第二夜

こんな夢を見た。
気がつくとそこは、水の中だった。全身の至る所から呼気が溢れ出ていく。死を間近に感じそうなこの瞬間を淡々と過ごしていく。
「あれ、お風呂の換気扇止めたっけ?うーんと、ガスの元栓は?っていうか、家の鍵締めたっけな…。」
とてもどうでも良いことばかりが浮かんでくる。これが走馬灯というやつだろうか。ああ、なんて空っぽの人生だったんだろう。というか、空っぽになってしまったんだろう。

ぶくぶくぶくん、初めてストローでジュースを吹いた時のような泡に変化してきた。いよいよお終いが近いんだろうか。なんだか身体全体が温かくなってきた。フランダースの犬のネロもこんな気持ちだったのかな。もう少し感情を入れて観ておけばよかったな。

最期のとき、きっと「ありがとう」の方が多い人になりたいと思っていたのに、いざその時を迎えると些末なことばかりが邪魔する。「死」という確実に迫りきた感覚を前にしたときにだけ、覚悟が決まり、明日の先にある不安を気にすることを止めることができる。残りの時間で何人に「ありがとう」を伝えられるだろうか。物理的には不可能でも、なんとかテレパシーで伝えたい。

パチパチパチン、身体から音が溢れ出た。まるで開けたてのサイダーの泡が集合するときのような音だ。身体に穴が空き始めた。いよいよこれまでだ。さらばだ、世界。

次はジャスミンに生まれ変わりたい。