冷蔵庫に入ったことがない肉は最高においしいという話
韓国で食べるタッカンマリや参鶏湯が大好きだ。
もともと鶏肉が好きだし、韓国の鶏肉は日本で食べるよりも味がしっかりとあって旨みと甘みが強いと感じる。
タッカンマリは若鶏一匹がまるっと入っている鍋で、単なるお湯と若鶏、お尻の上にじゃがいも、そこに刻みニンニクをありったけ、みたいなシンプルな素材のみ。でもそれが目の前で煮込まれていくと「旨みのワンダーランドや〜」と間抜けなコメントを口に出して言いたくなるくらいにおいしいスープとなる。お肉にもしっかりと味が残っているから食べごたえも十分。
タッカンマリを食べるたびに不思議に思っていた。韓国で食べる鶏肉はどうしてこんなにおいしいのかと。
そして出かけた市場で売られている鶏の姿に驚いた。常温そのまま、無造作に置いてある。衛生管理きっちりな日本から来た身としては、いろいろ不安になる姿。もちろん日本と同じようなスーパーのほうが主流ではあるけれど。
さらには、アジアの他の国でもお肉の売り方はこんな感じだった。
内蔵も、どーんとむき出し。暑い国で大きな肉の塊が直置き。
大丈夫なのか。とはいえ鶏肉も豚肉も、アジアで食べるお肉は、いつでもダイナミックで肉々しく、おいしい。
この不思議を解き明かしてくれたのは、土井善晴先生のひと言だった。
「チョイ住み」という番組でキューバを訪ねていた土井先生。そこもお肉の陳列は上の状態。で、先生は「冷蔵庫に一度も入ったことない肉ですよ」と、うれしそうな笑顔。
そうか。激しい温度変化を体験していないお肉はおいしくなるんだ。一定の温度の中で熟成して旨みを増しているんだな。空気に触れる部分は酸化するけれど、大きな塊の外側はラップみたいな役割りをしていて、中のお肉はおいしく育ってるんだろう。
そう考えると、昔ながらの保存法は知恵が生きてるんだなと感心する。
安全や衛生を常に追求する日本は、その一方で素材のおいしさをおざなりにしてしまったのかもしれない。
アジアに出かけると「これでいいんだ!」というおおらかさや逞しさにたくさん出合う。日本では固定観念で縮こまっている脳みそを、どかんと解放される感覚。それが何よりの楽しみで、食という直接触れられる部分でそれに出合えるのは、何よりの贅沢だなと笑みがこぼれる。