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あなたにとってはただの幼なじみでも、私にとっては忘れられない元彼でした。

「ひさしぶり。」
彼に会うのは半年ぶりだ。
大学生になって初めての夏休み、二人で飲みにでも行こうという話になり、私たちは再会した。

彼と出会ったのは小学生の時。
家が近かったこともあり、ほかの友達も含めて放課後はよく一緒に遊んでいた。
付き合っていた時期もある。
でもそれは小学生や中学生のかわいい恋愛で、曖昧なまま別れた。
高校も同じだということもあり、SNSで時々やり取りをする程度の関係は続いていた。

服装や髪色が変わり大人びた印象になってはいるものの、ぶっきらぼうでいつもだるそうにする仕草は仲の良かった小中学生時代と変わっていなかった。
「お前、酒強いの?」
「特別弱くはないけど、強くもないよ。」
「へー。」
彼の興味があるのかないのかわからない反応が気になりつつも何気ない会話が続く。
彼はかなりお酒に強いらしい。ペースが速い。
つられて私も普段よりかなり速いペースでアルコールを体に注ぎ込んでゆく。酔うより先に顔が赤くなるタイプの私はすぐに顔のほてりを感じた。
「お前がめちゃくちゃ酔ってるとこ見てみたい。酔わせていい?笑」
そんなことを言われたところで席の時間が来た。
ふたりで居酒屋を出る。
二軒目に行く案もあったが、コンビニのほうが安上がりだという話になり、私をコンビニ前の花壇に座らせて、彼がお酒を買いに行った。
コンビニから出てきた彼の手には、500mlのストロング缶が2本握られていた。
「ありがとー。」
すでに酔いが回ってふわふわしていた私はどうにでもなれという気持ちで缶を受け取った。
相変わらず当たり障りのない会話をしながら二人でお酒を飲む。
彼は「紙だとめっちゃ酔いまわるんだよなあ」なんて言いながら煙草を吸っていた。

ふとスマホで時間を確認する。23時53分。
やらかした。帰れない。
彼の家寄りの繁華街で飲んでいたため、私の家までは電車で1時間30分ほどかかる。あと10分早く気づいていれば終電に間に合ったのに。
「やばい。終電逃しちゃった。」
「あー、まじか。」
私は一人でカラオケにでも入って始発を待つつもりだった。
「…俺んち、来る? さすがに一人で放っておけないよ。」
そんなこんなで彼の家に行くことになった。
正直、その時の私はめちゃくちゃに酔っていてどこを歩いたのかすら覚えていない。ときどき彼に「酔っ払い~」なんて馬鹿にされたことだけは覚えている。

彼の家につき、途中のコンビニで買った缶チューハイで何度目かわからない乾杯をする。
「私のこと、どう思ってるの?」
酔った勢いでそんなことを聞いてしまった。
「幼なじみ、かなあ。」
「ふーん。」
私はちゃんと元彼としてみてるよ、なんて言葉を飲み込みながらふわふわした頭で彼が話しだした別の話題に耳を傾ける。
そうしているうちに私の眠気がいよいよ頂点に達してしまった。
「ごめん、眠すぎる。限界。」
そう言って横になろうとする私に、
「寂しいからだめ。まだこんなに残ってるじゃん。」
なんて言って缶チューハイを押し付けてくる。
「もうむりだってー。」
一口飲んで缶を置き、つぶれる私の上に彼が覆いかぶさってきた。
「寝ちゃだめ。」
「さびしい?」
「うん。」
彼の顔が近づいてくる。
そして優しくキスをされた。
そのあとの記憶はあまりない。
ただ、もう何年も知っている見慣れた顔がずっとそこにあった。
いままでの誰との行為よりも安心して身をゆだねていた気がする。
一通り終わると彼はベッドから離れ、しばらく戻ってこなかった。
タバコでも吸っているのだろうとよく回らない頭で考えながら服を着て、そのまますぐに深い眠りに落ちてしまった。

翌朝目が覚めると、私は彼に腕枕をされながら寝ていた。いつ彼がベッドに入ったのか、いつこの体勢になったのか全く記憶になかった。
頭がのっていては重いだろうと思い、少し下にずれてもう一度寝ようとしたところで彼の目が覚めた。
私と目が合ってほほ笑んだ後、私の頭をなでながら目を閉じた。
彼の表情は今までに見たことがないくらい優しかった。

しばらくそうしていたあと、お昼も近くなってきたため私は彼の家を後にした。
二日酔いで頭が痛かった。
電車に乗っている間、頭をなでる彼の顔が離れなくてとても苦しかった。
やっと気が付いた。私は彼のことが好きだったのだ。
特に恋人らしいこともせず終わった昔の恋愛を忘れきれていなかった。
ちゃんと大人になってから、彼の恋人になりたかった。
でも、もう終わってしまった。
付き合ってないのに、しちゃったんたから。
彼にとって、私はただの幼なじみなんだから。
家について、一人で静かに泣いた。


彼のことを恨んだこともあった。
幼なじみにキスすんのかよ。とか、好きじゃないなら頭なでたりすんなよ。とか。
でも、今ならわかる。
悪いのは私だ。
あそこで簡単に体を許しちゃいけなかったし、そもそも終電でちゃんと帰っていればよかったのだ。
そうすれば、いまも友達として普通に会えていたかもしれないのに。
あれから彼とは連絡を取っていない。

私を幼なじみにしてくれてありがとう。
大好きだったよ。

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