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高瀬白船駅女性失踪事件 ~8番出口二次創作小説~

令和5年12月5日 新聞記事抜粋

29歳女性会社員が行方不明
東京都内で29歳の女性会社員が行方不明になっていることが、警察からの発表で明らかになりました。行方不明者は東京都練馬区に住む田中美咲さん(29)。彼女は都内の広告代理店で働いていました。

同僚によると、美咲さんは非常に仕事熱心で、営業のため都内各地を頻繁に訪れていました。11月29日の午後、新宿区での商談を終えた後、次の商談には姿を見せず、家族や友人との連絡も途絶えたままです。

美咲さんは身長約165cm、短めの黒髪、眼鏡をかけた細身の体型で、最後に目撃された時はスーツ姿で、濃い青色のバッグを持っていました。警察は、彼女の行方に関する情報提供を求め、最寄りの警察署まで連絡するよう呼びかけています。家族からも「どんな些細な情報でも構いません。何か知っている方はご連絡ください」とコメントが出されています。

行方不明になった田中美咲さん(29)

発見された手帳と美咲さんの手記

12月11日、江東区に所在する高瀬白船駅構内にて、美咲さんの所有物と思われる手帳が発見された。この駅は美咲さんが最後に訪れる予定だった商談先の最寄り駅に該当する。手帳には大量の血液が付着しており、警察は美咲さんがここで何らかの事件に巻き込まれた可能性を考慮し、高瀬白船駅周辺を重点的に捜査する方針を決定した。

手帳の中には、11月29日の予定が以下の通り記載されていた。

12:00〜13:00 トーセ・MTG @JR新宿 西口
15:00〜16:00 タイコー・進捗報告 @高瀬白船 8番出口
17:30〜18:30 西部食品・色校正 @JR北千住 南口(直帰)
※欄外には小さく「やったー!!」の文言と笑顔の顔文字が添えられている。

手帳のフリーページには業務に関するメモが記されていたが、特定にページには極めて乱れた筆致で以下のような記述が残されていた。

手記1:
こわいこわいこわいこわいこわい
でられないどうして
おかしいおかしいおかしいおかしいおかしい
人はいるのにへんじしてくれない
だれなのたすけてたすけてたすけてよ
(※このページはペンでぐちゃぐちゃに塗りつぶされている)

この記述以降も、美咲さんのものと思われる書き込みが続いている。内容から見て、失踪後に書かれたものと推察されるが、美咲さんが著しく動揺しているためか、記述は極めて不明瞭かつ混乱したものとなっている。
以降はその書き込み内容である。複数回にわたり断続的に記述された形跡が確認されており、暫定的に各書き込みを時系列に従って整理し、番号を付している。

手記2:
おっけい、落ち着こう。ちょっと冷静になって、何が起きたか書いてみる。

タイコーとの約束は15時だったから、14:40に高瀬白船に着く電車に乗った。改札を降りて、いつも通り地下通路を歩いてた。そしたら、突然電気がパッと消えた。驚いて、思わず転んでしまった。何も見えなくて、しばらくじっとしてたけど、電気は戻らない。誰かいないかと思って大声で呼んだけど、何も聞こえない。壁を手で探りながら進んだ。

角を曲がったら、急に電気が点いた。その時初めて、眼鏡がないことに気づいた。多分転んだときに落とした。慌てて戻って探したけど、見つからなかった。しょうがないから、そのまま出口に向かう。でも、どれだけ歩いても階段がない。出口がない。こんなに大きい駅だったっけ?と思いつつ、時間が迫っていたからとりあえずタイコーに連絡する。でも圏外。地下だから?

本当に時間がないから、小走りで出口に向かう。でも、走っても走っても出口は見つからない。なんで?この駅がこんなに広いわけないじゃん、絶対おかしい。もう1時間くらいこの通路に閉じ込められている。

どうして戻れないの?改札はどこ?さっきすれ違った人、なんか大きかった?何なの、意味がわからない、なんで?なんで?たすけて、お願い誰かたすけて。おかしい、どこなのここ、なんで?たすけてたすけてたすけ
(※この後、再びペンでぐちゃぐちゃに塗りつぶされている)

付記1:
この記述内容を基に、警察が高瀬白船駅の職員に対し聞き込みを行ったところ、11月29日に8番出口へ続く地下通路で眼鏡の落とし物が発見されていたことが確認された。美咲さんの家族の証言によれば、その眼鏡は彼女の所有物であることに間違いないとされている。
また、美咲さんは極度の近視であり、眼鏡がなければ日常生活に支障を来すほどの視力だったことも捜査で判明している。手帳の記載内容が全般にわたって乱れているのは、彼女が動揺していたことに加え、眼鏡を失った状態で書き込みを行ったためであると推察される。

手記3:
さっき壁から何かが出てきて肩を掴まれた。すごい勢いで揺すぶられて悲鳴を上げた。気が付いたら誰もいなくなって通路にひとりで立っていた。
頭がおかしくなりそう。

手記4:
わかったこと。
角を四回曲がると、長い通路にでる。長い通路の左側には、多分何かのポスター。右側には扉とか消火栓とか。進んでも、戻ってもこの配置は変わらない。延々と同じ廊下が、前にも後ろにも続いている。
廊下を進んでいると、いつも同じタイミングで誰かとすれ違う。剥げてるから多分男の人。この人に話しかけても無視される。
あとを追うと通路を曲がったところで立ち止まって動かなくなる。スマホか何かをいじってる。
そのまま進むとまた同じ人とすれ違う。同じ人がたくさんいる。

手記5:
初めて別の人に会えた。二人。通路の真ん中に立っていた。
声を掛けてみたけど、ただこっちをじっと見てるだけだった。
薄気味悪くなって、思わず走って逃げだした。

手記6:
もう歩けない。
とりあえずいまは何も変なことは起きていない。一旦休憩しよう。
スマホで何度も110番してるけど、いっこうに繋がらない。お母さんにもライン送ったけど、多分送れてない。いつもならすぐ返信くれるから。
眼鏡がないからずっと手探り。神経がすり減る。
このメモもちゃんと書けてるか、自分ではわからない。でも、これを書いているあいだだけは、少しは落ち着いていられる。

手記7:
疲れて通路の途中で眠った。夢なら覚めてほしかったけど、起きてもまたここにいた。お腹が空いた。昨日の朝ごはんから何も食べていない。お茶だけじゃなくて、食べ物も買っておけばよかった。もうここでじっとしていたい。

手記8:
天井に防犯カメラがあるのに気付いた。赤く光っている。
もしかしたら誰か見ているかもしれないと、手を振ってみたけど特に何も起きなかった。わたしは誰からも無視される。

付記2:
行方不明になった11月29日、監視カメラが捉えていた高瀬白船駅の改札を出る姿を最後に美咲さんの足取りは完全に途絶えていた。
しかし、この書き込みをもとに高瀬白船駅の8番出口に続く地下通路の防犯カメラの映像を警察が確認したところ、美咲さんが行方不明になった翌日の11月30日17時23分の映像に、美咲さんと思わしき女性が防犯カメラの前で何度か大きく手を振る姿が残されていた。美咲さんと思わしき女性は、5分ほど手を振り続けたあと、力なく両手で顔を覆って立ち尽くし、そのまま画面外に歩き去っていった。
美咲さんが改札を出てからこの映像に映るまで、他の監視カメラに美咲さんの映像は残っていなかったが、高瀬白船駅は防犯カメラに映らず駅の外に出るルートは存在しない。そのため美咲さんが、高瀬白船駅の監視カメラに映らない地下通路途中のどこかで24時間以上待機していたとする以外に、この映像を説明する術はないが、駅職員または利用客からはそのような目撃情報は得られていない。

手記9:
廊下の途中にある扉を、だれかがどんどんどんと叩いていた。扉は鍵が閉まっていて開かなかった。しばらくのあいだ、呼びかけてみたけど、やっぱりむだだった。
諦めて先に進んだら扉を叩く音が突然消えた。まるで私に聞かせるためだけに扉を叩いていたみたい。

手記10:
歩いていると、ごごごごという音が聞こえてきた。なんだろうと思ってる間に、急に足元から勢いよく水が流れてきた。
転んで全身に水を被りながら、なんとか息をしようともがいていたら急に水が引いた。服も髪も濡れていない。床も水が流れた形跡はない。

もうおかしいと思うのにも疲れた。

手記11:
私が角を曲がるのと同時に、廊下の先の方から足音が聞こえてくる。私がずっと廊下の途中で座ってても、あちらからやってくることはない。角を曲がるのと同じタイミングで足音が聞こえてくる。
周りがよく見えないのがとても怖い。気付いていないだけで、私はずっと誰かに見張られてるのかもしれない。

手記12:
いま外に出たじゃんなんでまだここに
(※この書き込みは、見開き二ページに渡って乱暴な筆跡で、大きく書き殴られている)

付記3:
手記12周辺の数ページが一部破れている。恐らく動揺した美咲さんが発作的に行ったものと思われる。

手記13:
どのくらい時間がたったのかわからないけど、三日目。いつの間にか寝てしまっていた。
昨日、上に登る階段を見つけて、外に出れたの気付いたらまたここにいた。陽の光が差していて、間違いなく外に出たのに。
また昼も夜もわからない場所。蛍光灯はもううんざりだ。もうどれくらい時間が経ったんだろう。

手記14:
携帯バッテリーでなんとか持たせていたスマホの電池もとうとう無くなった。特に何か役立ってた訳じゃないけど、それでも一気に不安になる。もうみんなと会えないかもしれない。話すことはもう二度とないのかもしれない。ここにいるのは、ただ薄気味悪いおっさんだけ。

付記4:
12月3日昼過ぎ、8番出口の地下通路で、携帯バッテリーに接続されたスマートフォンが清掃中の駅職員によって発見された。駅事務所に落とし物として保管されていたが、美咲さんの眼鏡の捜索が行われた際このスマートフォンも発見、家族の確認により美咲さんの所有物と判明した。
職員の証言では、早朝の清掃時には何もなかったため、朝から昼過ぎにかけて誰かが置いたと考えられる。発見場所は監視カメラの死角で、誰が置いたかは不明である。

バッテリーは消耗しており、警察が充電後に確認したところ、110番通報や家族へのメッセージなどが312件試みられていたものの、全て未通または未送信だった。このことから、美咲さんが行方不明中は電波が一切届かない環境にいた可能性が指摘されているが、駅構内では通常電波に問題はないことが確認されている。

美咲さんが母親に送ったメッセージの一部:
「まおごになった、えきで、んぱがない。めかねなくて、みえな、。おかあはん」
「たすけて、おかあmさn、どこにいrかわからない、だれもいない、こわい。たrけて」
「もうだみだ。おかさんごめなさい、もにこわい、しnそう。たすけれえ」

手記15:
誰にも読まれないかもしれない文章をずっと書いてる。でも、書いていないと不安で気が狂いそうになる。
頭がぼーっとしてきた。持ってたお茶も無くなってしまった。わたしはここで死ぬのかもしれない。

手記16:
しにたくない
(※手記15の上に被せるように書き殴られている)

手記17:
いいことを思いつく。なんで今まで気づかなかったんだろう。

いつもすれ違うおっさんから持ち物を奪ってみた。すごく緊張したけど、あっけないほど簡単に奪えた。特に抵抗もなかった。私がカバンを奪ったあとも、そこに突っ立ってスマホをいじっていた。
カバンの中にペットボトルの水が入っていた。一気に飲み干した。久しぶりの水。本当に、本当に美味しかった。ここに閉じ込められてから、初めていいことが起きた。

スマホも奪ってみた。もしかしたらどこかに繋がるかもと期待していたけど、やっぱり電話は繋がらなかった。すごい残念だけど、なにかのタイミングでどこかと繋がるかもしれないと思うだけで希望が出てくる。これは持っておこう。

おっさんはスマホをいじってるような体勢のまま、その場にずっと突っ立っていた。まるでゲームのキャラみたいだ。

こいつらは、きっと人間じゃない。

手記18:
再びおっさんからカバンを奪ってみたら、予想通り水が入っていた。
もう水の心配はいらない。でも、食べ物はどうしようもない。
人間って食べ物を食べずにどれくらい生きていけるのだろう。
手が震えてうまく文字が書けない。

手記19:
目が覚めると、もう嫌と言うほど見飽きた景色。それもだんだんぼやけてきた。頭が全然回ってない。でも、このメモだけは書き続けよう。そうじゃないと自分がまだちゃんと生きてるのかわからなくなる。

わたしちゃんといきてる?

手記20:
今日はただひたすら歩いた。

周りでは相変わらず何かが起こってる。もう同じことも何度も繰り返している。誰かに掴まれたり、誰かが扉を叩いていたり、水が流れてきたり。でも結局何も起きない。あれらは無意味だ。私にとって何の危害でもない。私はただ歩くだけ機械なんだと思えば気楽。

また一瞬だけ外に出れた。もしかしたら次はちゃんとここから抜け出せるかもしれない。それだけ考えていよう。他は何も考えなくていい。

付記4:
11月30日以降、8番出口の地下通路に設置された監視カメラに、美咲さんと思われる人物が不定期に映り込んでいることが確認されている。映像には些細な違いはあるものの、基本的には画面奥の廊下の角から美咲さんと思われる人物が現れ、そのまま通路を進み画面外へと姿を消すというパターンが繰り返されている。
また、その際には必ずワイシャツ姿の50代後半と見られる男性が美咲さんとすれ違う様子が記録されているが、他の監視カメラには美咲さんおよびこの男性の姿は確認されていない。
鑑識の結果、この男性は高確率で同一人物であると断定されており、美咲さんの失踪に関連している可能性が高いとして、警察は本人物に関する捜査を進めている。

手記21:
きょうは2回外に出れた。足がもつれるけど、大丈夫。ちゃんと前に進んでいる。

手記22:
きょうは1回。つかれて、あまり歩けなかった。

手記23:
きょうはほとんどあるけなかった。
おなかがすきすぎて、まともにたってられない。
なにかたべなきゃ

手記24:
さっきからずっとかんがえていることがある。
でもけっしんがつかない。

手記25:
あいつらはにんげんじゃない。あいつらはにんげんじゃない。あいつらはにんげんじゃない。あいつらはにんげんじゃない。あいつらはにんげんじゃない。あいつらはにんげんじゃない。あいつらはにんげんじゃない。あいつらはにんげんじゃない。あいつらはにんげんじゃない。あいつらはにんげんじゃない。あいつらはにんげんじゃない。あいつらはにんげんじゃない。

手記26:
もうげんかい。これをかきおわったらたべる。

手記27:
わたしまだいきてる

付記5:
手記27の文章はこれまでの文章とは違い、人間の血液をインク代わりに指を使って書かれたものであると考えられている。
当初、この手帳に大量に付着していた血液は美咲さんのものであると思われていたが、DNA鑑定を行ったところ美咲さんのものではないと断定された。

令和5年12月21日 新聞記事抜粋

行方不明の女性会社員、3週間ぶりに無事発見
【東京】警視庁深川署は、11月29日から行方が分からなくなっていた東京都内の会社員、田中美咲さん(29)が、12月20日に無事保護されたと発表しました。田中さんは、江東区内の高瀬白船駅付近で倒れているところを通行人に発見され、119番通報で救急搬送されました。

田中さんは、11月29日午後に高瀬白船駅を最後に行方が分からなくなり、警察は事故や家出の可能性も視野に入れて捜索を続けていました。しかし、12月11日に同駅構内で田中さんの手帳が血痕付きで発見され、何らかの事件に巻き込まれた可能性が浮上していました。

20日午後0時10分ごろ、高瀬白船駅近くの出口で田中さんが倒れているのを通行人が発見。田中さんは衰弱していたものの、命に別状はなく、病院で治療を受けています。

付記6:
高瀬白船駅8番出口地下通路の監視カメラの映像を警察が確認していたとこ警察が高瀬白船駅8番出口の地下通路に設置された監視カメラ映像を確認した結果、美咲さんの手帳が発見されてから3日後の12月14日、美咲さんと思われる女性の姿が映像に記録されていることが判明した。この時点で既に高瀬白船駅を中心に警察の捜査は開始されており、美咲さんが駅構内には間違いなく存在していないと確認されていた。

映像に映る美咲さんの全身には血液のような物質が広範囲に付着しており、右手には切断された人間の前腕部らしきものが握られていた。また、この前腕部には動物による咬み跡と推測される痕跡が確認されている。
美咲さんは、他の映像と同様に画面奥の角から現れ、ゆっくりとした足取りで廊下を進んでおり、同時に常に美咲さんと一緒に確認される男性の後ろ姿も映っていた。
他の映像中では美咲さんは画面外に姿を消していたが、この映像内では美咲さんはその男性の背中に視線を向けるような動作を見せた。続けて手に持った前腕部を嗅ぐような動作を行い顔をしかめた表情を見せたあと、その前腕部を防犯カメラの視界外へ投げ捨てた。そして、美咲さんは踵を返し、男の後を追うように再び画面奥の角を曲がり消えていった。
12月20日に白船高瀬駅の8番出口を出た路上で保護されるまでの間、防犯カメラではこの映像を最後に美咲さんの姿は確認できなかった。

保護された際、彼女は行方不明当時の所持品は一切持っていなかった。その代わりに、美咲さんのものではないスマートフォンを1台所持しており、SIMデータから所有者を確認したところ、2020年8月に同じく江東区周辺で行方不明となっていた田所一郎氏のものと判明した。
このスマートフォンには田所氏のものと思われる履歴が行方不明となる2020年8月まで残されていたほか、何者かが撮影した男性の惨殺体の写真が複数枚保存されていた。撮影場所は高瀬白船駅の地下通路内だと思われるが、そのような事件が起こった痕跡は一切確認されない。
なお、写真に映っていた男性の惨殺体は行方不明になっていた田所氏であると思われるが、遺体の損傷部位から判断すると田所氏が最低でも3人以上存在しなければ説明がつかず、この惨殺体が精巧な作り物である可能性も視野にいれられて捜査が進められている。

現在、田中美咲さんは都内の病院に入院している。心神喪失の症状が出ているとの診断がされており、警察は未だ事件に関する詳細を本人から確認できていない。

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