死にたいと泣いた女の子
僕が高校生の頃、同じクラスに僕と同じでぼっちの女の子がいた。僕と彼女は教室で喋ることはほとんどなかった。しかし教室の外では辛いときには、お互い言いたいことを言いあっていた。
彼女は小さい頃に悪性リンパ腫になり、治療の後遺症で糖尿病になった。体力がなくなり、身長は伸びなくなった。歯がガタガタになり、骨が弱くて矯正することもできなかったらしい。彼女はそのことをとても気にしていた。それでも必死に生きていた。
彼女は高校に入学する前には小中一貫校に通っていたそうだ。一貫校だから小中学校は同じメンバーだ。そこでは見た目(主に身長)のことでいじめにあっていたらしい。
高校には同じ中学の人は一人もいないと言っていた。彼女はいじめから逃げてきたのだった。誰も自分のことを知らないところで一からやり直そうとしたようだった。
嫌なことから逃げてきたという点で、僕と彼女は似たような状況だった。
それでも逃げるというのはそんなに簡単ではないらしかった。
比較的安全なはずの私立の高校であるにも関わらず、彼女に対してのいじめや悪口は日常的で逃げ場はなかった。小中高と彼女はずっといじめにあっていた。そして家庭環境も悪かった。あまりにも不幸だ、報われないなと思った。それまではクラスでは常に僕がいちばん不幸だったはずだ。それなのに僕よりも不幸な人が現れてしまった。同情なんてしたくなかったけれど、同情せずにはいられなかった。彼女の辛さや心の痛みがよくわかった。生きづらさが彼女を殺しているなと思った。
ある日彼女は「死にたい」と言った。泣き叫びながら毎日のように死にたいと言っていた。本当に不幸な彼女に対してかけられる言葉はなかった。彼女より不幸ではない僕がなにを言っても軽薄になるだけのような気がしてなにも言えなかった。
僕が彼女より辛い思いをしていたら「死にたいなら死ねばいいんじゃない」と言っていたと思う。誰かと一緒なら死ぬまでの苦しい過程もそんなに怖くないと思う。だから「死ぬなら一緒に死のう」と言っていたと思う。
彼女はとても繊細だった。それでいて強かった。
周りの人達からのちょっとした悪口や視線を敏感に感じ取っていた。嫌なこと、辛いこと、悲しいことは全て僕に言ってきた。過去のトラウマのことも病気のことも包み隠さず話してきた。嫌いな人のことも、家族関係のことも。そんな普通なら人に話したくないようなことを話せるなんて彼女は強いなと思った。不思議な気分だった。僕はそんな強い心の彼女のことを羨ましいと思った。
彼女は惨めにならないように常に虚勢を張っていた。でも僕に対しては虚勢を張る必要はなかった。僕と彼女は同じく弱い者同士だった。だから彼女が僕に見せた強さは本物の強さなのだと思う。そして彼女の「死にたい」という言葉もまた本物だ。