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バレエ台本『胴元と花売り、そして天使』

一幕のバレエ
 
登場人物
 ノミ屋の胴元
 花売りの女
 天使
 ブルドーザー2台


背景は表現主義の手法で描かれた摩天楼の書割。歪んだ騒音。歪んだライト。

   第一景
ここは大都会の陰の部分。場末の一角である。
いかがわしさ満載のノミ屋の胴元が手にポケットラジオを持ちアンテナを立てて競馬中継の放送を流しながら現れる。ラジオに耳をくっつけてはニヤニヤしたり怒ったり落ち着きがない。しばらくしてスマホを取り出して電話をかける。何やら大声で喚いたり懇願したり命令したりと大袈裟だ。スマホを仕舞うとまたラジオの競馬中継を流す。今度は終始ご機嫌である。花売りの女が現れる。首から下げた箱に造花の花を入れて酒場や街角で売り歩いているのだ。如何にも幸薄そうな女である。胴元に花はどうか、と売り込みをかける。胴元は機嫌がよいので財布から札を渡す。女は花を胴元の襟元に挿す。胴元は帽子を取り、腰を屈めてお辞儀をする。ダンスに誘っているのだ。女は驚き断るが、胴元は再度懇願する。数回繰り返す。胴元はラジオの放送局を音楽専門の局に変える。流れる曲は哀愁を帯びたタンゴである。渋々女はダンスをする。始めは嫌々だったが次第に興奮していく女。非常に幸せそうである。やがて疲れた二人はダンスをやめて荒い息を吐く。女は襟を正して落ちた造花を拾い集めて箱に戻し去ってゆく。

   第二景
胴元は再びラジオで競馬中継に変える。そこへ天使が舞い降りる。天使は胴元の手からラジオを奪い取る。ラジオのボリュームを上げたり下げたりして遊んでいる。胴元には見えないようだ。胴元はラジオを持った格好で動きを止める。天使はチューニングを株式相場の放送に合わせる。天使の輪が光り出す。どうやら大儲けしたようだ。天からドル札が降ってくる。その途端胴元は動き出す。天から降るドル札に大喜び。胴元と天使は手を取り合って舞う。しばらくして書割の街が崩れ落ち舞台はドル札で文字通り埋まる。胴元と天使はドル札に埋まってしまう。最後はドル札の海から手を出してバイバイの仕草で終わる。
溶暗。

   第三景
溶明。
上手下手からそれぞれブルドーザーが現れる。勿論ダンサーが二人でブルドーザー一台を演じる。舞台中のドル札を次々と処理して上手下手を往復してゆく。数往復する頃にはドル札はほぼ消え、胴元と天使が現れる。今度はブルドーザーが胴元と天使、それぞれを持ち上げて上手下手へと連れ去ってゆく。幕。

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