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【ピリカ文庫】うろこ雲|酒の短編08

素面だと何だか照れくさくて、会う時は二人お酒を飲んでいましたね。いつも残業終わりが同じくらいでしたが、合わせていたのはあなたもだったのでしょうか。

取引先からの帰り道、夕暮れの下を歩いた時のこと覚えていますか?ちょっと面倒だった案件、客先の工場から駅へ向かう川沿いの道です。

夏の終わり、土手にはムラサキツメクサが咲いていて、気持ちのいい風が吹いていました。先方との緊張感のあるやりとりを終え、あなたと他愛もない会話をして歩く道すがら、

「この風景を残しておきたい」

ふと、そんなことを思ったんです。

普段写真を撮らない私には不思議な感覚でした。きっとあの時が、自分の気持ちを意識した瞬間だったのでしょう。

本当はあなたの姿も収めたかったけれど、うろこ雲の空を撮るだけで精一杯でした。あらためて見返すと真っ暗で、写っていたとしても分かりませんね。

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あなたはこのあと飲むお店を探してくれていたから、写真を撮っていたことも気付いてなかったと思います。

今ではすっかり行きつけになったブルワリー。思えば初めて行ったのがこの日でした。お勧めしてくれたセゾンをきっかけに、クラフトビールも大好きになりました。

それからは本当に色々なお店に行きましたね。初めて旅行をする日、待ち合わせの東京駅で、明るいうちから酔っ払うなんて悪いことも教わりました。サーディンサンドも好きですけど、あのお店とサバサンドは今でもちょっと特別です。

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思い出はいつまでも綺麗なんですけれどね。


「で、二日酔いで朝メシは食べないくせに、たい焼きは食べられるんだ、この豚は?」

「言い訳は聞きません」

「豚の言葉は分かりません」

「え?たい焼きのうろこが、あの時の空みたい?」

「……覚えてたんだ。いやいやいや、今はそんな話じゃないし」

「半分くれるの?確かに夕べのビールは、一緒に飲みたくて買ってきたけどさ」

「二日目の、炙ったたい焼きもいいね。まあ、飲みきれなかった分は全部飲んでもらったもんね」

「このカリカリしたとこ好き。甘いの食べたら、しょっぱいの食べたい」

「サバサンド、東京駅のね。最後に旅行したのはいつだっけ?」

「いいね、行けるようになったら北海道かな。夕日を見て美味しいもの食べて」

「そう、夜はホテルで飲みながらバターサンド」

「ごちそうさま。具合、早く良くなるといいね」

カーテンを揺らす風から微かに秋の気配がします。現実もまだ、綺麗でいられそうです。

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今回はピリカさんに機会を頂き、ピリカ文庫に書かせて頂きました。P-1グランプリに投稿した短編と関連しています。ピリカさんありがとうございました!


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豆千|本と豆料理
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