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音楽にできること。

8年くらい前のわたしは、もう今後は余生と思って、すごしていきたいと思っていた。

若いころ、自分の健康に全く自信がなく、身体的にも精神的にも、他のみんなのような人生は歩めないと信じていた。なにかを人並みにこなしたこともなく、いつも自信がなかったから、子供を産み育てるなんてとても無理だし、そもそもそんなに長生きできるわけもないと思っていた。お父さんお母さんごめんなさい。なんて真剣に思ってた。

そんなわたしでも、どうにか奇跡的に2人の娘を産むことができて、そしてその娘たちがわたしから生まれたとは信じられないほど、優しく強く育ってくれた。

まだまだ元気だと思っていた両親が、急に同時に認知症になり、あっという間に手に負えなくなり、施設に入ってもらった。両親の老後の心配なんてものは、このわたしにできるわけもない大仕事だと思ってた。それがあまりにも突然やってきて、できるもできないも言ってる場合じゃなく、やるしかない事態でどうにかなった。後悔ばっかりで今でもかなりの傷を負っているけど、でもそれは終わった。


なにもできないと思ってたのに、行き当たりばったりだとしても、全然正解じゃなかったとしても、どうにかここまでできた。わたしにできる以上の任務は果たした。もうここまででいいんじゃないかって思った。だから、この後はもう、余生でいいと思ったのだ。


そんな時に、ライブハウスに通うようになった。(きっかけについては、また今度書きたいと思ってるんだけど)

もともと音楽が好きで、コンサートやライブにはよく行ってた。それでも、月に一度行くかどうかくらいの普通に音楽好き程度。

それが、好きになったアーティストが週一回以上ライブをしてたので、いつのまにか「ライブハウスに通う」って言葉がぴったりの生活になった。

いろんなアーティストに出会った。すごく楽しかった。ライブに行くために働いたし、ライブに行くために洋服を買ったし、ライブで出会った友達とSNSで会話をしたり会って遊んだりした。

すごく楽しい毎日だった。まだこんな日々が自分を待ってたなんて、思いもよらなかった。もうほんとにじゅうぶんだった。


ある日。ずっと追いかけていたアーティストのライブと、最近ちょっと気になるバンドのライブが、同じ時間にあった。迷いに迷って、最近気になるバンドのほうに出かけた。

そこで、出会ってしまった。最後から二番目に出てきたブルーペンギンという二人組。森翼さんと植田健一さんのユニット。

植田健一さんは何度も観たことがあったギタリスト。とても魅力的なギタープレイをするひと。森翼さんは、名前をよく見かけるくらいで、歌を聴いたことはなかった。その二人が始めたばかりのユニットだった。

関西人の二人はMCもかなりおもしろくて、歌の途中のコール&レスポンスもとっても楽しかった。

で、最後の曲。

今自分はひとりだと思ってるひとはいますか?って投げかけるように言う森翼さん。尋常じゃない雰囲気に、静まり返るフロア。すごい気迫を感じて、誰も手を挙げられなかったんだと思う。

そう思ってるひとの目を見てわかったから、次の歌はそのひとひとりのためだけに歌うって言って、歌い始めたのが、「雨天決行」という歌だった。

ひとりだった自分のことを歌ったうた。

雷が落ちたみたいな衝撃を受けた。ひとりで雷を全部受け止めてしまったみたいだった。

ブルーペンギンの二人がステージを降りてすぐ、一緒に観てた娘となにも言い合わずに外に出た。いちばん観たかったバンドの順番はこの次だったのに、何も言わずに駅に向かった。

あの帰り道のことは忘れない。ため息と、すごかったね。ほんとだね。それだけの会話。

それからはもちろん、ブルーペンギンのライブに行った。いっぱい行った。そのどれもが、新しく、衝撃だった。同じライブなんて一度もなくて、毎回衝撃をくりかえし、最高を更新してた。

ブルーペンギン唯一の4曲入りミニアルバム「テレビでは流れなかった君と僕の歌」は今まで生きてていちばんたくさん聴いたアルバム。その4曲以外聴かない日々が2か月も続いた。今でもいちばん大好きなCD。

ブルーペンギンから、森翼ソロ名義に戻り、赤と嘘というソロユニットになり、また今は森翼さんはひとりで歌ってる。今でも、衝撃と最高を塗り替えている。


森翼さんのライブは楽しい。でも楽しいだけじゃなく、とても苦しくなる。自分をさらけ出すように、本気で全部出し切るように歌うから、今まで目をそらしてきたほんとの自分を思い出させられる。ずっと固く閉じていた扉をバンって開けられるから。

本気で歌ってる姿をずっと見ていたら、だんだん恥ずかしくなってきた。

なにもやり遂げてなんていないのに、もうじゅうぶんがんばったから後は余生でいいや!なんて思ってた自分が。

やりたいことなんて、ほんとはいっぱいあった。

ずっと持ってた劣等感と今さら向き合うのが怖かっただけだ。


「スーパースターに憧れて」という歌のなかで、

君が何かを始めることに 遅いなんてことは絶対ない 

という言葉があって。

そんなのよく言う言葉じゃん!って思うひとは、森翼さんのこの歌を聴いてからもう一回来い!って思います。この、「絶対ない!」は、本気の言葉だから、本気で心に直接届く。

わたしは、この歌に押してもらえる背中が欲しかった。それだけだった。

がんばってることがないのが恥ずかしくて、もがいてる背中が欲しくて、なにか始めたいと思った。もう、逃げないでやってみようと思った。


やりたかったこと。好きなこと。好きなもの。

わたしは、ずっと前から布が好きだった。USAコットンのビンテージものとか、ふつうの手芸屋さんのはぎれの中から見つけたどこにも売ってない布とか。集めるだけで満足してたそれを使って、なにかを作ろうって思って始めた。最初はファスナーもきれいにつけられないようなレベルだった。練習した。自分で使うもの→娘にあげるもの→友達にプレゼントできるもの・・って、少しずつレベルアップして、ついに。

初めてのデザインフェスタ出展。

もちろん、なにものでもない素人のお店に、そんなにお客さんが来てくれるわけでもなく。向かいのブースのペインティングライブをずっと眺めていた。目の前で、大きな絵を描いてるのを見るなんて初めてで、すごくワクワクした。描いてる女の子が着てる真っ白いドレスがどんどん絵の具でカラフルに染まってくのがすごく綺麗だった。

好きな布で作品を作るだけじゃ、ちょっと違うなって思った。作るのも楽しいし出展もすごく楽しい。でもこれは表現ではない。次は、表現をしたいなって思った。自分を。

でも、自分を表現するって、それは、思ってた以上に苦しい作業だった。自分の見たくない部分と向き合うこと。空っぽだって思い知ること。そしてそれを外に出すこと。勇気がいる。隠れたくなる。


その頃に、森翼さんが歌い始めたうた。「セーラーカラー」

暗闇の中に一歩踏み出して 明日の朝見上げてみて なんて綺麗なんだ

そっか。一歩踏み出す前は暗闇なんだ。踏み出してからやっと、綺麗な空に気づけるんだ。それを教えてくれる歌だった。

それで、自分をマトリョーシカに例えて、ミニ絵本を作り、マトリョーシカのアップリケをつけたポーチを作った。それが、わたしの初めての、精一杯の自己表現だった。

その作った絵本と、ポーチ。

今見ると、とても未熟で恥ずかしいけど、これを持って、次のデザインフェスタに出展した。劇的にお客さんが増えたりとかはもちろんなかったけど、伝えたいことを感じとってくれるかたが数人いた。その方たちは、わたしが出展するたびに、会いにきてくれるようになった。

その後、通販のサイトにお店を作ったり、レンタルボックスを始めたり、友達のエステサロンのマルシェに出させていただいたり、お店を常設させていただいたり。少しずつ活動を広げつつあります。これを前に進んだって言ってもいいのかな。いや、いいはずだよね。今までのこと考えたら、飛躍的に進んだよね。

おんぶにだっこだったわたしの自己表現も、少しずつ独り立ちをして、今は次にやりたいことの準備をしている。バラバラに点で散らばっていたわたしの好きなものを、全部つなげる方法を思いついて、実現できるように考えている。

もう残りの人生おまけでいいやって思ってたわたしが、ここまで前に進めてるのは、森翼さんの音楽のおかげに他ならないです。

わたしの人生の後半をカラフルに色づけてくれてありがとう。

音楽の力はすごいです。好きと思う気持ちの力はすごいです。

勝負曲はなんですか?という質問なら、わたしは、森翼さんのライブです。って答える。
音源になってなくても、今までライブに出かけて聴いた歌は全部、わたしのなかにある。その時、その歌に込められた思いも、その時の自分の気持ちも、ライブハウスの空気も、全部。
わたしはいつでもそれに支えられている。

勝負なんて、突然やってくるものがほとんど。試合や試験とかじゃなくても、わたしたちは日々、小さな勝負をし続けてると思う。わたしのなかにある、たくさんの歌が、いつでもわたしを強くしてくれる。負けたとしても、そのわたしのそばにいてくれる歌もある。勝ったはずなのに悲しくなることもある。そんなときは、この歌。こんなときは、あの歌。あの時のMC。サインと一緒に書いてくれた言葉。どんなときも、その込められてる気持ちの記憶が守ってくれる。


森翼さんの、「ぼくにできること」っていう歌。click!



✳︎わたしにできる小さな恩返し✳︎

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今は配信ライブを中心に活動されています。そちらもぜひ。click!

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