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松下幸之助氏の「想い」とサステナビリティ経営/SX

国家国民の繁栄と発展のために

10月6日付日経新聞に『貯蓄から投資へ未完の挑戦 「1億総株主」幸之助翁の先見』と題する記事が掲載されていました。これは、日本の家計金融資産が貯蓄から投資へとシフトすることの重要性について解説したものです。

その題材となっているのが、パナソニック創業者の松下幸之助氏が、今から半世紀以上前の1967年に雑誌「PHP」に発表した「株式の大衆化で新たな繁栄を」と題する論文です。

本論文を通して松下幸之助氏は「株式会社が健全にして安定した経営を行い、株主も健全にして安定した姿でそれを長期的に応援していく事が、国家国民の繁栄と発展のために重要である」という趣旨の提言を行い、その実現に向け、政府、企業、金融機関、個人がそれぞれ取り組むべき課題を示しています。

  • 政府:国民の株式所有の奨励及びそのための具体的な奨励策や優遇策の実行

  • 企業:株主重視の姿勢(株主の利益を第一に考える)

  • 金融機関(ここでは証券会社を指す):個人株主を出来るだけ多く作る

  • 個人:株主本来の使命を自覚し、短期売買を戒め、永久に株を保有するぐらいの長期投資の心構え

これらは現代でも十分に通用する提言ですが、日経記事では松下幸之助氏の考え方を補足する形で、企業と金融機関に対しさらに以下のことを求めています。

  • 企業:稼ぐ力の向上やガバナンス改革の加速など企業価値を高める経営努力

  • 金融機関:優良企業を選別する運用力やパフォーマンスを安定的に上げ続ける運用商品の開発力

企業と金融機関の役割とは

松下幸之助氏の論文及び日経記事は、日本の家計金融資産を対象に「貯蓄から投資へのシフト」を促すものです。これは政府の方針にも謳われている政策ですが、資産形成についての考え方は個人の価値観にも依存するものであり、本noteでその是非を論じることはしません。

重要な点は、その目的実現の前提となるのが、企業と金融機関が資本市場において互いに切磋琢磨し、国家国民の繁栄と発展のために、それぞれの役割を真摯に実行することだと思います。

「それぞれの役割」について、サステナビリティ経営研究家の立場からは、以下のことを求めたいと思います。

  • 企業:持続的な企業価値創造(社会価値と経済価値の同時実現)を目指すサステナビリティ経営への注力

  • 金融機関:建設的な対話・エンゲージメントを通した企業の後押し(企業が創造する価値への的確な評価・判断及び適切な資金提供など)

これらは表現が異なるものの、基本的には、日経記事が求めていることと軌を一にしています。以下、企業に求められるサステナビリティ経営について説明します。

サステナビリティ経営とは何か

サステナビリティ経営とは、先ず、自らの価値観(存在意義やパーパス等)及び長期的な社会環境変化(メガトレンド)に基づく長期ビジョン(重要な社会課題の特定を含む)を描き、その実現に向けてビジネスモデルを変革(経済価値と社会価値を両立させるビジネスモデルの構築)することです。

そして、戦略に落とし込み(事業ポートフォリオの最適化、経営資源の配分・強化等)、他企業や大学、政府・国際機関、NPO/NGOなど様々なステークホルダーとの協働を通して戦略を実行します。

その上で、そのプロセス及び成果(財務インパクト、環境・社会インパクトの両方)を測定・開示し、投資家を始めとするステークホルダーとの対話・エンゲージメントを通して、自らのビジネスモデルや戦略をより強靭なものに練り上げ、持続的な企業価値の向上に繋げていくという長期視点の経営のことです。

これは、経産省が提唱しているサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)と同義です。

8月30日に経産省が公表した「伊藤レポート3.0(SX 版伊藤レポート)」によれば、SXとは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を指します。

ここで「同期化」とは、社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を行うことを通じて、社会の持続可能性の向上を図るとともに、自社の長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上と更なる価値創出へと繋げていくことを意味しています。

まとめ

企業が短期的な業績のみに捉われることなく、長期視点でサステナビリティ経営に注力し、金融機関が建設的な対話・エンゲージメントを通して、そのような企業を積極的に後押しする。このような「好循環」を作っていくことが健全な資本市場の形成と発展に繋がります。

国家国民の繁栄と発展を願い、50年以上も前に松下幸之助氏が提唱した家計金融資産の貯蓄から投資へのシフトは、そのような確固たる基盤があってこそ、円滑に進展する可能性が高まるものと思われます。


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