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一枚の写真からお寺巡りの魅力を、三つ書く。
iPad触ってたら、何年も前に撮影した写真が目に留まり…、
そこからこの一枚の写真をずっと見てnoteを書いていました。
お寺巡りが趣味の私が、以前撮影した写真を眺めてそこから見えてきた古建築の観賞ポイントを、専門的な言葉をほとんど使わずに、3つだけ解説してみます。
三つの建物のおおまか年代(全て国宝または重要文化財です)
中央は、平安時代の建立(1100年代、12世紀)
右奥は室町時代(1400年代、15世紀)
左奥は桃山時代(1500年後半、16世紀)
3つのポイントを写真に直接かきました。順番に解説します。
ポイント①五重塔の軒の反りと中央建物の軒の反りの比較
奥の五重塔の屋根の反りと手前の屋根の反りでしたら奥の方がキツいでしょ?角度が急でしょ?お分かりいただけますでしょうか?
軒の反り方により印象は大きく変わります。どっちも美しい。
五重塔からは力強い印象を受け、中央の建物からは落ち着いたおごそかな印象を受けます。それを一度に見比べることができるので、この写真はとても面白いんです。そう見えるように考えてこの位置に五重塔を建てたのかもしれません。
この五重塔は、五重塔の中では軒の反りが強いほうかと思います。
少し専門的な話ですが、社寺建築には、和様と禅宗様、この2つの様式があります。大半の建物は、禅宗様と和様の要素をミックスしています。この五重塔は、どちらかといえば禅宗様の要素が強い五重塔かと思います。軒の反りが強いのは禅宗様の大きな特徴です。
ちなみに、かなり古い禅宗様の建築物で残っているのは、京都!ではなく(京都は応仁の乱で焼けてしまって残っていない)、鎌倉、山梨、長野、愛知、岐阜、広島、意外にも東京など極々わずかに残っている程度。その文化財的価値からほとんどが国宝指定です。
一方、中央の建物の軒の反りは、おだやかで美しいですよね。
軒の反りも中央部分は少し膨らんでいるようにも見えます。そして、先端部分は穏やかに反っています。檜皮葺の先端がピシッと整っていることもとてもきれいですよね。この建物は神社のお祈りする場所なので、とても落ち着いた印象を与えてくれます。同じ朱色の建物なのですが、屋根の先端部分の軒の反りの角度で、全く異なる印象を受けます。
つぎは
ポイントその②中央の蟇股の美的センスがヤバイ
私的、社寺建築の最大の鑑賞ポイントは“蟇股” だ!…。
蟇股=かえるまたと読みます。カエル🐸が足を広げているように見えるから蟇股です。上の部材の重さを🐸さんが足を広げて支えてくれる歴史ある部材です。
奈良時代のものはシンプルなものが多かったですが、江戸時代には派手な彫刻を入れることが多くなりました。長い目で見るとこの蟇股はちょうどその間、平安末から鎌倉初期の傑作なのです。
蟇股は建物のおおよその年代を推測する基準の一つにもなります。
で、これのなにがすごいかと言うと、中央の部分に穴があいてあることです。
上の重みを下に分散させて伝えるという構造的な役割を果たしながら、極限までカエルさんの足を細くしてカッコよくして、中央を透かし建物の全体的な開放感をそこなわない様にするためのデザインになっています。
細くしすぎたら、足が折れるし、太くしすぎたら、カッコ悪いし、この蟇股はその絶妙なところを攻めてます。約800年前のデザイナーさん(大工さん)の美的センスがすごいと思います。
簡単にいうとイケメンの華奢マッチョ。
え?この人、顔かっこいいだけやなくて、細身やけどめっちゃ筋肉ついてるやん、腹筋ヤバイヤバイ。めっちゃかっこいいわ〜!ってのと同じです。
では、アップでどうぞ
ご堪能いただけましたでしょうか?
この蟇股は、ほんとうに美的センス抜群、デザインもいいです。ぜひアップで写真をとられることをお勧めします。
江戸時代になってくるとこの中央部分に猿や龍、虎、鳳凰の彫刻がゴリゴリに入るゴリマッチョ蟇股となっていくのは余談です。
もちろん江戸時代の蟇股も素晴らしいです。
この写真の建物は、すでにお気づきかもしれませんが、厳島神社です。
ポイントその③メリハリを効かせた垂木配置
柱と柱の間の垂木の数を数えるべし。
屋根の軒先を支えるために、木が何本もでています。これを垂木と言います。
よくよく見てみると、中央とその横にある回廊(簡単に言うと廊下)では、垂木の配置されている数に違いがあるのがおわかりでしょうか?
メインとなる建物とサブとなる建物で、屋根の素材も柱の色も同じよう色なので、同じよう見えるかもしれませんが、違いがあります。古建築では同じように見える建物でもよく見ると違うことが、多々あります。
垂木の配置を、疎(まばら)にしているところと、密(みつ)にしているところをつくることによって、メリハリが効いて、中心の建築物を際立たせているんだと思います。当然と言えば当然のことですが、わかった上で実物を見ると自分が発見した気になりちょっと楽しいのです。
さらに、この回廊部分には、先ほどの蟇股もありません。これもメリハリのひとつだと思います。深く考えられたデザインですね。
まだありますが、3つにしておきます。ご一読くださりありがとうございました。
最後におまけ
左奥の建物が実は未完成の放置されていまに至る珍しい建物なのです。
完成間近で放置。そのため天井板が貼られてません。未完成のため畳もない。
なのに名前が“千畳閣”。
天井板貼っていないので、大きなお寺の内部の構造を直で見ることができます。迫力満点。素晴らしい!!
なぜこうなったかというと、スポンサーさんが建築途中に亡くなられたからです。スポンサーさんは相当な派手好きでこの建物に金箔も張ろうとしていたようです。
そもそも、建てた場所がすごいと思いませんか?あの格式高い厳島神社より高い位置に、厳島神社よりも大きな建物を建てるなんて、並のスポンサーではできることじゃない。
さすが天下人豊臣秀吉。
最初の写真をもう一度見ると、いまの厳島神社のベースを築いた平清盛より、わし(秀吉)のほうが偉いんや〜と言うことを誇示するためにあの位置に作ろうとしたと考えてしまうのは、わたしだけでしょうか?
建物のカッコいいところだけでなく、建てられた背景を考えるのも文化財巡りの魅力です。
千畳閣は、入場料たった100円で入れます。ここから見る厳島神社もまた絶景。
豊臣秀吉公、本当にありがとうございます。
長々とご一読いただきありがとうございました。昔からお寺巡りが好きでしたので、なんとなく思いつくまま書いてしまいました。
もし、5スキついたら次作書こう。