動物園デート
「やっぱりデートのお誘いだよな⁉」
横井和樹(よこい かずき)は自分がシャンプーで髪を洗っていることも忘れ、大声を出した。
ボロアパートの狭い風呂場は、思ったよりも声が響いた。
『動物園に行きませんか? 2人で』
横井がオフィスを出ようとした瞬間、ひそかに思い続けていた
浜辺春香(はまべ はるか)に、こう言われたのだ。
(2人で動物園…… やっぱりこれはデートに違いない……)
たくさんのデートではない理由を並べてみたが、結局はデートのお誘い
という答えにたどり着く。
(しかし……30過ぎた2人が動物園かぁ……)
空は晴天。土曜日の午前10時。
横井は集合場所である動物園の入口に立っていた。
デートではなかった可能性を考え、仕事の時となんら変わらない、
いつもと同じ服装にした。
「お待たせしました。横井さん」
春香は水色のワンピースを着てあらわれた。
いつもはモノトーンでシックなパンツスタイルなのに。
春香のあまりの美しさ、あまりのまぶしさに
横井はサングラスが欲しくなった。
「見たい動物が一般公開されることになったんです」
シャツの袖を引っ張られ、横井はフワフワと波に浮かぶように歩いた。
老若男女の圧。足元をうごめく子どもたち。スマホの波とシャッター音。
それらのせいで春香との距離が近い。
「これ‼ これです!コモドドラゴン」
隙間から覗く、大トカゲのような物体。
「やっぱり似てる!横井さんに!」
コチラを見てほほ笑む、汗ばんだ春香の顔に、横井は倒れそうになった。
「並んでください!ツーショット撮ります!」
パシャ。
(似てる… だからオレとここへ来た⁉ もしや見比べたかった……だけ?)
人ゴミを抜け、生い茂る木々の前へ出た。空気がおいしい。
でも横井の胸は重苦しかった。
(デート……ではなかった……)
カーテンのような水色のワンピースがくるりと回った。
「コモドドラゴン。見られて良かった。横井さんと。
あの……実は……私……大好きなんです。コモドドラゴンが。
とってもカッコいいから」
「え…… ーーーーーえ⁉」
「私、ヤモリ3匹飼ってます。こんな女はイヤですか?」
うつむく春香の右手は、カーテンのようなワンピースを握りしめている。
(どうしよう……返事に困った……なんて言えば……?)
「あの…………………………
オレ………………………………
コモドドラゴンに似てて良かったです!」
横井は春香の手をそっと優しく取った。
「今日、そしてこれからも、オレとデートしてください‼」
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「カーテン・動物園・シャンプー」をお題にして
3題噺のショートストーリーを考えました。
考えるのに50分。文字にするのに20分…。
なかなかカーテンが入らなくて苦戦しましたが、楽しかったです。
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