moments of stillness の重要性を教えてくれる作品。『サウンド・オブ・メタル~聞こえるという事』
What I like about this movie is that no-one is judgemental. Ruben is making his own judgments about his sudden deafness and the future. Right and wrong doesn't matter: he is finding himself. The movie is about more than deafness, it applies to everyone, because there is too much information and we struggle to know which one(s) to believe and which one(s) are necessary. I sometimes think having too many choices makes our lives more difficult. This movie reminds us of the beauty of “moments of stillness”, that is exactly what we all need now.
この作品が、単なるヒューマンドラマとなっていないのは、いろいろな意味で判断を視聴者に投げかけているからだと思う。というのも、「deafness (聴覚障害)」を本筋にしながら、詳細の部分では様々な場面で、視聴者がどう感じるかをオープンにしているから。いきなり障がい者になってしまった主人公の心の葛藤、それを不器用ながらも支えようとする人物、理解しサポートを提供する立場にある人々、新しく出会う仲間。それぞれ登場人物の想いはセリフにははっきり表れていないが、我々はストーリーを追いながら、彼らの想いを汲み取りつつ、自分自身で判断していく構成になっている。
例えば、ルーベン(リズ・アーメッド)が難聴になってしまった原因はどこにも描かれていない。音楽活動からくる度重なる爆音にさらされたのが原因なのか、自己免疫が衰退したからなのか、果たしては、過去のヘロイン摂取(中毒)に端を発してしまったのか。もしくは、この3つの要素すべてが重なってしまったからなのか、そこには全く触れられていない。その後、ルーベンは、ろう者の支援コミュニティーへ参加するのだが、ここを運営するジョー(ポール・レイシー)に「解決する問題は頭であり、耳ではない」と言われていたにもかかわらず、結局はインプラントによる手術による治療を選ぶ。だが、ジョーはルーベンに、「この選択で君が幸せになることを願っている」とだけ言い、手術を受けたことに対する意見や感想は全くないのである。
そして、”人工内耳”のインプラント手術により、器具を装着することによって、ある程度の聴覚を取り戻したルーベンは、バンドメイトかつ恋人だったルー(オリビア・クック)に会いにパリへ行くのだが、ルーと彼女の父親がデュエットするシーンで、他のゲストには聴こえているピアノの伴奏とルーの歌声が、ルーベンには雑音のようにしか聞こえない。これは、”人工内耳”を入れたものの、元の聴覚が100%戻るわけではない、という物理的障害なのか、または、「ルー」も「音楽」も元のようには取り戻せない、という心の暗喩なのか。
その夜、「腕の掻き癖」が再発したルーに気付いたルーベンは翌朝静かに彼女の元を去る。
パリの街中に座るルービン。補聴器具を通して聞こえる喧噪は、ただのノイズでしかなかった。教会の鐘が鳴り響く。大音量で脳内に入ってくる鐘の音。ルービンは補聴器具を外す。すると突如として静寂が舞い降りてきた。微笑むルービン。
ここで作品は終了する。
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基本的に、聴覚を失ったルービンの自己判断によって物語は進んでいくのだが、その判断に関して、ジャッジメンタルな登場人物が一人もいない。つまり、これは視聴者が、自分だったらどうするだろう、と考える余地を与えてくれる作品なのだ。というのも、まず、ルービンが聴覚を失った瞬間に私たちの聴こえるのはくぐもった音のみ。そして、初めてろう者の支援コミュニティーに到着したルービンはメンバー同士の手話が理解できない。つまり、この映画を通して私たちは聴覚障がい者の疑似体験をしているのだ。限られた情報/判断材料の中で、果たして私たちは、この突発的に起こった聴覚障がいにどう向き合おうとするのだろう。ジョーの言うように「ここでは“耳が聞こえない”ことを障害とは思っていない。治すものではない」という言葉を信じることができるだろうか。ひいては自分に当てはめることができるだろうか。
そして手術を受けたものの、自分がそこから得たものは聞く必要のなかったノイズだけだったと気付いた時、最後のシーンで、人工内耳器具をとったルービンを見て、突如として現れた静寂を感じて、私たちは何を思っただろうか。
恐らくこれは「聴覚障がい」に限った作品ではないのだと思う。溢れかえる情報の波に押されながら、どれが正くて、どれが間違っているのか、目の前にある情報や人間関係など、果たしてどれが自分に必要なものなのかを判断していくことが難しくなっている現在、積極的に選ぶ必要のない状況= moments of stillness がどれほど大事かを教えてくれる作品であったと思う。
また、個人的にはジョーを演じたポール・レイシーが素晴らしく(彼自身は「ろう者」ではないのだが、聴覚障害を持つ両親に育てられたことで、手話が堪能とのこと)、彼の動向を見守るだけでもこの映画を観る価値はあると言える。
で、話は変わるのだが、リズ・アーメッドといえば、私が激推ししたいのが、『Four Lions(フォー・ライオンズ)』だ。2010年の作品なのだが、監督はイギリス人きっての風刺家であるクリス・モリスである。ツッコミどころや笑いどころが満載の風刺コメディ映画なのだが、英国産テロリストによる、自爆テロ、ジハードを題材にしており、この作品から発せられるメッセージは明白だ。機会があれば是非観て欲しい。