見出し画像

夫単身赴任のワーママがキャリアコンサルタントになるなんて

ときは2023年7月、平凡な我が家を襲った大ニュース。

「おれ、タイに転勤になったわ。」

なぬーーーー!!!!????


当時、わたしは仕事を持っていた。自分で言うのもなんだが、大企業の企画職としてそれなりのやりがいと給与をもらって仕事に励んでいた。誇りだった。

しかし、わたしは仕事を辞めることにした。わたしが一番やりたいことは「家族で一緒にいること」なのだから、仕方がなかった。




仕事を辞めた後、わたしはどうする?

ここまでが8月中旬。さて、これからどうしようか。

もちろん夫は、わたしのキャリア上の相談なんてちっとも乗ってくれない。引継ぎと壮行会にいそがしいし、そもそもわたしも、彼に相談しても彼の中
に解がないことはわかっていた。

そう、こたえはわたしの中にしかない。
わたしはこの先、どう生きるべきか。


ずっと気になっていた、だけど諦めていた資格

実は、ずっと前から気になっていた資格があった。

第一子育休から復帰後、働き方にものすごく悩んでいたわたしは、その当時から「この資格を取得しよう、いや、できっこない……」と夜な夜なスマホで検索しては、諦めるという日々を繰り返していた。

その資格の名前は、「国家資格・キャリアコンサルタント」だ。

キャリアコンサルタント試験を受験するためには、いくつかの要件をクリアしなければならない。

3年以上の実務経験があれば受験資格を有するのだが、あいにくわたしは人事とは畑違いの分野でキャリアを歩んでおり、実務経験はゼロだった。

そういう場合、厚労省が認定する講習の課程を修了しなければ、受験すらできない。

わたしは、ずっとここで引っかかっていたのだ。

「厚労省の認定する講座」とは、LECや大原学園など、民間が運営する養成講座のことだ。
だいたいの講座は、毎週末、1日8時間の通学学習自宅学習用の課題で構成される。これが3か月間つづく。

ワーママとしては、この、毎週末の8時間拘束がネックだった。講習にはロールプレイングも含まれるため、家事の片手間に受講することができない。

毎週末、夫に子どもたちを預けて、3か月も通えるわけがない……そう思って、何度も「キャリアコンサルタントになりたい」という想いに蓋をしてきた。


しかし、今回のわたしは、いやに思い切りが良かった。

仕事をやめる。そのことに、わたしはものすごく悩んだ(し、実はいまも、その想いを完全には昇華できていない)。

もしかして、わたしの他にもキャリアにモヤモヤを抱える人がいるのでは。
わたしと同じように、仕事に誇りを持っていたのに強制的にそれをはがされる経験をしたひとが。

もしそれが、同じ駐妻だったら。わたしがタイに行ったその先で、同じようなひとがいるならば。

そのひとの気持ちを楽にしてあげることができる、その可能性があっちの道にはある、いま自分は、その道を選べるのだとしたら。

やれることをしよう。できる道を考えよう。


決心したら、行動あるのみ

まずは、夫と家族会議

こうなったら、わたしは止まらない。すぐに夫にLINEをする。


「話したいことがある。早く帰ってこられる?」
「どうした?」
「いや、大した話じゃないんだけど……キャリアコンサルタントの資格を取りたくて」
「なんだ、焦った。おれ、地雷を踏んだかと思った。おけ、早く帰る。」

だいたいわたしから「話したいことがある」と切り出すときは、夫に不満があるときなのだ。笑

夫はわたしの話を聞いた。資格をとる目的、取得後のプラン、受講料や子どもの預け先の話をした。夫は言った、「いいじゃん」。よし、第一関門クリア。


ワンオペワーママでも通える講習探し

並行して、わたしは学校を探していた。

通学不要の、完全オンライン講習を開催している事業者がいい。通学の負担を減らせば、子どもたちも、子どもたちを預かってくれるひとも、少しでも楽ができる。

コロナ禍を経た世界だったため、幸運にもそういった講座がいくつかあった。

2024年の4月にはタイに行くので、受験のチャンスは2024年3月の一度きり。この受験日に間に合って、かつ、いまから申し込める講座を探す。

時は九月に入るところだった。あてにしていた講座がいくつも締め切られた後、あるいは、3月の受験に間に合わないスケジュールだった。

血眼になって探して、ようやく見つけた。約30万円。高い。でも、秋のボーナス1回で払える。それに、一発で受かれば、雇用保険から7割給付される。今まで働いてきて良かった。


子どもの預け先は

あとは、子どもの預け先だ。同じく都内に住む母に電話する。

「ねぇ、キャリアコンサルタントに受かってからタイに行きたいから、年内いっぱい、毎週末、そっちに泊まってもいい? 子どもたちの面倒を、見てもらってもいい?」


母は快諾した。

そうだ、だって母は、幼いころからわたしに「大学に行きなさい」と言ってきた母なのだ。
自身は大学に行きたくて、でも祖父に許してもらえなくて、短大を卒業してからもずっとその想いをくすぶらせてきたひとなのだ。

だからわたしがひとりで生きていく力を育むことに、いつだって肯定的なのだ。


実家が近くにあるのは、ラッキーだった。子どもを連れてドア to ドアで40分。わたしが唯一持っているカードだ。

実家が遠距離の方もたくさんいるだろう。だからわたしは、殊更に苦労したと主張することはしない。

だけど、実家が都内であったとしても、わたしとしては、これは挑戦だった。
講習に間に合うように到着するために、わたしは平日より早起きをして、一人で支度をし、子どもたちを連れて電車に乗らなければならない。

それが毎週できるのか? 子どもを見てもらう母へのケアは? 子どもたちが退屈しないで過ごすためにどうしたらよいか? 大きく見える課題を細かく分解し、ひとつひとつ答えを出す。斬る。


受講する講座のめどがつき、子どもたちを預ける環境が整い、ハローワークでの雇用保険の手続きも済ませて、いよいよわたしは「キャリアコンサルタント養成講座の講習生」になった。


記憶にない、学びの日々

ここからの3か月の記憶は、はっきり言って、ない。

土曜日の朝早くに起きて、ゴミをまとめ、玄関を掃き、子どもたちにご飯を食べさせ、身支度をする。

未就学児2人を連れて電車に乗り、実家の最寄り駅に到着したらセブンイレブンに寄ってコーヒーとお菓子を買う。 実家に着くと、子どもたちはわたしが事前に注文しておいたおもちゃで遊び始める。わたしはこっそりと(以前の)自室へこもり、午前の講習が始まる。

1時間半おきの休憩で、子どもたちの様子を見に行く。母が用意してくれたお昼ご飯を15分で食べ、残りのお昼時間は子どもたちと公園へ。
帰ってきてから、18時ごろまでずっと講習。

自宅学習も、楽ではなかった。
朝から晩までワンオペで、子どもたちを寝かせた後に課題に取り組む日々。

金曜日の夜、しまった、寝落ちした。いま何時だ。2時。絶望する。なんとしても本日中に課題を提出せねば。子どもたちに気づかれぬように布団を出て、パソコンに向かう。

季節は、秋から春へと移っていった。

わたしは2024年3月のキャリアコンサルタント試験を受験した。学科も面接も、平均を上回る成績だった。それは、わたしには不可能だとどこかで諦めていた「一発合格」だった。


「がんばりきれる自分」でありたい

合格から半年。わたしはまだ、キャリアコンサルタントとしての活動はできていない。

在留証明の関係で登録まで時間がかかってしまったから、というご立派な言い訳はあるんだけど、本当は、生活に追われてそこまで準備ができていないのだ。

だけど、あの挑戦が無価値だったとは、まったく思わない。

この資格は今後のわたしの駐妻生活を支えてくれるものだと思うし、なにより、あの挑戦ができたんだから、わたしはこれからも挑戦し続けられる人間なのだ、という自己認識の変容があった

思えば、最後に「がんばった」と言い切れるのは、いつだろう。大学受験? 子どもを産む前の仕事? ワーママ復帰直後?

「〇〇のせいでできなかった」と逃げてきた日々。わたしは、それを変えたかったのだ。


駐妻生活、つまらない。もっと仕事がしたかった。キャリコンの資格があればこの生活も楽しめるとわかってたけど、ワンオペ育児の合間じゃ講習に通うのも無理だったし。


わたしの性格なら、絶対こう感じていたはず。わたしは、本当に、自分でもいやになるくらい、他責思考が強い人間だから。

だから、変わりたかった。他人のせいにしない自分。障壁があっても乗り越えられる自分。やればできる、本当に、やる気になればなんだってできる。わたしはそういう人間なんだと、もう一度、強く感じたかった。

一度は取得を諦めた資格。そして、もしかしたら、これはなんの役にも立たないかもしれない。他人から見たら「それでどうなるの?」と判断されてしまうかもしれない。

だけど、わたしは、挑戦して本当に良かった。「資格取得」の先にある、「がんばりきれる自分」を知ることができたのだから。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?