異世界人に狙われた小屋
青々とした木々に囲まれた、古い山小屋。
その縁側で、菊池さくらは目を閉じていた。
遠くで鳥が鳴いている。川のせせらぎも聞こえる。
木と、土のにおい。
ふと、気配がして、さくらは屋根に飛び上がった……と思ったが
ダァーン‼
首根っこを掴まれ、硬い土に、顔を押さえつけられた。
(一体何が起きた!?)
さくらは手の主を見ようと、首を動かそうとしたが、
まったく動くことができない。
せめて瞳を端に寄せることで見ることはできないか……
『なんだ。女か』
低い声がして、首が自由になった。
声の主は……
真っ黒の大きな塊だ。
「人間ではないのか⁉」
さくらは目を凝らしてよく見た。
長くて黒い髪と、長くて黒いマント。
中の服も黒一色で、2mはありそうな巨体。
顔は薄紫色で、灰色の目がギョロリとこちらを見ている。
「ああ……お前らの言葉で言う、イセカイジンというやつだ」
「異世界人!?」
突拍子もない答えに、さくらの声がうわずった。
「お前が男だったら殺し合いをするつもりだった。しかし女だから、やめておこう」
異世界人はマントをひるがえし、その場を去ろうとする。
さくらは叫んだ。
「どこへ行く!?」
「異世界へ戻る」
「どうして?」
「 …… この場を拠点にし ……
この世界を我が物にしてやろうと思ったが……」
異世界人の顔がみるみると真っ青になっていく。
「そなたのような可愛らしいモノがいるなら、やめておく」
「へ⁉」
さくらの顔は、パッと桜色になった。
ーーー
この異世界人・ガゼオスが、さくらとこの山小屋に住みはじめるのは、
もう少し後のことである。
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【異世界人が現代に来る・山奥の小屋・殺し合い】で、
3題噺、作りました。
お題のそのもの雰囲気とは違う内容になりました。
でも思い切って書きたいように書いてみました。
悩んで時間かかった。。。