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初めての短編小説 『届かなかった手紙』(2分で読めます)
はじめに:リアルの経験 x ChatGPT x 村上春樹の文体
この短編小説は僕の経験の情報をもとにChatGTPに書いてもらい、僕自身が加筆修正をして完成したものです。文体は村上春樹というプロンプトを入れました。「リアルの経験 x ChatGPT x 村上春樹の文体」を楽しんでいただけると嬉しいです。
『届かなかった手紙』
高校三年の夏休み、僕は東京の四谷にある予備校の夏期講習に通っていた。1983年の夏のことだ。二週間だけ、都内に住む知り合いの家に身を寄せて、毎朝満員の電車に揺られながら四谷の教室に通う。教室の空気は独特で、外の真夏の湿気とはまた違った密度を持っていた。教室にいる誰もが一様に何かを渇望していて、そこにじっと閉じ込められているような、そんな感じがした。
その頃、僕はある大学の英語学科を目指していた。その予備校は英語の学力向上に定評があったから、僕のように地方からの受講生もいたかもしれない。でも、それは僕にはどうでもいいことで、毎日決められた時間に行き、黙々と授業を受ける日々だった。慣れない東京の生活も、知らない顔に囲まれていることも、僕には特に問題ではなかった。気にする暇さえなかったのかもしれない。ただ英語の成績を上げることに専念する、それだけが僕にとって唯一の道しるべだった。
そんな日々の中で、ある日、隣の席にひとりの女の子が座った。ふとした拍子に少しだけ言葉を交わした。「今日の先生、ちょっと早口だったね」とか、「この問題、難しいよね」とか。そんな他愛ない会話だった。覚えているのは、そのとき彼女が微笑んだこと、その微笑みにわずかに宿っていた曖昧な光だけだ。英語の勉強について以外、僕たちに共通の話題があったかどうか、もう思い出せない。今となっては、それが彼女の話だったのか僕の話だったのかさえはっきりしない。
コースの最終日がやってきた。最後の授業が終わると、僕は特に感慨もなく教室を出た。建物の外に出ると、空気はまだむっとするような夏の匂いを含んでいて、それに乗るようにして駅に向かって歩き始めた。その時、背後から小さな足音がリズムを乱しながら近づいてくるのが聞こえた。僕は立ち止まり、ふと振り返る。予備校の建物はもう見えないが、そこには彼女が息を弾ませて立っていた。「住所、教えてくれる?」と、彼女は小さな声で言った。その声は何か、とても個人的なものを含んでいたような気がする。僕はノートを切って、自分の住所を書きつけて彼女に渡した。彼女はそれを受け取り、小さく頷き、「手紙 書くね」と言った。それが僕たちの最後のやり取りだった。
その後、僕は東京を離れ、また地方の家に戻り、残りの夏休みも勉強に打ち込んだ。彼女からの手紙を待ちながら。けれど、手紙は届かなかった。彼女の名前も、顔も、記憶の中で次第に薄れていった。覚えているのは、追いかけてきた時の彼女の小さな息の弾みと、少し赤らんだ頬だけだ。あとは、鎌倉女子高校の生徒だったということ。
もう数十年、彼女のことを思い出すことはなかった。ところが村上春樹の小説『街とその不確かな壁』をぼんやりと読み進めている時、彼女の記憶が突然、心の奥底から浮かび上がってきた。あの四谷の教室、やわらかな午後の光がカーテンの隙間から差し込む中、隣に座っていたボブカットの彼女の横顔。彼女がただ静かにそこに座っている姿。その光景が、不意に目の前に蘇った。
彼女が追いかけてきた理由も、手紙が届かなかった理由も、僕にはわからないままだ。でも今になって思う。あの瞬間が僕にとって、ただのひと夏の断片ではなかったのかもしれないと。何か大切なものが、言葉にできない形で僕の心の中に残されていたのかもしれない。
過ぎ去ったあの夏、忘れられたままの記憶が、どこか遠いところで静かに僕の中に響いていた。彼女が僕に何を伝えたかったのか、あるいは伝えたかったものなど何もなかったのか、それはわからない。でもそのわからなさそのものが、どこかしら僕の心を温かく包み込む。
人生には、ただ静かにそこに在り続けるものがある。形も意味も定かではないけれど、ただ漂うようにそこにあって、時折、僕たちを優しく照らし出すものが。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
❤️ この短編小説は友人の中川麻里さんの投稿に刺激を受け、背中を押されて誕生しました。中川さんに心から感謝いたします。
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