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短編小説2『五ドル紙幣とアイリッシュシチュー』

はじめに:リアルの経験 x ChatGPT x 村上春樹の文体

この短編小説は僕の経験の情報をもとにChatGTPに書いてもらい、僕自身が加筆修正をして完成したものです。文体は村上春樹というプロンプトを入れました。「リアルの経験 x ChatGPT x 村上春樹の文体」を楽しんでいただけると嬉しいです。

『五ドル紙幣とアイリッシュシチュー』

大学4年の春、僕は交換留学の切符を手に入れた。行き先は英国のエセックス大学。1年間、英文学を学ぶための留学だ。20世紀の作家D. H. ローレンスを研究し、いつか英文学の研究者になろうと本気で思っていた。けれど、ローマ人が作った古い街コルチェスターでの生活が始まって3ヶ月がたつ頃には、英語力と共に文学センスの欠如に気づき、その未来がどこか遠くの霧の向こうに消えていった。

その頃、僕はなぜかアラン諸島に行きたいと思うようになっていた。大学院のコースも聴講し、ジェイムズ・ジョイスやアイルランド文学に出会い、(ほとんど理解できなくても)惹かれていたせいかもしれない。今となってはその動機ははっきりとわからないけれど、その時の僕には魅力的なアイデアだったのだろう。何かが自分の中で動き始めていることだけは感じていた。

イングランド東部のコルチェスターから、電車と船を乗り継ぎ、、アイルランドの首都ダブリンを抜け、そこからさらに列車でアイルランド西端の港町ゴールウェイまで向かった。冷たい海風の中、ゴールウェイから小型の飛行機に乗り、アラン諸島で一番大きい島イニシュモア島(ゲール語で「大きい」という意味)に降り立った。人口は800人ぐらい。荒々しい自然の中に島民の静かな生活が溶け込んでいるようで、島には世界の端を感じさせる絶景が広がっていた。

島の空気は冷たく、強い風が肌を刺した。誰も彼もが風の流れに身を任せているようだった。僕はその島で、ただ一人、冷たい空気を吸い込みながら立っていた。けれど、僕はほとんど現金を持っておらず、さらにATMも見当たらなかった。少し困ったなと思いながら歩いていると、たまたま観光で来ていたアイルランド人のおじいさんが声をかけてきた(アイルランドの人はとてもフレンドリーなのだ)。彼の顔には時の重みが静かに染みついていた。

彼は僕を自分の宿泊先の別荘に招き、紅茶を入れ、暖かな場所でゲール語の単語をいくつか教えてくれた。互いに話すことは少なく、言葉が静かに響き渡るだけの時間が流れていた。別れ際、おじいさんは僕の手に五ドル紙幣をそっと握らせてくれた。アイルランドの名物のアイリッシュシチューを食べたいんだけど現金がほとんどないことを話していたからだ。「これで食べなさい」と彼は言った。そのおかげで、島で唯一の食堂でアイリッシュシチューを一杯食べることができた。特別に美味しいというわけではなかったが、シチューの温かさが身体にじんわりと染み渡るとき、僕は自分の中で何かが静かに解けていくのを感じた。

日本に帰ってからも、そのおじいさんと何度かクリスマスカードをやり取りした。けれど、いつしかそのやり取りも途絶えた。遠く小さな島だから誰かとの話題に出ることもなく、あの風景を思い出すこともなかった。

突然思い出してこの文章を書いているのは、Xで知り合った人がアイルランド在住で、アラン諸島に家族旅行に行ったという投稿と写真を見たからだ。

思い出した瞬間、青い空と吹きつける強い風と、荒涼とした絶景が広がるあの島の片隅に、自分の中の一部がまだ静かに眠っているように感じられた。あの時のシチューの温かさや、おじいさんの手のぬくもりが、消滅してしまったことも気づかない記憶の中でわずかに息をしている。それはまるで、僕の人生にひそやかに刻まれた、もうひとつの世界の片鱗のように。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

❤️ この短編小説は友人の中川麻里さんの投稿に刺激を受け、背中を押されて誕生しました。中川さんに心から感謝いたします。
写真ソース:https://www.hotelscombined.jp/Place/Aran_Islands.htm

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