僕の姐さん(あんバタ)|酒と肴その九十九
私の心に住むマリー・アントワネット、気付けば長い付き合いになりました。出会いは、小学生の僕ちゃんの頃に見たベルばらの再放送ですから、もはや家族みたいなもんです。
ええ、ナンノコッチャですよね。
心のアントワネット様(専業主婦・永遠の37歳)は、日々の暮らしの中で生まれた別人格みたいなもんでして、悩める時や四季折々のタイミングに現れ、普段の私には無いご意見をくれる存在です。摂り過ぎたアルコールが魅せる幻って説もありますが、現実と同じくらい、ロマネスクも大事だと思いませんか?
ベルばらは大学生の時に原作を読み、そこがツンなアントワネット様のピークでした。だけど長年一緒に過ごしていますと、今ではデレを通り越してすっかりダレきった関係。いずれはカレ果てた未来が浮かびます。
なんて具合ですから、近頃は「パンがなければ、Uber Eatsでいいんじゃない?」と間違った方向でのお姫様アピール。髪は相変わらず盛ってますが、サイドは大胆な刈り上げです。夏木マリさん、もしくはイノサンRougeのマリーの影響と思われます。
ところが先だっての休日、あんバタが食べたくてあんこを炊こうとしたところ、
「きょうは……
イ…チゴがたいへんお安いですこと!」
と珍しくツンな言葉を頂きました。
新年の宴でデュ・バリー夫人に声掛けた時を思わせる、ためらいと覚悟が秘められたご発言。誇り高さが感じられる態度に、オスカルさんではありませんが、あらためて忠誠を誓ったのであります。
いつもなら手を出しませんが、早速スーパーに馬を走らせ買ってきました。
最近になってイチゴの価格もようやくお値頃になってきましたね。もう少し下がったら、たくさん買ってコンフィチュールにしたいところ。ミルクプリンと一緒に食べるのが大好きです。
さて、小豆のアクを取っている時は手持ち無沙汰なので、アントワネット姐さんと何でもない話をします。お互いの家族のことや在りし日の恋愛、加齢に伴う悩み、話題は尽きません。
そうこうしているうちにあんこが炊けて、念願だったイチゴたっぷりのあんバタトーストが出来上がりました。
イチゴの香りで満たされた2DKのプチ・トリアノン、他に見ている人はおりません。大きな口で頬張れば、瑞々しい果汁とほのかな酸味が広がり、後からあんことバターのコクが混じり合っていきます。
あんバタに合わせる飲み物はコーヒーやワインもいいですが、コエドブルワリーのIPA、毬花を選びます。色も読みも似ていますがこちらはマリハナ、マリファナではございません。あちらはおフランスでも違法なのでご注意ください。
やがて夕暮れが訪れ、満ち足りたように微笑むアントワネット様の横顔。その心には誰のことを思い浮かべているのか、聞きたかったけれどやめておきました。
姐さんと僕のよもやま話、またどこかでお披露目出来ればと思います。
メニューと材料
・あんこ(小豆、砂糖、塩)
・イチゴのあんバタ(食パン、イチゴ、あんこ)
※アントワネット姐さんとの、これまでのエピソードを集めてみました。