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試される日

たまに、人から一方的に長話を聞かされると、どっと疲れる。
わたしにはゲロ袋だった過去があるから、なにか、その人の抱えきれないドロっとした闇の部分を、わたしにむかって吐き出されたような気持ちになる。

話の長い人の話を切り上げる方法は、頭ではわかっている。相手の言葉にかぶせ気味で、腹に力いれて、「ハイッ!!!じゃ、これで!!!」って言って立ち上がればいいのだ。でも、わたしにはどうしてもそれができない。絶望的な気持ちで、ずっと喋ってる人の目を見る。もう、話なんか聞いてない。『たすけてもうやめて』って、話している本人に助けを求める。

そのうちにふらふらしてきて、空間が歪みはじめ、自分が自分じゃない感じになってきて、そして断れない自分にも嫌気がさしてきて、自分を責め、そして心が現実逃避を始め、目の前のこのひとは一体何者なのか、このひととわたしは一体どういう関係なのか、人の一生は何なのか、人生とは、神とは、宇宙とは……壮大なテーマに膨れ上がっていく。これはトラウマ反応なのだと思う。

だけど、話の長い人って、ハラスメントじゃないか。逃げられない相手を捕まえて、戸惑っている間に、延々と自分の話をして、相手の時間を消費するってありなの? それともわたしが腹に力を入れれば解決するの? 

この日もわたしはひょんなことから、ババアの話を1時間半聞くことになってしまった。元はわたしから、要件があって話していたのに、いつの間にかババアが過去にスピリチュアル詐欺に合ったという奇想天外な話を聞かされていた。(入りは新鮮で面白かったが、いかんせん脱線しまくって、中だるみ感があり、そんなにまで引っ張った割にはオチがあっさりしすぎていた。43点。)

話を聞きながら、窓から入る光がどんどんと傾きはじめ、日が暮れてきて、やっと終わったころには、わたしの心もセピア色に染まっていた。わたしはやり捨てされ、バスタオルのままよろめく女みたいになって、やっと部屋から出た。ババアはというと、妙にすっきりした顔をしていた。

カフェで働いてるから、休みの日はカフェに行きたくなる。
わたしは、切実に休息を求めていた。なにせやり捨てされたみたいにふらふらだったのだ。
しかし貧乏なので、現実を見た結果、マ●ドに行くことにした。どうしてもハンバーグと、カフェラテが飲みたかった。お店について、パネルを見るが、なんだかよく分からない。マ●ドは大人になってからたぶん3回目ぐらいだ。いままでどれだけニートでもモス派だった。貧乏だからマ●ドと思ったのに、なんか、普通に高くないか。わたしは思った。お客さんも誰もいなかったので、「ちょっとまってください」といって、レジの前のメニューを眺めた。分からない。どうしたらいいか、まったく分からない。なんか、入ってこない、あんま美味しくなさそう、脳が拒否している。「ちょっとまってください(二回目)」ちらっとレジのお姉さんの顔を見ると、顔がびっくりするほどキレていた。今、「スマイル0円」とかいったら殺されるんじゃないかと思った。怒りの波動が伝わってくる。そんな、キレる? たしかにマイペースな客うざいけど。そんな、キレる?

わたしはますます焦り、一番安くて確か前に食べたことのあった、チキチーのドリンクセットにした。あれ?ハンバーグは? 「セットのドリンク、カフェラテは…」といったらかなり食い気味で、この店舗ではやってないと言われる。なんだか、「時代劇の、通行人を思いっきり刀で斬って道に捨てるシーン」みたいだった。死体のわたしは、トレイをもったままよろよろと転がっていった。

席につくと、わたしは、もうなんだか、この世のかなしみをすべて煮詰めたようなぐらい、かなしくなってきた。安息を求めたカフェの店員さんに冷たくされると本当につらい。いうてもわたしだってやり捨てされたばっかりだったのに。
それに、ハンバーグ(牛と豚の合挽き肉のことだよ)とカフェラテがほしかったのに、変に値段を気にしたばっかりに、そのどっちも逃すどころか、苛立ち0円までもらっちゃうし。あんな風にされるんだったら、「アッもういいです」って強気で断って、ミスドにすればよかったな。

もちゃもちゃ考えながらチキチーを頬張ると、チーズとマヨネーズの胸焼けするようなハーモニー。とてもまずかった。これは単に、わたしのこの時の気持ちがそうさせていたのだろうけど。

そのあとは、近くのスーパーに入って、用もないのにやたらとうろうろした。このままでは帰れない。かなしい。でも、経験上、こういう時はあがくより、諦めて帰ったほうがいい気がする。こういう散々な日は、わたしの軸を試されるような気がする。わたしは、お財布を気にしながら、菓子パン売り場のなかで、比較的健康志向なパンと、それから、フライパンで焼けばいいだけの形成済みのハンバーグ(4個いり)と、ケーキを買った。ケーキはいらなかった。でも久しぶりに、食べてみたかったのだ。

それから、外に出て、すこし迷ってから、自販機でホットのミルクティーを買って、ベンチで飲んだ。『自分の機嫌を自分で取れるようになってようやく、大人の仲間入り』じぶんでtwitterに書いた言葉だ。そう、できてる。わたし大人できてるよ。
寒いからお店の中に入ろうか迷ったけど、そのままそこにいた。ライムみたいな細い月がでていた。大きく息を吸って、吐く。お腹と肩をゆるめる。

だいじょうぶだ。もう帰れる。
わたしは安全運転で帰って、家でハンバーグを焼きました。

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