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ひろこちゃんち。

子どもの頃に住んでいた家の近くには、駄菓子屋さんがなかった。

それはたまたま、小さかったわたしの行動範囲のなかに、なかっただけで、小学校の近くにはあったけど、わたしの家から小学校はめちゃくちゃ遠かった。

だから、駄菓子を知らなかったわたしは、小学校の遠足のとき、おやつの時間に麩菓子をかじってる子を見て、すごくびっくりした。なんか、茶色いでっかい棒を食べてる!って。とてもおいしそうには見えなかったし。


わたしの駄菓子屋デビューは、中学生のときだった。

家とは反対方向にあったので、帰りに寄ることはあんまりなくて、一回家に帰ってから自転車に乗って行った。

目的は駄菓子を食べることではなくて、駄菓子屋さんの前を通って帰る好きな先輩を眺めてたり、彼氏ができてからは店の端っこでしゃべってたり。(ほぼ恋愛がらみ。笑)だから、水色の水あめをぐるぐるして白くしたりとか、ちっちゃい四角いカラフルなのがいっぱい入ってるやつを楊枝でつついてたりとか、なんかかわいいお菓子で遊んでた感じ。


駄菓子屋さんを知らなかった子どもの頃は、家の近くにあった、「フジパン」って看板のある何でも屋さんみたいなお店でアイスやチョコレートを買っていた。

そのお店には、ひろこちゃんという姉と同じ歳の子がいたので、母も姉もわたしも、そこを、「ひろこちゃんち」と呼んでいた。

ひろこちゃんは、とってもかわいくて、リカちゃん人形にそっくりな顔をしてた。ひろこちゃんにはお父さんがいなくて、お母さんとおばあちゃんと歳の離れたお兄ちゃんがいた。

テレビで流れる、お菓子のコマーシャルを見て、あれ食べたい!って言うと、母はいつも、「ひろこちゃんちで買ってきな。」って言った。お金を握って買いに行くと、だいたいそれは売ってなかった。あんまり売れてるお店ではなかったんだと思う。新製品は売ってなかった。たまに、飴やキャラメルが溶けて紙にくっついてて取れなかったり、チョコレートの表面が白っぽくなってたりすることもあった。


姉とひろこちゃんが6年生になったころ、ひろこちゃんは病気になってしまって、卒業式を待たずに亡くなった。



姉はわたしに、これからはひろこちゃんちにお菓子を買いに行っちゃだめだよって言った。わたしたちの元気な顔を見たら、ひろこちゃんのお母さんやおばあちゃんやお兄ちゃんがかわいそうだからねって。

ちょうどその頃から、母がスーパーでパートを始めたので、お菓子は母が買ってくるようになった。コマーシャルでやってる憧れのお菓子もあって、嬉しかったけど、なんとなく嫌だった。

わたしはたまに、こっそりと、ひろこちゃんちにお菓子を買いに行った。ひろこちゃんのお母さんは、わたしに、何年生になったの?っていつも聞いた。先週も聞いたのに、忘れちゃうのかなーって思って答えてたけど、ひろこちゃんのお母さんは時間の流れ方が変わっちゃったんだろうなって、今は思う。とってもゆっくりなのか、それとも速かったり遅かったりなのか。


ひろこちゃんちが閉店したのが先か、うちが引っ越したのが先か、もう忘れてしまった。

ずーっとたってから娘を連れて、その辺に行ってみたら、ひろこちゃんちがあった場所は、普通の住宅になってて、わたしの家があった場所は、公園になって、花がいっぱい咲いてた。

子どもだったわたしの、すごく狭い世界。


こぼーろさん、忘れてたこと思い出させてくれて、ありがとうございます。

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