緑豆綺譚(ビーフン炒め、チェー)|酒と肴 その六十三
自分で決めた事ですが、毎晩『闇金ウシジマくん』を読む暮らしは心を削りました。幽霊よりも怖い人の欲。今日も残暑のはずなのに、背筋のあたりがゾクッとします。
そんな休みを過ごしたせいか、もともと低いテンションがダダ下がり。ならばいっそ堕ちきってしまおうと、アジアの裏路地、酒に溺れるロクデナシを演じることにしました。
この手の遊び、とにもかくにも雰囲気が大事。
休日の昼、まずはエアコンを止めて窓を開け、湿気った空気を取り込みます。ちょうどご近所がベランダ喫煙中なのもいい感じ。世間はすっかり電子タバコですが、やはり葉っぱを燃やして煙が出なけりゃ、煙草とは思えません。
続いて、クレイジーケンバンドのヒルトップ・モーテルをかけながら料理をします。熱気のこもるキッチン、仕上げに青唐辛子の酢漬けをあしらって、東南アジア風、ビーフン炒めが完成。
ビールを呑みつつかき込めば、爽やかな辛味に汗が吹き出します。
今回の遊び、私の中では「女の稼いだ金で昼から酒を呑む」という設定。
職探しに必要だと言って金をもらい、行きつけの食堂で明るいうちから呑んじゃう悪いヤツ。場末のお店、薄暗い店内、天井のファンがかき混ぜる生ぬるい空気。そんなシーンを想像してくれれば、大体合ってます。ついでに言うと、料理を運んできた女性とも、ダラダラふしだらな関係があります。
食後には、前日から準備をしていたチェーを頂きます。冷えたココナッツミルクに緑豆やゆであずき、フルーツの入ったベトナムのぜんざい。日本ではあまり馴染みのない緑豆が、アジア感を演出します。
こちらの設定は「女が買ってきたチェーを、ひとり勝手に食べきってしまう」という修羅場。
仕事から帰ってきた女、シャワーを浴びている間にようやく起きてくる男。喉の渇きを覚え、テーブルにあったチェーを食べ尽くし、ついでに置いてあった財布から金を抜く非道。その後、喧嘩になって追い出され、コンビニスイーツを買って謝るまでがワンセットです。
なんて馬鹿げた妄想に浸っていたら、落ちた気分も上がってきました。一度底まで沈んだら、あとは浮かぶだけのタッチ&フロートの精神。まあ、お酒を呑んで、甘いものを食べれば、大概のことはどうでもよくなるんです。
極東アジアの片隅、ダメな男と幸薄女の緑豆綺譚。夫婦善哉の形は、人それぞれです。
メニューと材料
・ビーフン炒め(焼ビーフン、豚バラ、玉ねぎ、人参、青唐辛子酢漬け)
・チェー(ココナッツミルク、緑豆、ゆであずき、白玉、マンゴー、バナナ、砂糖)