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ゲリジム山とモリヤ山

ゲリジム山とエバル山以外にも、サマリア人はモリヤ山とも対立しています。つまり、崇拝の中心としてエルサレムの神殿を認めているか、いないかという問題です。

現在でもサマリア人は、ゲリジム山に集まって崇拝を行っていますが、それはネヘミヤの時代(前5世紀頃)、モリヤ山に再建された第二神殿の向こうを張って、サマリア人がゲリジム山に神殿を建てたことに由来するとされています。しかし、もう少し掘り下げて調べると面白いことが見えてきました。

サマリア人は、ゲリジム山での崇拝はアブラハム(それにヤコブ)にルーツがあると主張しています。「アブラハムがイサクを犠牲にしようとしたのは、モリヤ山ではなく、ゲリジム山である」ということなのです。

創世記22:1-2「さて,こうした事があってからであるが,[まことの]神はアブラハムを試みられた。そして彼に,「アブラハムよ」と言われた。それに対し彼は,「はい,私はここにおります!」と言った。2 すると,続いてこう言われた。「どうか,あなたの子,あなたの深く愛するひとり子イサクを連れてモリヤの地に旅をし,そこにおいて,わたしがあなたに指定する一つの山の上で,これを焼燔の捧げ物としてささげるように」。」

新世界訳聖書-参照資料付き

Wikipediaにあるモリヤ山の項目の最後には、サマリア五書では「モリヤの地」を「シェケムの場、モレの樫の木」と結び合わせており、登った山をゲリジム山としているということが紹介されています。

サマリア五書では、モリヤを「モレ」として、「シェケムの場、モレの樫の木」と結びつけている。そして、シェケムの南側のゲリジム山を「モリヤ」と見なしている。

Wikipedia「モリヤ山」

どちらが正しいのでしょうか?

アブラハムがイサクを犠牲にしろと指示された時の記録を「いつ・どこで・だれがゲーム」式に書き出して考えてみましょう。

・ベエル・シェバからモリヤの地へ
・アブラハム・イサク・従者2人の4人で
・薪と屠殺用の刃物だけ持ち
・ロバに乗り(一頭だけか?)
・朝早く出かけ
・3日目にその場所が遠くから見えるようになった

ということです。
ここから考えてみると、意外な事実が浮かび上がってきました。

■距離について

ベエル・シェバからモリヤ(エルサレム)までは、徒歩で歩き続けた場合20時間ほどでつきますが、遠くから眺めてモリヤ山は見ることができません。

ベエル・シェバからモレ(シェケム)までは、徒歩で歩き続けた場合は33時間ほどでつき、遠くからも確認できるような山があります。
(所要時間はGoogleマップの交通案内で調べました。)

夜道は行かなかっただろうことを考えても、エルサレムは近すぎます。

昔の人は、今の人たちよりも徒歩で行くことになれてもいただろうし、しかも老人アブラハムはロバに乗ったようです。33時間ほどかかるシェケムのほうが現実味がある気がします。

■地名について

アブラハムは神から「モリヤ山に行け」と言われたのではなく、「モリヤの地に行け」と言われています。

そして「モレ」と「モリヤ」では

moreh → מורה
moriah → מוריה

このように1文字しか変わりません。

■由緒について

キリストとその祝福を表しているというのはヘブライ書での言及にもあるとおりなのですが、エルサレムについては「サレムの王」が若干関わっていると言えるだけです。

ヘブライ書7:1〜3「このメルキゼデク,つまりサレムの王,また至高の神の祭司であり,王たちの討伐から帰るアブラハムを出迎えて祝福し,2 アブラハムがすべての物のうちその十分の一を配分した人ですが,[このメルキゼデク]は,訳せば,まず第一に「義の王」,次いでまたサレムの王,つまり「平和の王」です。3 彼は,父もなく,母もなく,系図もなく,生涯の初めもなければ命の終わりもなく,神の子のようにされていて,永久に祭司のままです。」

新世界訳聖書-参照資料付き

しかし、シェケムのモレの大木林の場合、アブラハムはそこで「あなたの胤にこの地を与える」という、神からの大切な約束をいただいていますし、そこで祭壇を築き、神に犠牲をささげてもいます。

創世記12:6〜7「そしてアブラムはその地をずっと進んでシェケムの所,モレの大木林の近くにまで来た。その当時カナン人がその地にいた。7 ときにエホバはアブラムに現われて,こう言われた。「あなたの胤にわたしはこの地を与えよう」。そののち彼は,自分に現われたエホバのためにそこに祭壇を築いた。

新世界訳聖書-参照資料付き

シェケムはヤコブも住み、ヨセフの墓もある、肥沃でよい土地です。約束の地の南北を「ベエル・シェバからダン」とすると、シェケムはちょうど中央にくるそうです。

こういった事実からも、私はモレ説は強いのではないかと思っています。

胤=イサク、地=約束の地であれば、アブラハムにとって神の宣言をいただいたモレの地、シェケムに向かうのが妥当であるとも単純に考えられます。

では、アブラハムはモリヤ山に行っていないのであれば、モレの地にあるエバル山とゲリジム山、どちらに行ったのだろう?

この話、続きます。