25年ぶりに観た『リアリティ・バイツ』。現実に噛まれなかったことで、人間力を上げたことを知る
もうとにかく同意と感動しかなくて、大泣きしたのを覚えている。『Reality Bites (リアリティ・バイツ)』は1994年の作品で、私は、ウィノナ・ライダー演じるリレイナとほぼ同じ年齢だった。
家の事情で地元の国立大学にしか進学を許されず、必要以上の単位を取り、学部初の英語論文を書き(準備から実に2年かかった)、好成績を修めたものの、第二次ベビーブームとバブルの崩壊で就職活動は全滅。就職先も決まらないまま大学を卒業した。幸い(?)母方の実家が商売をやっていたので、選択肢もないまま転がり込んだが(15才のときから店頭に立っていたため、就職という感じでは全くなかった)、苦悩の日々が毎日のように続いていた。ちょうど、リレイナが、TV局アシスタントをクビになり、家から一歩も出ずに煙草ばかりふかしていた、あの時の悶々とした気持ちだ(煙草は吸わないが)。
一応就職活動なるものは行った。そもそも私の所属した学部には就職課が存在せず、右も左も分からないまま、就職マニュアル本だけを頼りに資料請求から応募資料の作成、大学時代に行ったアルバイトやサークル活動の作品等を東京の希望の会社数社に送った。
まだインターネットもない時代だったのですべては郵送と電話。田舎住まいいには厳しい。とにかく宮崎にいても時間がかかるし、本気度合いを見せるためにもとりあえず上京。世田谷の弟の狭い安アパートに転がり込んだ。どうしてもマスコミに進みたかったのでTV局を2社、出版社5社(新卒採用ナシが3社)、芸能プロダクションを1社受けたが見事に全滅。都会の厳しさを肌で感じたとともに、井の中の蛙だった自分を戒めた時期だった。
そんな「ジェネレーションX」な私だったが(実はこの言葉の意味があまりよく掴めていない。アメリカでも日本でもこの世代は悶々としていたということ?)、なんだかんだで何のつてもなくとりあえず上京。無印の店員や国会議員庁舎での雑用、芸能事務所、怪しい出版社などの職を経て、厳しくも、貧乏でも、希望に満ちた20代を東京で過ごし、1999年に渡英した。26歳の終わりだった。
当時、私が所持していた学生ビザでは週20時間の労働が認められていた。語学学校に通いながら、残りの時間をカフェでのウエイトレスでのアルバイトに宛て、日銭を稼いだ。日本食レストランではなかったため、客やスタッフとも必然的に英語を使わなければならなかったので、「生きた英語」を学ぶことができた。『リアリティ・バイツ』の中でリレイナが仕事を探すもどこにも雇われず、母親にたしなめられ、仕方なく近くのバーガー・ショップに面接に行くが(「私は大学で卒業生総代まで務めたのよ!」と啖呵を切っていた)、その忙しさに圧倒され、バーガー屋に「でさえ」就職できない自分に落ちこむ。
このシーンではニヤリとさせられた。
大卒なのにロンドンにまで来てウェイトレスなんかしていた私だが、本当に忙しい時には、注文取りや料理運びはもちろん、ドリンク作り(カプチーノなんてお手のモノ)、レジ打ち、支払い、テーブル拭き、次の客のためのカトラリーのセットなどをすべて同時にこなさないといけない。入口から縦に長く、奥行きの深いつくりの店だったが、新人を教育する際には、「一旦奥まで行ったら、絶対に手ぶらで帰ってくるな」が合言葉だった。目を使え、頭を使え、体を使え。簡単な仕事ではない。フロアマネージャーまで上り詰めた私は、いつしか客から「You Are Impressive!(君すごいね!)」と声を掛けられ、常連からは「ウェイトレスの鏡」とまで呼ばれるようになった。あまりの忙しさに対応できない人間は辞めていった。そうウェイトレスは高度なスキルを要求するプロフェッショナルなのだよ。
世の中には自分の力ではどうにもできない、思い通りにならないことが五万とある。若いときは資格や学位を取得することが目標であったから、それに向かって頑張れる。しかし、それが現実社会においてどう作用するかは別問題だ。
今でもジレンマはあるし、腑に落ちないことも起こるし、到底同意できない意見もたくさん聞く。しかし、自らを貶めないための解決策として、自分を強く持ち、雑音を遮断する方法も学んだし、「empathy (他人の靴を履く)」の精神で他人がどうしてそう思うのかを理解する能力も持った。
今、すべてが順風満帆とは言わないまでも、それなりの幸せを感じているのは、うまくいかなかった過去とそこから学んだこと(これ重要!)そして現実を受け入れ、それでも前向きに生きていく力をつけたからだろう。
もう今更『リアリティ・バイツ』に同意を求めることもなく、感動もしないが、歳をとる、とはこういうことなのかもしれない。
今の22歳がこの1994年の若者たちーエイズを恐れ、ゲイであることを(作中ではホモセクシャルと呼んでいた)両親にも告げられず、将来への期待も持てなかったーの苦悩を観たらどう思うだろうか?一介のオバさんとしては、そこが知りたいところだ。
それにしても、ウィノナ・ライダー美しすぎやしないか!?
内容とは全く関係ないのだが、作中で4人がしょっちゅうプリングルスを食べているのを見て、急に食べたくなって買いに行ったらこんなのが出てた。「ジャパニーズ・カツカレー味」のプリングルス。例によって、カツは入っていないのだが、味は割と日本のカレーに近い。しかも米粉入り。
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