バレエ台本『それでもアンドロイドは美しい』【二幕のバレエ】
登場人物
男
女/アンドロイド
マッドサイエンティスト
ギャングたち
プロローグ
場所はニューヨークの場末。騒音の街。
下手から男と女が手を取り合って逃げてくる。車のヘッドライトに照らされる二人。
黒いスーツ、黒いネクタイ、黒いズボン、黒い革靴の男(ギャング)たちが下手から現れ、二人に銃を向ける。慄く二人。銃声。二人倒れる。ギャングたちは去ってゆく。
第一幕
第一景
ニューヨークのどこかにある倉庫を改造したマッドサイエンティストの実験室である。背景は煉瓦造りの堅牢な壁に大きな窓が二面あり、ニューヨークの摩天楼が見える。マッドサイエンティストの実験室らしく、色々な実験機器で部屋中埋め尽くされている。下手には外へ通じるドアが上手手前にソファが上手奥からは台所に通じている。
マッドサイエンティストは白衣を着て試験管を振ったり、試液を垂らして爆発させたりと色々忙しく立ち振る舞っている。
第二景
ドアをノックする音がする。マッドサイエンティストは気にせず自分の作業に没頭している。ノックの音が次第に大きくなる。マッドサイエンティストは諦めたかのように作業を止めてドアを開ける。
第三景
男が血まみれの女を抱きかかえて現れる。唖然とするマッドサイエンティスト。暫し思案に暮れている。焦っている男。やがてマッドサイエンティストはソファを指さす。男は女をソファに寝かす。マッドサイエンティストに懇願する男。マッドサイエンティストは部屋中行ったり来たり忙しない。
第四景
マッドサイエンティスト、男を連れて上手から出てゆく。
やがてベッドを二人で担いで現れる。ベッドを舞台中央に置く。そして女をベッドに寝かせる。男は心配気にベッドの周りを踊る。マッドサイエンティストはそんな男にお構いなく背中を向けて作業に没頭する。
暗転。
第五景
前景と同じ場所。但し時間が経過している。ソファに腰を掛けてうつらうつらしている男。マッドサイエンティストはベッドで女に手術を施している。
暗転。
男は完全に寝ている。
暗転。
男はいびきをかいている。
暗転。
男はソファから転げ落ちる。その間マッドサイエンティストはずっと改造作業をしている。
暗転。
第六景
朝が来る。窓から光が差し込む。ようやく手術が終わった。マッドサイエンティストは安堵を浮かべて煙草に火を点ける。煙をゆっくり吐き出す。ソファまでゆき男の顔に煙を吹きかける。目覚める男。咳き込み、大きく伸びをする。ソファから降りてようやく事態を察する。マッドサイエンティストは咥え煙草で男をベッドまで案内する。男は驚きを隠せない。マッドサイエンティストは煙草を床に投げ捨て足で消す。動かない女。男は女を起き上がらせるが起き上がらずにベッドに倒れる。女の姿は元の姿とかけ離れている。半分人間で半分機械なのだ。男はマッドサイエンティストに詰め寄る。マッドサイエンティストは男を制して背後の電源用レバーを引く。
すると舞台一面光り出す。電気が女に流れているのだ。唖然とする男。満足気のマッドサイエンティスト。
女(以降アンドロイド)はゆっくりと起き上がり、ベッドから降りて客席をじっと見据える。
幕。
第二幕
第一景
同じ場所。但しベッドや実験器具は全て片付けられている。中央にアンドロイドが仁王立ち。男はひれ伏して懇願している。マッドサイエンティストは窓から外を眺めている。男はアンドロイドの気を引こうと踊るが、アンドロイドは邪険に扱う。
男はマッドサイエンティストに懇願する。マッドサイエンティストはアンドロイドのところに男を連れてゆき、握手させようと試みるが二人ともアンドロイドの馬鹿力で吹っ飛ばされる。
男は立ち上がり、ドアから出てゆく。
第二景
アンドロイドは嬉しそうに部屋中駆け回る。マッドサイエンティストはソファに寝転んで煙草を吹かしている。
第三景
男が食料品の袋を抱えて現れる。マッドサイエンティストに台所はどこかと尋ねる。マッドサイエンティストは上手を指さす。男は口笛を吹いて上手に去ってゆく。
第四景
テーブルと椅子が用意されている。男は椅子を下げてアンドロイドに座るように促す。マッドサイエンティストにも同様に。その後、上手から出入りしお盆に湯気の立った料理を次々とテーブルに供する。最後に火を点けたロウソクを置いて完成させる。
男は着席し、二人に食べるよう促す。が、アンドロイドは食べようとしない。男はあの手この手で食べさせようとするがアンドロイドは逆にテーブルの食材を次々と投げ捨て、最後はテーブル上の食器等を全て床にぶちまける。
第五景
そんなアンドロイドの狂態を見て満足気なマッドサイエンティストはアンドロイドに恋をしてしまう。男がバケツとモップを用意して割れた食器やぶちまけられた食材を片付けている隙にマッドサイエンティストはアンドロイドに愛を囁く。が、同様にアンドロイドはマッドサイエンティストも床に叩き付け邪険にする。
第六景
ソファにふんぞり返っているアンドロイドの靴を磨く男。マッドサイエンティストはアンドロイドの肩を揉んでいる。ただ二人はアンドロイドを取り合う為に静かに闘志を燃やしている。
アンドロイドは立ち上がり、もうマッサージや靴磨きは不要とジェスチャーで示して踊り始める。二人はその後を追う。アンドロイドは二人が自分に気が有るのを満更でもない様子だがわざとつれなくする。
二人はいかに自分がアンドロイドを愛しているか、それぞれ踊りで表現する。
それを見て満足気に煙草を吹かすアンドロイド。
第七景
ドアが蹴破られ、ギャングの集団が三人を銃撃する。次々倒れる三人。ギャングたちは去ってゆく。
第八景
アンドロイドは立ち上がり、死体になった二人を跨いで上手へ去ってゆく。暫くしてガソリンが入ったタンクを持って現れる。ガソリンを部屋中にまき散らし、最後にマッチを擦って火を放つ。
炎に包まれた部屋を暫し眺めてドアから出てゆく。
幕。