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バレエ台本『砲台のある町』【三場のバレエ】

登場人物
 妖精A
 妖精の女王
 その他妖精たち
 兵士たち
 町娘
 町娘の友人たち
 花売りの娘
 大学生の青年
 お年寄り
 その他町の人々
 
 
時代は現代、もしくは二十世紀中盤から後半のどこか。あるいは十九世紀かもしれない。
場所は東ヨーロッパを想わせる辺境にある田舎町。

 
第一場
   第一景
背景には山や谷が描かれている。舞台奥には階段状になった砲台があり、大砲が一門鎮座している。大砲の上に妖精Aが座っている。砲台脇にテントが張ってあり、その周りで食事の用意をしている当番兵たち。新聞を読んでいる兵士たち。チェスをしている兵士たち。カード遊びに興じる兵士たち等々、とても戦時中とは思えない平和な場面である。
食事の用意ができたという当番兵の合図(鍋を叩く)があり、兵士たちはそれぞれ重い腰を上げて、雑談しながら食事の配給の列に並ぶ。配給の量が少ない、他の兵士の方が量が多い、苦手なものがあるので入れないでくれ等で揉めたりするが、無事に食事を受け取った者から順にそれぞれ腰を地べたにおろしたり、階段に座ったり、壁に凭れかかったり、椅子に座ったりと好き勝手に食事を摂り始める。妖精Aは大砲から飛び降りて兵士たちの食べ物を順繰りに覗き込む。皿のスープに指を突っ込んで(熱くてびっくりする)舐めたり(美味しい!)、あくびをしたり、兵士たちにちょっかいをかけたり(但し兵士は気付かない。妖精の姿が見えないのだ)している。兵士たちは和気あいあいと雑談しながら食べている。
 

   第二景
町娘の登場。カバンを肩から掛けている。学校帰りである。町娘をからかう兵士たち。軽くあしらう町娘。普段から慣れているようだ。町娘の踊り。手拍子で囃す兵士たち。次いでひとりの兵士が立ち上がり、町娘に踊りを申し込む。一緒に踊るふたり。負けじと他の兵士たちも踊りに加わる。さらに花売りの娘、大学生の青年、町娘の友人たち、お年寄り等近所の人々も加わり大いに賑わう。花売りの娘は花を撒き散らし、大学生や兵士たちは花売りの娘を追いかける。町娘の友人たちは兵士たちと会話をする。あるふたりの兵士が町娘の友人たちにデートを申し込む。友人たちは恥ずかしがってうつむきながら互いの顔を見ている。だが満更でもなさそうだ。お年寄りは静かに歩いている。その他の人々もおしゃべりを楽しんでいる。
 

   第三景
サイレンの音。空襲の合図である。兵士たちは慌てふためいているが隊長の指示のもと大砲に砲弾を詰めたり、大砲を頭上の(見えない)飛行物体に照準を合わせたりと忙しい。兵士以外の人々は散り散りに立ち去る。その間、妖精Aは兵士の残した食べ物を食べている(人間のものに興味があるのだ)。
 

   第四景
爆弾が落ちた音がする。点滅する照明。ストップモーションで次々と倒れる兵士たち。
 
暗転。
 
 

 
第二場
   第一景
暗闇の中から妖精Aが浮かび上がる。ここは妖精の棲む世界である。舞台は一面漆黒に覆われている。妖精Aの踊り。そこに他の妖精たちが加わって踊る。妖精Aに語りかける他の妖精たち。人間世界のことを尋ねているのだ。絶望的な仕草で泣き出す妖精A。慰めようとするがどうしていいか判らない他の妖精たち。
 
 
   第二景
妖精の女王登場。その後に人体模型を抱えた妖精たち、人体模型を載せた大八車を引く妖精たちが続く。女王の命令でそれぞれ人体模型を地面に山積みする。その周りを取り囲む妖精たち。妖精たちの踊り。やがて妖精たちは一人一体、人体模型を抱えて退場する。ひとり取り残される女王。そこへ妖精Aが女王のもとにひざまずく。彼女の手を取る女王。そして立ち上がらせる。女王は客席を指す。

暗転。



 
第三場
もとの砲台があった場所。爆撃後の風景。以前の面影はない。焼け焦げた建物。まだ燻っている煙。凸凹の道路。崩れ落ちた壁。但し死体は存在しない。
ひとり生き残った兵士がいる。そこへ妖精Aが現れる。兵士、妖精Aに気付く。今度は見えるのだ。兵士と妖精Aは手を取り合って踊る。実に楽しそうだ。永遠に終わらない踊り。
しばらくして、花を撒き散らす花売りの娘を先頭に全ての登場人物が現れる。手には机や椅子、料理の入った熱々のお鍋に食器やグラス、燭台、酒瓶等々持っている。皆で宴の準備をする。全員着席すると同時に華やかな宴が始まる。

幕。
 

2022年7月1日から12日 
13日加筆


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