第五夜

こんな夢を見た。
ぼーっとベランダから外を眺めている。春の強い風が吹く。伸びかかった髪が顔を覆う。鬱陶しいと思いながら、煙草を支度する。瞼にかかる日差しが柔らかい。大変いい気分だが、思い出したようにくしゃみをした。ああ、花粉症じゃなかったのに。涙ぐんだ目をこすってみる。痒い。

ほんのり街が明るくなる。優しい紅色と少しの白色が彩りを加える。サラダだったなら、今が食べ頃だろう。温泉卵とトマトかな。酸っぱくないといいなぁ。

駅のホームではたくさんの人がいる。皆、何かしらの画面に夢中だ。交流のない街だと思ったら、近くでお年寄りが話している。目元のしわが今までの苦楽を物語っているのだろうか。素敵な方だと思った。

春が来てしまった。煙草が妙に煙たい。美味しい風味が広がる。涼しい味のような、お酒のような。酔っ払わないから不思議だ。

思い切り伸びて、目をこする。のどかな景色が変わり、厚い雲がやってきた。雨だ。慌てて家に入る。窓から眺めた空は、一段と重かった。少し耳が痒い。ぽりぽりとかいた。早く晴れないかな。近くの皆藤さんの家のブロック塀に登りたい。美味しいもの、また落ちてないかな。不思議だ。いつもあんなに美味しいもの、落としているなんて。面白い人だ。

ごろっと喉を転がすと、空模様が明るくなった。案外晴れるまで早かった。皆藤さんの家へ行かねば。少しだけ首元を整えて、窓からそっと這い出した。