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よく遊びよく学べ

私はもともと、何かご褒美がないと生活にハリが出ないと思って生きている。
とても現金なやつだ。

ご褒美といっても、仕事の合間に食べるおやつや、
土日に夫に娘を託してゆっくり飲むコーヒー、
独身時代に楽しんだ旅行、装飾品、
美味しい料理、大好きなやちむん集め、
タイ古式マッサージ、有名ピアニストのコンサート...
まぁ様々だ。

コロナのせいもあって産後はなかなか旅行には行けないし、ゆっくりコース料理を楽しむこともできないが、頑張った度合いに応じて、何か小さな褒美があると、やっぱり生活にハリが出る。

そしてこれらのご褒美にプラスして、
私にはずっと続けているルールがある。

たまに、朝から晩まで好きに過ごしていい日を作ること。

単に有休を取るという話ではない。
家族旅行のための時間でもなく、
自分のためだけの休日を作るのだ。

このルールができたのは、大学院生のときだ。
医学系の理系大学院で学んでいた私には、
記者会見を開いちゃうような偉い先生や、変人まがいの天才先生まで、優れた大人のお手本が身近にたくさんいた。

中でも、私の指導教官は今でも大好きな大人のお手本だ。
言い方は悪いが、患者さんウケが良いおじいちゃんで、診療だけではなく研究もしっかりマネージメントし、何年経っても「先生、先生」と、卒業生たちがやって来るような、人格者だ。

私みたいなペーペーの相手をしている暇なんてないくらいめちゃくちゃ忙しいはずなのに、
そんな風に見えないのが、とてもカッコ良かった。
佇まいや仕草に、いつもどこか余裕があるのだ。

先生のスケジュールは毎日ビッシリだが、
まるで先生の周りだけ時間がゆっくりなのではと錯覚するくらい、不思議な余裕があった。

ある時、私が深夜に1人で実験をしていたところ、
近くのレストランで会食を終えた先生が、
様子を見に来たことがあった。

「遅くまでご苦労。明日は土曜だから、実験なんかしないで遊びなさいよ。学生は、よく遊び、よく学べ。じゃぁね。」

と言って、会食のお土産であろう、小さなクッキーを置いて帰って行った。

この人は何を言っているんだろう?
卒業まであと1年しかなかった私は、
土日だろうと時間を惜しんで実験しなければならないのに...
研究が行き詰まっていた私は、そんな風に思った。

教授だから、医師だから、お金があるから、
研究なんかしなくてもいいよって、
そんな余裕があるんだろうか?

だけど、そうじゃない。
必要なら、深夜3時でも、先生からメールが来る。
この人は、いったいどうなっているんだ?

ある日、先生の秘書にその出来事を話した。

「先生はね、切り替えが上手いのよ。
どんなに忙しくても、趣味のオーディオやPC集めには余念がないし、毎日決まった時間に必ずコーヒー飲んで落ち着くのよ。
教授室でお昼寝だってするし。
それに、休むって宣言した日は、メールも見ずに絶対休むでしょ?
遊びも仕事も全力なんだってさ。
先生の場合、よく遊び、よく働け、ね。」

なるほどね...
周りを見渡すと、確かにうちの先生だけじゃなく、
カッコいい大人たちは、仕事をバリバリこなす一方でよく遊んでいる。

百聞は一見に如かず。
試しに私も、敢えて休む日を設けてみた。
本当は、すごく忙しくて、実験を休む余裕なんてなかったんだけど、モノは試しだ。

朝から晩まで、一日中好きなことをしてみようと決めた。

学生の私は、お金なんてなかったから、
好きな映画を見て、コーヒーを飲み、
雑貨屋をめぐり、好きな音楽を聴きながら、
夜桜の並木をプラプラ歩いた。
それだけのことだったが、夜風を浴びながら、
自分が何に行き詰まっているのか、少し整理できた。
身体だけではなく、何より心が休まった。

これまで、実験がうまくいかずにパニック気味になっていたのが、別の角度から考えることも思いついた。
もし研究がうまくいかなくても死にやしないのに...と、あんなにヒステリックになっていた自分がバカらしくなった。

先生の真似をして休んでみた1日は、
私にとって忘れることができない1日になった。

それからというもの、忙しいとき、パニックになったときは、必ず敢えて一呼吸おくようにしている。

社会人になってからは、お給料をいただいているのだから、勝手に休むわけにはいかないのだけど、
それでも半年に一度は「自分のためにズル休みをしてリフレッシュしていい」というルールを設けている。
ズル休みといっても、正規の有休だし、
さすがに部門内の業務量と多少忖度して休むが、
このズル休みは、結果的に8時間労働以上の成果をもたらしてくれる。

忙しいと、目の前のことばかり気になって、
不安になるのは私だけではないだろう。
でも、こんな風にちょっと一日遊んでみると、
一気に凝り固まった視野が開けて身も心も軽くなることが多い。

それは、ワーママになった今でも基本は変わらない。

好き勝手に24時間使えた独身時代とは、
休み方は変わってしまったが、
たとえ日中だけでも1日自由に使えると、
ものすごくリフレッシュできて、
毎回生まれ変わる気分がする。

そして次回のズル休みの日、朝から何をしようか、リストを作っておくのもまた、日頃の密かな楽しみだ。

母親になってからというもの、
自分の自由な時間がいかに貴重かを思い知ったから、
なおさらこのズル休みの影響力は増した。
あと10年もすれば、娘からは「うざい!」と言われて、自ずと自由な時間が手に入るのかもしれないから、今だけの悩みかもしれないが。

よく遊び、よく働け。

遊びも仕事も楽しんだ者勝ち。

ワーママの場合、仕事や家事にちょっと手を抜くワザを覚えれば、さらによろしだ(笑)

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