TVシリーズが終了してから3年、待った甲斐があった。だって舞台はジャパン!『People Just Do Nothing: Big in Japan』。クルプト FMのボーイズたちは全く変わってなくて、安心。
ヤバい!ヤバいです。面白過ぎた!!大好きな、英TVコメディ番組 『People Just Do Nothing』の初映画『People Just Do Nothing: Big in Japan』を観に行ってきました。期待を裏切らない面白さ!全編笑いっぱなしでした。
『People Just Do Nothing』は、2014~18年に、BBC3で放映されたモキュメンタリ(モック+ドキュメンタリー)形式のシットコム。5シリーズ後TV放映を終了したが、今回ビッグ・スクリーンにて彼らが帰ってきた。
西ロンドンのブレントフォードを拠点に、パイレーツラジオで自作のガレージ・ミュージックを披露するKurupt FM(クルプト FM)。メンバーはMCグラインダ―、DJビーツ、DJスティーヴス、デコイの4人だが、注目すべきは(自称)マネージャーのチャブディーG。今回も勘違い満載で笑わせてくれた。ガレージの黄金時代から早15年前、もはや聴く人もいないだろうと思われる音楽を自信たっぷりに配信するが、結局は鳴かず飛ばず.......。2021年、グラインダ―はポストマンになり、ビーツはボーリング場で働いていた。そんな時、マネージャーのチャブディーGは、日本の番組制作会社から連絡を受ける。なんと、クルプト FMの曲“Heart Monitor Riddem” が(持ち曲はたったの2曲、その内の1曲が、笑)日本のバラエティ番組「Bang Bang Game Show」の挿入歌として使われており、人気が出たため、バンドとレコード契約を結びたいというのだ。レコード会社はメンバー4人を日本へ招待する。大興奮のメンバー達。しかし彼らは、日本についての知識が無さすぎた。
クルプト FMのメンバーは、左上から時計回りに、DJスティーヴス、DJビーツ、デコイ、チャブディーG、そしてMCグラインダ―。
プロットは、他文化を経験したものの、なんせ知識と経験値が恐ろしく低いため、本人大真面目にも関わらず、その戸惑いや失敗にフォーカスして笑いを取る、という極めて単純なもの。敢えて言うなら、『世界を旅する無知と無恥(英コメディ』ミーツ『スパイナル・タップ』だが、『People Just Do Nothing: Big in Japan』は、登場人物のキャラクターを引き立てるジョークが半端なく面白いのである(これに関しては、やはりTVシリーズを先に見た方が分かりやすいかと思う)。
ースティーヴスは渋谷の交差点のど真ん中で仲間たちとはぐれてしまう
渋谷の交差点の真ん中で仲間の名前を呼ぶ。そして見つけてくれるのはやっぱりデコイ。
ーグラインダー「ボウルの中にスープとヌードルが入っていてそこにブラウンエッグが浮いてるんだ」。ビーツ「スパゲッティ・ボロネーゼがスープに入っているんだよ」。
ラーメン屋に入ったものの、口に合わず、結局はマクドナルドへ。
ーレコード会社とのミーティングで会議室に入るなり、靴を脱ごうとする(スティーヴスは靴下までも脱ごうとする)。
日本側のスポンサー、マネージャーのタカ、通訳のミキと会談するクルプト FMのメンバー。マネージャーのチャブディーGは実は招待されていなかったので、自費で来日。なので椅子が無い(笑)。
ー契約金の話になり、チャブディーGが「よく聞け!こいつらはスーパースターだ!最低でも現金で¥10,000は要求する。さもなければこの話は無しだ!」と啖呵をきったものの、「それって£70じゃん」と訂正される。
¥10,000ってゼロが多いけど、契約金としては少なすぎないか?
ーグラインダ―の嫁、ミッシがバンドを"サポート"するために、東京まで来てしまうのだが、とある会食で彼女が着ていたのはなんとチャイナドレス、なのに頭には簪を挿している(大違)。
ーその会食でミッシが自分とグラインダーの一人娘エンジェルの写真を日本人女性担当者に見せる。女性担当者は、エンジェルの肌の色が二人と違うので首を傾げるが、グラインダーは「自分は1/4キプロス・トルコ人だから、彼女の肌の色は少しダークなんだ」と言うが、ミッシは焦る(その後、デコイの写真を見た女性担当者は、「彼は...?」と混乱する)
ー「コンサート会場まであとどれくらい?」と通訳ミキに尋ね、「5分程です」と言われると、「それってイギリス時間?日本時間?8時間の時差があるよね」と真顔で訊き返している。
などなど、マヌケなシーンに関しては枚挙に遑がない、つまり最初から最後まで笑いっぱなしなのだが、実は、今回の映画の最大のテーマは、「フレンドシップ」なのだ。日本に放り込まれた無知なイギリス人が異文化を体験しながらも、バンド内の友情を確認しあうという、なんだか文章にしてしまうと、非常にチーズィーな響きになるが、とてもスイートな物語となっている。
日本のバラエティ番組「Bang Bang Game Show」。架空の番組だが本当にありそうでリアリティが増す(笑)
クルプトFMのメンバーは、日本人マネージャー、タカの戦略により、ガレージバンドとしてというよりは、ボーイバンド(いわゆるアイドル的な)扱いにてプロモーション活動を強いられる。1週間後に迫った大型ホールでのアイドル・コンサートに出演が決まっており、そのためにダンスの練習をさせられたり、お揃いの衣装(ゴテゴテの!)を着せられたりなど、自分たちが思った音楽活動とは全く違う方向に事態が進んでいく。戸惑うメンバーたち。ついには、彼らの音楽が使われているという、バラエティ番組(体を張ったゲームショウのようなもの)に出演するために、全身網タイツを着用させられる。しかも、バンド名まで"Bang Boys"に変えられている。「こんな事をしに来たんじゃない」と憤るビーツ。グラインダーは、ブレイクするためには必要な手段だ、と説得するが、本番間際になって、二人は取っ組み合いの喧嘩をしてしまう。やってられない、と去る3人だが、グラインダーは一人で出演する(取っ組み合いの後、グラインダーは悔し泣きするが、「泣いてなんかない!アドレナリンのせいだ!」(笑)と言い訳する。
MCとDJなのに、なぜかダンスの練習をさせられるメンバー達。このダンスの先生もかなり強烈なキャラクター。
「Bang Bang Game Show」に出演するために、カラーの全身網タイツを着せられる。ビーツは怒り、グラインダーは説得しようとするが、取っ組み合いの喧嘩になってしまう。
タカの丁寧だが強引な引導と巧妙な説得により、嫌々ながらも従ってきたグラインダーだったが、コンサートの当日、去ってしまったメンバーの代わりに用意された、メンバーそっくりだが完全にアニメ化された被り物を見た途端、限界を感じ逃げてしまう。
名前も"Bang Boys"に変えられ、何故かアニメ化されたメンバー達。似てるしかわいいけどな(笑)。
その頃、ビーツ、スティーヴス、デコイの三人は、渋谷のど真ん中にあるカラオケボックスににいた。ビーツは15年来の親友グラインダーを失い、打ちひしがれ、カラオケでザ・ストリーツの「ドライ・ユア・アイ」(名曲!)をスティーヴスとデュエットする。そこへ、グラインダーがやってきて、バンドは友情を確かめ合う。カラオケマシーンで"クルプトFM"と検索してみるが出てこず、"Bang Boys"と入れてみたら、自曲“Heart Monitor Riddem” が出てくるという皮肉さ(笑)。
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で、チャブディーGはというと、タカにバンドの先導権を取られ、不貞腐れてホテルのラウンジで自分の驕りだと豪語して、サラリーマン達と飲み(このシーンはトテナム・フットボール・スタジアムのバーで撮影されたとか。ということは、このサラリーマンのエキストラの方々はロンドン在住?)、結局支払えずに逃げていた。
私はすべてのTVシリーズを観ていたので、映画化された途端メンバーのキャラクターが変わったり、突拍子もないことをしでかしたりしたら嫌だなあ、と思っていたのだが、心配は無用だった(トレイラーを観ていて、それだけでもう噴き出していたが、笑)。
それにしても、日本が舞台とは言え、私自身、クルプトFMのメンバーと共に"Lost in Translation”してしまった。「Bang Bang Game Show」は架空のテレビ番組だが、年に1度程の帰省で久しぶりに日本のバラエティ番組を見ると、イギリスのそれとは全く違うことに驚かされる。また、日本人出演者の中に知っている人が一人もいなかったことに、時代の流れを感じてしまった(これでも一時期は日本の芸能界の隅っこにいたこともあったので)。
6music のローレン・ラバーンの番組で、スティーヴス役のスティーヴ・スタンプ(脚本のほとんどを手掛けている)は、ステレオタイプ的な異文化体験コメディに陥らないように、リアリティーを追求し、その文化を揶揄したり馬鹿にすることなく、それでいて面白く仕上げることを追求したと語っていたが、いわゆるキャンセル・カルチャー的なものではないので、日本人である私たちも眉を顰めることなく、シンプルに笑えるのでご安心を。
テレビではもう珍しくなくなったモキュメンタリーだが、このトーキング・ヘッドスタイルで映画仕立てにするのに参考にしたのはやはり『スパイナル・タップ』(超名作!)だったとか。私は、ビッグインジャパンも相まってか、そこには『アンヴィル! 夢を諦めきれない男たち(Anvil! The Story of Anvil)』(こちらも必見!)の哀愁も漂っているような気がしてならなかったのよね。
余談だが、グラインダー演じたアラン・ムスタファはラーメンとモスバーガーの大ファンだそう。そして、タカを演じた山村 憲之介さん、とても英語が堪能かつ演技も上手だったなあ。
先のインタビューで、また何やら、来年ごろに続編?新シリーズ?の予定があると、スティーヴ・スタンプが言っていたが(まだ多くは語れないらしい)、この先の行方が非常に気になるので、これからもクルプトFMから目が離せないわ。
こちら、『People Just Do Nothing: Big in Japan』のオフィシャルトレイラー。
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