舞台「大正浪漫探偵譚-エデンの歌姫-」 #2 秘密結社エデンについて
こんにちは、作・演出鈴木茉美です。
前回の、「過去とのリンク」は楽しんでもらえましたでしょうか?
ろまたん作品は、私が執筆をはじめて二作目に描いた作品で、
それがありがたいことにシリーズ化していて、
年月を経て作品数も増え、少しずつ広がっています。
皆様が来てくださり知ってくださるおかげです。
本当にありがとうございます。
さて。
今回は、秘密結社エデンについてお話したいと思います。
以下目次です。
どこまで深掘りできるかな。
今作は、「エデン」という秘密結社を中心に事件が展開していったわけですが、エデンとは一体なんだ?と。
今回は、作品上で語られていることに補足する形でお話ができたらと思っています。
エデンの思想
まずは、エデンが持っている思想についてです。
作中でも色々と語られているので、ここではそれプラスαをお話しいたします。
元々のエデンの思想を、なぜ日本に持ち帰ろうと思ったのか。
歴史的背景からの共通点ですね。
作中、上野が言っている台詞です。
エデンでは、人は誰でも平等だという教えがあります。
これは、古くはローマ時代からあるエデンの教えです。
この教えを、日本の武士の考え方に通じていると沼井たちは考えました。
「武士道と云うは死ぬことと見つけたり」
武士は自分で死ぬことを選びます。
戦って死ぬ、
自害する、
自分で死を選ぶこと、それが彼らの誇りです。
しかしこの時代、明治維新により武士が日本を統治する時代は終わりを迎えました。
これから死は与えられることもありうる時代になろうとしています。
武士だった人々は自分で死を選ぶことができなくなりました。
唯一の権利すら奪われた彼らの一部は、死は選べるべきだ、つまり、「死は平等であるべきだ」、とエデンの「平等」の思想と合致したんですね。
人は皆平等であるべきだ。
元々のエデンも、日本のエデンも、共に平等に向かい活動しています。
皆神の子であり、エデンはそれに気づいた者、だからあなた方は弱き者には与えなさいと言う教えです。
エデンが慈善活動をするのはその教えがあるからです。
そうして沼井や木崎たちによってエデンが日本に伝わり、日本でもエデンが普及しはじめました。
しかし、
次第に木崎は、
政府と関われば関わるほどに日本はもう手遅れなのだという気持ちが強くなり、
平等にするために全てを壊し0にするしかないんだという考え方になっていきます。
一方で沼井は、
エデンの教えに忠実であろうとするために、
(それはとても難しいことなので、)
理想と現実の間でもがき、
(仲間をどんどんと失っていき、)
組織の苦悩に苛まれていきます。
「日本を変えていこう、武士の魂を取り戻させよう」という信念の元にはじめたことが、日々を重ねながら少しずつずれていってしまったわけです。
「平等」ってとても難しい思想だと思います。
何を持って平等なのか、金銭なのか幸福度なのか身体なのか。
この世界に平等なんてあるのでしょうか。
何か一つの事柄において平等を目指すことが必ずしも間違っているとは言えないかもしれません。
それによって平和が生まれるのかもしれません。
しかし、それによって戦争が生まれるかもしれません。
全てを平等にすることはとても難しいことだと思います。
エデンの教えは宗教的な考え方の一つです。
「弱き者を助ける」というところから、「人は皆平等であるべきだ」という思想に行きつきました。
持つ者に対しての苦言なわけです。
余談ですが。
この考え方は、少し宗教観を入れています。
私自身はキリスト教ではありませんが、中高カトリックの学校に通っていたこともあり、キリスト教の思想が根底に根付いています。
(なのでろまたんは特に、キリスト教に関することが多く出てきます)
神の教えというものが比較的身近にあったため、宗教観を入れることに違和感はなく、今回、時代と場所を考えたときに、エデンの最初の始まりとして、同じように宗教観が身近にあり自然と入ったであろうと推測しました。
組織の始まりというのは規則でがんじがらめになっていたわけではなく、集まっていた人たちが少しずつ規則や思想を固めていったのだということです。
やはり人数が増えていくと、まとめるためにそういうものが必要になってくるのだと思います。
エデンの構成員について
多くを語ることはあまりないかもしれませんが、思いついたまま書ければと思います。
上野、本川、森下、林についてです。
彼らはどんな人物なのか。
少しだけお話を。
上野幸子
占い師です。
小さい頃から何か不思議な力があるような気がしていました。
士族の家系です。
西南戦争で父を失いました。
結婚はしていません。誰か1人を支えるより、より多くの人を救いたいと思っています。
日本でエデンに出会い、自分の居場所を見つけた彼女は、弱き者のために尽くすことこそ天命だとエデンに人生を捧げていきます。
占いはぼんやり見えることもありますが、はっきり見えることもあります。
過去は特に見えやすいです。その辺は占い師の考え方をベースにしています。
日本のエデンの思想が崩れていき、自分はここにいても天命を全うできないんだと居場所を失い、しかし最後はそれでもエデンを信じることしかできない森下に想いを託して死を選びます。
彼女は父が武士だったこともあり、自ら死を選ぶという選択をしました。
彼女が最後ナイフを自分の手でとったのは、森下への託しと、武士の娘としての誇りを守るためでした。
本川宗治
エデンに入ったのはこの中で一番あとです。
気の弱さ、臆病なところを、自分を大きく見せることでごまかし生きています。
相手にも嘘をつくし自分にも嘘をつきます。
賭博を仕事に選んだのは、冒険しなければ大きな意味で責任を取らなくていいからです。
何かを背負うことが怖いのです。
そんな本川の根っこは「ありのままの自分で誰かに必要とされたい」です。
過去に何かあったんでしょうかね。
エデンの思想の「弱き者に与える」部分に安心を感じ、エデンに入ります。
誰かの役に立ちたい。だけど人と向き合うのが怖い。
弱き者なら優位に立ちつつ誰かに必要とされる。
森下のような自分がなさそうな人と親友になるのは彼にとってとても居心地が良いのです。
森下もまた、強そうで自分を持っていそうな本川に惹かれるのでしょう。
しかしやはりエデンの思想は思ったより根深く、彼は背負いきれず逃げ出します。
ようやく気を許せる仲間ができたのに、その代償が大きかったのです。
森下光秀
彼は両親ともエデンです。
彼が小さい頃両親がエデンになったため、必然的にエデンになりました。
これは私が今現在気になっている、いつか向き合いたい題材の断片的なものとして彼にその役割を担ってもらいました。
自由を知らないからこそ憧れる、鳥籠の鳥が空を飛ぶことを知らないままただ眠ったときに大空を飛ぶ夢を見るような、そんな存在です。
西宮の自由さや本川の奔放さは自分にないものだという認識はしています。
だからこそ、2人といるのは楽しいけど悲しい。
逆に上野といるのはとても楽だったと思います、同じ思想という共通点で同じ輪の中で過ごせたので。
西宮に恋心を抱くことで、神の元へ送る行為は「殺人」であるという認識が強くなります。
葛藤し、それでも抗えない消せない絆の中、沼井に殺されます。
そうしてようやく、彼は自由を手に入れたのでしょう。
力づくで彼を逃す人間がいたら、少しでもタイミングが合って誰かと一緒に逃げていたら、もしかしたら少しでも彼は自由を知れたのかもしれません。
林朱美
両親はいません。
エデンに拾われ育てられました。
エデンが中国を渡った経緯から、そっち関係の人に育てられたのかなと思っています。
かつては森下を兄のように慕い、西宮を幼馴染のように慕い、家族を知らない彼女にとってエデンは唯一の居場所でした。
西宮が出ていった時は、そんな恐ろしいことをやってしまう西宮に軽蔑の気持ちを持ちました。
それに協力した森下に対しても裏切り者だという怒りがありました。
彼女はただ純粋にエデンが全てで、思想が生き方でした。
エデンだけが正義でした。
沼井が最後、「もういい」という言葉に対して、「なぜ?」は本心で。
沼井への憧れや尊敬が全てだった彼女は、おそらくあのあと、全てを失った絶望の中、消えていったのでしょう。
もしかしたら、沼井は結局エデンにはなれなかった、裏切り者だと思い込み、木崎の下でエデンを守っていくかもしれません。もしくは、何もかもを忘れて1から全然遠い地で人生を始めるかもしれません。
どちらが良いですかね。どちらも大変だと思います。
純粋さを失わず真っ直ぐに進んでもらいたいです。
実はこの役、準備稿の時点ではいませんでした。
ろまたんオーディションで恋彩を見てできたキャラクターでした。
彼女は見事なまでに忠実な林を演じてくれました。
敬礼の仕方
刺青に手を当てて、礼をします。
刺青が何より信仰の証であり、忠誠を誓うものなのです。
構成員は皆その証に誇りを持っており、それは「消せない絆」として身体に刻まれています。
これは、稽古中に生まれました。
出ていく時など、何か普通の礼じゃないものがあったほうがいいよねという話しから。
じゃあエデンはやはり刺青が大事だから、触って礼にしようとなりました。
エデンのチームは本当の組織のように、皆で試行錯誤しながらエデンを作っていきました。
参考文献
今回の話を書くにあたって、様々な書籍を読みました。
脚本を書くときは毎回書籍や映画をインプットしたいだけしてから書くための作業に移ります。
それまでの経験でインプットしてあったこも含めて、頭の中でこねくり回した上でアウトプットします。
人は、自分が知りたいもの、聞きたいものに対して特に敏感になるそうです。
過去に見ていた映画や書籍でも、もう一回見てみると、違った角度から、違ったものを抽出できたりします。
なので、もう何回見ているかわかりませんが、シャーロック・ホームズの小説を読み直したり、ダヴィンチ・コード三部作を見直したり。
そうすると、今回必要な情報だけを頭が欲しがり新しい発見があったり、今まで気づかなかったことに気づいたりします。
不思議ですね。
今回、秘密結社のことをやりたいと思ったので、秘密結社関係は読みました。
秘密結社の本に絞って記載します。
【参考文献】
・シオン修道会が明かすレンヌ=ル=シャトーの真実 秘密結社の地下水脈からイエス・キリストの血脈まで
・世界の陰謀論を読み解く ユダヤ・フリーメーソン・イルミナティ
・カルト・陰謀・秘密結社大事典
・フリーメイソン真実の歴史 現役メイソンが語る世界最大の秘密結社の正体
・フリーメイソンシンボル事典
・魔笛 モーツァルト(フリーメイソン関係ということで秘密結社分類で)
やはり主軸としてはフリーメイソンでしょうか。
秘密結社は秘密なのでその多くが謎です。
情報が多いフリーメイソンはとても参考になっております。
あとはそこから創作しています。
謎が多い分どの本も想像力が働きます。
シンボル事典などもとても興味深く読みました。
一つ一つに意味があるというのはとても面白いです。
刺青の模様を作る際に参考になりました。
秘密結社の在り方や起源、集会の仕方や組織の成り立ちなどを主に資料としました。
さて。
どうだったでしょうか。
エデンについてでした。
私にとって「エデンの歌姫」の世界はもう一つの世界で、
もちろん創作ですし想像上ではありますが、
それを本当に見せるのが我々の仕事で、
そのために執筆・稽古をしていくのだということが、
とても楽しい作業なのだと、
なんて尊い仕事なのだと心から思います。
これを今こうやって読んでくださっている方がいること、とてもありがたいです。
ろまたんを見て、少しでもこの世界に入り込みたいと思ってくださる方のために、これからも書けることを書いていきたいと思います。
まだまだ記事は続きます。
次は、歌姫についてか、大正時代についてか、脚本演出の仕掛けについてか。。。
ぜひぜひ楽しみにしていてくださると嬉しいです。
それでは、また。
✼ 舞台『大正浪漫探偵譚』展示会 ✼
■日程■
展示日程:2023年8月26日(土)〜31日(木)
展示時間:10:00~19:20
入場時間:(1部)10:00~13:00
(2部)13:20~16:20
(3部)16:20~19:20
※31日のみ展示時間が10:00~16:00になっております。
■会場■
大泉学園ゆめりあホール7階 ギャラリー
■チケット■
前売り/当日券:1,000円(税込)
■特設サイト■