第八夜
お盆に合わせて帰省の支度をしている。天国と地獄マンションの3階に住む僕は、可もなく不可もなくの部屋に住んでいる。心無しかエアコンの効きが悪いのだ。3階に課せられし、地獄なのかもしれない。
現世へのゲートには持ち物検査がある。ちょうど搭乗するときみたいな形だ。許されているのはボストンバッグ1つ分。大きいぬいぐるみは入らない。この間、閻魔大王様にもらった可愛いぬいぐるみを家族にも見せたかったな。
5日分の着替えと2種類の香水、身なりを整えるグッズを詰め込む。綺麗な姿で会いたい。ヘアアイロンも入れておこう。念の為ね。綺麗な髪の毛で会いたいもんね。
本当はその人にいただいたものを身につけて会いに行きたいけれど、ボストンバッグに入りきらない。今回の帰省では、何人に会いに行けるだろうか。本当は最新作の映画も確認しに行きたいけれど、ゆっくり過ごしたくもある。
そうだ、手土産の用意をしていない。手土産にもプランがある。例えば、花火を打ち上げる人もいるし、ラジオをジャックして好きな曲プレイリストをかける人もいる。今回はどうしよう。2度目の帰省となると、あんまり力が入りすぎるのも気恥しい。うん、これにしよう。決めた。
いよいよゲートへ向かう。今日のBGMは夏のアルバム。好きな曲を詰め込んだ特性MD。気持ちの良い風を感じられる。気持ち早めに出すぎてしまって、随分待った。やっぱりお盆は混んでいる。
彷徨うこと3時間。実家の屋根に着いた。パラシュートを外して、縁側へ急ぐ。少し悲しそうな顔をしている家族をみるのは苦しいけれど、帰ってきたことを知らせるために風鈴に触れる。それでも気づいて貰えない時はおならをする。生前の約束を果たしたら、きっと笑ってくれると思う。
しばらくして、仏壇のお饅頭をいただいた。それから、お庭にひまわりの種をなるべくたくさん撒いた。本当は百合が良かったけれど、少し高くて買えなかった。来年は百合にする。
近況は鏡を通してみていたけれど、髪を切ったのが似合っていたり、髪を染めていたりする。服の趣味が変わった人もいる。付き合う人が変わったのだろうか。少し似合ってない。
会いたい人が居たが顔を見る勇気がなかった。気合いを入れて身なりを整え、ヘアアイロンもかけた。マスカラまでしたけれど、会ったら呪いになってしまいそう。禁忌に触れるのも悪くないのかもしれない。
結局5日経ってしまった。約束だから遅れないように戻らなきゃいけない。遅れると幽霊コース決定だ。もう閻魔大王デパートのパートも出来なくなる。百合が買えない。
渋々帰る。帰るときのコツは振り返らないこと。風鈴を2回鳴らしてから、浮き上がる紙風船を用意する。広げたらもう、さようならだ。
気がつくといつもの景色が豆粒になる。来年はもう少しだけ良い手土産に出来るよう、日々を過ごしてみようと思う。死してなお勤勉な自分に嫌気もさすから、やっていられないな。