできることが分かった。
2人目、散歩という名目で会い、相手の家へ行った。
お酒がないと初対面での行為はかなりきついと学んだ。
3人目、相手の家でお酒を飲んだ。
泥酔していれば何とかキスもできると分かった。
4人目、ホテルへ行った。
この人とのキスが今までで一番気持ち悪いと感じた。
5人目、1回目で散歩、2回目で相手の家へ。
なぜか普通にキスできた。この人とは何回か会った。
6人目、………。
なんて調子でたくさんの知らない人と身体を重ねた。
気が付いたら、あんなに苦手だったスキンシップが全く苦痛じゃなくなっていた。
キスも普通にできる。もちろん、それ以上のことも。
そんな風に不健全な毎日を過ごしている中で、ときどきふと、高校時代の彼を思い出す。
キスが気持ち悪くて別れた。
なんて今考えると申し訳ない。
だって今の私は、初対面の人とキスをして身体を重ねているんだから。
でも、彼とは別れてよかった。
彼は一途で純粋だし、純粋な私しか知らない。
こんな貞操観念の狂った女と付き合っていたなんて、彼がかわいそうだ。
こうなった今でも、彼との恋愛はいい思い出だ。
こんな私を好きになってくれてありがとう。
私に純粋な恋愛をさせてくれてありがとう。