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【展覧会】没後70周年 吉田博展 | 木版画で知る、世界の日本の風景美。

私は自然を崇拝する側に立ちたい。

展覧会の最初に目にとびこんでくる吉田博さんの言葉です。

自然を愛し、木版画を極めた画家、吉田博さん。

その生涯の軌跡を作品を通して体感できる展覧会「没後 70周年 吉田博展」が東京都美術館で開催されています。(〜3/28)

透明感のある繊細な木版画のイメージと、まっすぐで意志の強いご本人との対比にわたしは魅了されました。

ということで、今回は吉田博さんという人物に注目しながら、展覧会の感想を書いていきたいと思います。

0. 吉田博ってどんな人?

吉田博(1876~1950)

明治から昭和にかけて活躍された風景画家です。

西洋の風景画の技法と日本の木版画をあわせたオリジナルの風景版画は、国内外から高く評価され、故ダイアナ妃も執務室に版画を飾っていたことでも知られます。

では、次の章からも作品の感想とともに、吉田博さんの人生を追っていきます。

1. 山と遊ぶ少年が追求する絵画の世界

吉田博さんは、1876年(明治9年)福岡県久留米市のお生まれです。※以下敬称略

子どもの頃は、山で遊び、絵を描くのが好きな少年だったそうです。

この少年時代の好きなこと、2つがその後の人生の軸になっていくのが、なんともこのお方のカッコいいところ。

恩師に絵の才能を見出され、17歳で上京。小山正太郎が主催する画塾「不同舎」に入門し、そこで風景画の写生に打ち込みます。

あだ名は「絵の鬼」

どれだけ熱心に打ち込んでいたかが、伝わってきますね。

吉田博は絵の題材として早くから「山」などの風景画を追求していきます。

この精神は生涯続いていくんですよね。

展示も山の風景画が多かったのですが、頂上からみた雲海や山の中腹の風景など、実際に登らないと見れない景色を作品におさめているのが興味深かったっです。

展覧会のプロローグでは、水彩で描かれた風景画の作品も見ることができました。

2. 海外へと突き進む絵画へのエネルギー

少し話は反れますが、日本近代洋画の巨匠「黒田清輝」はご存知ですか?

教科書に載っているので、作品や名前を知っている方も多いことと思います。

吉田博が、熱心に風景画に取り組んでいた当時、日本の西洋画家の中心はこの黒田清輝がつくった「白馬会」だったそうです。

このメンバーが「新派」と呼ばれ、吉田博らは「旧派」と呼ばれるようになった。

もう、ここから雲行きあやしいですよね。そう、バチバチに対立したようです。

国費でフランス留学に行く白馬会のメンバーに対し、吉田博は、自力で!自費で!アメリカ留学を果たします

この時代に主力勢力?に面と向かって牙を向き!?自力で渡米、留学するのは並大抵の意志ではないハズです。

でも、言葉も何もわからない状態で行って、きっちり成功を収めてくるのが吉田博、カッコいいですね。

吉田博は、この時代の人にはめずらしくかなり海外に行っています。

とにかくフットワークが軽い!現場主義というか、現地で必ず写生してるんです。

展覧会でも、アメリカ、ヨーローッパ、インド、韓国、中国といった世界各地の風景版画が見られます。

これらが、西洋と東洋(日本)の融合美、といった感じでなんとも素敵なのです。


3. 49歳から切り開く木版画への道

吉田博は外国の風景だけでなく、もちろん日本の風景もたくさん描いています。

それらの作品は国内外問わず、高く評価されていましたが、ここで終わらないのが、吉田博です。

49歳から本格的に木版画に取り組んでいきます

版画との出会いは44歳のとき。きっかけはアメリカ、ヨーロッパにいったときに日本の浮世絵が人気だったのを見て、興味をもったとか。

粗野な版画がもてはやされているのを見て、「オレのほうがもっとよい作品ができる!」的な野心が原動力となったようです。

帰国してから精力的に作品を生み出していきます。

なにせ今までの西洋画家として培ってきた技法、感性がありますから、そこをベースに日本的な木版画で表現していくのは、摺師も彫師も大変だったことでしょう。

一切の妥協を許さなかったようです。(ご自身でも摺り、彫りに携わっている)

通常10刷りくらいらしいんですが、吉田博は40とか50刷りとかへっちゃら。「陽明門」は96刷したとか!


緻密で繊細で、版画でここまで表現できるのか!と目が釘付けになりました。

そして、版画だからこそできるのが、同じ絵での色彩違い。これはわたしが買ったポストカード「帆船」という作品です。

左から「朝」「午前」「夕」と書きたいのですが、実は右の作品は「朝日」です。「夕」とまちがって買ってきてしまいました。泣。

実際は「朝」「午前」「午後」「霧」「夕」「夜」と6パターンの刷り色の異なる作品が展示されていました。

これがなんとも美しい。

その他の作品も同じ絵の昼と夜、の風景の木版画があったのですが、ピンクとブルーの色使いで表現されてるのが、透明感があって素敵でした。

摺りだけでこれだけ多彩な風景を表現するのですから、ため息がでます。

4. 吉田博にみる人生のヒント

きれいな木版画だなー、から足を運んだ「吉田博展」。

そこは、世界の風景、日本の風景美を版画で堪能できると同時に、繊細な色彩を生み出すためのこだわりや強い探究心をも知れる場となりました。

その情熱、まっすぐな姿勢がカッコいい!でもこれ、決してひとりよがりではないんですよね。

世界における自らの立ち位置を考え、世界で勝負し続けた画家。

展覧会に書いてあった言葉です。

自分の好きなこと、信念を極める一方で、自分を客観的に見る視点も持っている。

これって、すごく大事なことではないかと思いました。

でも、正直、吉田博の場合は、考えて行動した、というより真理を見抜く感覚が鋭くて、どんどん行動した結果、そうなったような気もするのですが。。

その感覚を研ぎ澄ますのは、日々の信念や好奇心の積み重ね、だと思うので、やはりその生き方からは、人生のヒントが散りばめられていると思いました。

展覧会を終わると1本のドキュメンタリー映画を見たかのような、充実感に包まれる、そんな展覧会でした。

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