仮称Aさん
僕が小学校三年生の頃、クラスに嫌いな人がいた。その人は女の子で気が強く友達は少なそうだった。その人を仮にAさんとしよう。
その日、僕は何も考えずボーッとしていた。何かを見ているわけではなく、ぼんやりとしていた。するとAさんが急に「なに?じろじろ見て」と言ってきた。見ているつもりはなかった。けれど視界には入っていたのだろう。Aさんは不機嫌だった。その頃はまだ僕がいじめられていたから、余計にあたりが強かったのかもしれない。いじめの対象には強くあたるものだと学校で教えられたはずだ。僕は見ていたわけじゃないと言ったけれどたぶん信じてもらえなかった。
数日後、学校で僕がたまたま視線を逸らすとそこにAさんがいた。そこにAさんがいることは知らなかった。偶然視界に入っただけだ。けれどもAさんは見られていると感じたのか、また「なに?」と不機嫌そうに言ってきた。僕はやっぱり見ていたわけじゃないと言ったけれど彼女に聞く耳は付いていなかったようだ。
その日から、僕の視界にAさんが入るたびに「なに?」「じろじろと」「鬱陶しい」「気持ち悪い」と言われるようになった。完全に自意識過剰というのか被害妄想というやつである。だからできるだけAさんを視界に入れないように気をつけた。それでもたまに視界に入ってしまうことがある。そうするとAさんはすかさず「なに?」と不機嫌に言ってくる。見ているわけじゃないのにどうしてそんなふうに言われないといけないのか。どうしてそんな態度をされるのか。日に日に彼女のことが嫌いになっていった。
視界に入るたびにAさんは不機嫌になっていた。僕の視線がAさんを不快にさせているんだと思うようになった。嫌いなAさんに対しては申し訳なさは感じなかったが、怖さを感じた。また何かされるのではないか。いじめがぶり返すのではないかという恐怖に襲われた。
そして僕は人を直接見れなくなった。人と目を合わせるのが怖くなった。もともと臆病な僕は、いじめとAさんのおかげで余計に人と関わることが怖くなった。
Aさんは自由だった。友達は少なそうだったが、友達といるときは笑顔だった。僕のことがそんなに気に入らなかったのか。
Aさんは不審な動きをしていることが多々あった。そのときはわからなかったけれど、後々わかった。Aさんは教室でG行為をしていた。ほんとうに自由な人だった。僕を見えない縄で縛り付けて、自分は教室で堂々とG行為ですか。ふざけるなと思った。