満ち満ちて、粒あん(あんバタ)|酒と肴 その二十三
大人になると夜が増えます。眠れない夜、トイレが近い夜、ひたすら甘いものを食べたい夜、だいたいこの3つです。
前ふたつはお薬という選択肢がありますが、最後については実食しないと落ち着きません。そんな時は数少ない甘味レパートリーから、小豆を煮てあんこを拵えることにしています。
お菓子作り。その闇に手を染めた方はご存知の通り、ほとんどのスイーツは常軌を逸した量の白い粉を使います。今回は200gほど使いましたので、これが覚醒剤だったら末端価格で1千万円ぐらいでしょうか。
そう思うといつもの店で仕入れたブツがお金に見えてくるのは、投資信託で失敗したからです。ちなみに白い粉をスプーンで炙ったら、美味しいカラメルができました。
老後資金を言い訳に、ちょっとお小遣いを増やそうとした助平心だったのです。ギフト券につられた銀行で、勧められるままに買った金融商品。世界的には株高らしいですけど、どうやら私が暮らしているのは今流行りの「異世界」のよう。転生したらチートのはずなんですが、どこで間違ったのでしょうか。
話をあんこに戻します。
小豆は浸水して戻さなくても済むので、思いついたらすぐに料理ができて便利です。今夜はどうにも眠れそうにありませんので、料理という名の現実逃避を始めることにしました。
家族が寝静まったアパート、コトコトとガスコンロから聴こえる音をBGMにキーボードを打っていると、心が穏やかになっていくのが分かります。煮えた豆をつぶして、あんこに練っていくのもリズムが変わって楽しいものです。
気がつけば0時を過ぎました。出来立てをぱくつく頃には眠気がやってきて、最初の意気込みほど食べられないのも中年あるある。そんな時は無茶をせず、歯を磨いてさっさと布団に入ります。
翌日、コッペパンを買ってきて「あんバタコッペ」に仕上げました。前夜のポテサラが残っていたので、挟んでみるとこちらもいい具合です。
最初は牛乳で頂こうと思っていましたが、こうなるとビールの方が合う気がしてソワソワ落ち着きません。急遽変更して昼ビールをキメたのは、当然ながら言い訳です。
ひと口かじれば、あんこの甘味とバターのコク、塩気が混じり合って口福が広がります。冷えたビールでリセットすれば、いつまでも新鮮な味わいが繰り返されていい塩梅。いつの間にか損失のことはすっかり忘れて、春の空みたいに優しい気持ちと多幸感に包まれていきました。
それにしても甘いものってどうしてこんなに美味しいのでしょう?調べたら砂糖を摂るとドーパミンがドバドバ出るみたいです。つまりおクスリやお酒と変わりません。そりゃ人類が大好きなのも納得です。
明日からまた、コツコツ頑張ります。
メニューと材料
・あんバタコッペ(小豆、白い粉、塩、バター、パン)
頂いたサポートで酒を呑み、それを新たな記事にすることで「循環型の社会」を実現します。 そんなほろ酔いで優しい世界、好事家の篤志をお待ちしています。